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ダイオキシン体内負荷量の考察 06.26.99






 ダイオキシンの一日あたりの新しい許容摂取量(TDI)が4pg/kg/日になったことは、すでに報告済みである。この体内負荷量というものは、半減期がある毒性物質の体内における蓄積量の計算を伴う。すなわち、毎日毎日ある量を摂取したとき、その毒性物質は、ある割合で減少していく。それに新しく摂取したものが加わって、その日の蓄積量になる。
 こんな現象は、物理学や化学の世界では良く有ることで、そのために指数関数などというものができたと考えられる。
 指数関数をお忘れの方向けに、体内負荷量の考察を行ってみたい。


C先生:今日は数学の講義だ。指数関数のおさらい。A君よろしく。

A君:まず、いきなり図を出します。


    図  縦軸=体内負荷量    横軸=月
    毎月120pg/kg摂取、吸収率50%の仮定による体内負荷量
    今回決められたTDIはこんなケースを想定している。

A君:何も軸に説明がありませんが、横軸が月、縦軸が蓄積量です。この計算ですが、本来毎日毎日ダイオキシンを摂取した場合を考えなければならないのですが、それを30年分も計算してグラフに書くのが面倒だったもので、1ヶ月を単位として考えています。毎月の1日に、120pg/kgのダイオキシンを摂取するものとします。1日当たりにすれば、4pg/kgということになりまして、今回決まった新しいTDIの値ということになります。摂取したダイオキシンは、このグラフの場合には、100ヶ月で半減することにしてあります。今回のTDIでは、7.5年、すなわち、90ヶ月ですから、まあ近い値です。100ヶ月にしたのは、便宜上で他意はありません。却って厳しい状況になるだけです。
 さて、この図から分かることがいくつか有ります。

(1) 毎月毎月どんどんと摂取していても、体内の濃度はある一定値を超すことは無い。ある値に飽和してしまう。
(2) 半減期(今の場合100ヶ月)のところの濃度は、飽和する濃度の丁度半分である。

(1)の飽和値は計算が可能で、その値は
  飽和値=毎月の摂取量*半減期/ln2
となります。lnは自然対数です。この例の場合ですと、100/2*100/ln2=8600になります。2で割っているのは、今回の厚生省・環境庁のTDIの算出時にも同様の仮定があるのですが、ダイオキシンの吸収量を50%としていることによります。8600pg/kgという値は、今回のTDIの算出の際に使用された86ng/kg=86000pg/kgという体内負荷量の10分の1でして、これが安全係数として10という値を採用していることを意味するのです。

(2)ですが、100ヶ月目の値が飽和値の半分、すなわち4300ぐらいになるということです。飽和値になるには、半減期の大体4倍ぐらいの期間が掛かります。

B君:分かった。良く分かった。ところで、突然ある事故かなにかが起きて、大量のダイオキシンを摂取したらどうなるの。

A君:それでは次の図を見てください。


         図 縦軸=体内負荷量  横軸=月
    100ヶ月目に事故でそれまでの日常的摂取量の80倍以上の量を
    1ヶ月間だけ摂取した場合の体内負荷量の推移

A君:この図は丁度100ヶ月目に、1ヶ月間で10000pg/kgという普段の80倍以上ものダイオキシンを摂取した場合を示します。この図のように、体内負荷量は突然飛び上がりますが、その後、徐々に元の曲線に戻って行きます。勿論、半減期が100ヶ月としてありますので、相当の長時間を必要とすることは確かです。まあ400ヶ月ぐらいかかります。

B君:さて、10000pg/kgという値がどのぐらいなのか。体重を50kgとすると、500000pg=500ngか。魚のダイオキシン含有量をやや多めに見積もって1pg/gとすると、500kgに相当。これを1ヶ月で食べるとすると、1日16kg。まあこれだけ食べるのは無理は無理。しかし、100倍ぐらい多すぎるが、かといって完全に非現実的な値ではない。

C先生:今回のベルギーのダイオキシン騒動のようなことがあると、500ngを1ヶ月間に摂取することも、無いとは言えない。この件、中西先生のHPに先を越された。

B君:良く分かったが、この計算はやはりおかしい。なぜならば、この計算の意味するところは、火星から来たか何かで、体内のダイオキシン量が全くゼロの大人、すなわち体重がもう増えないヒトが、毎日毎日同じ量のダイオキシンを摂取するケースと、事故ケース。実際に問題になるのは、子供で、体重が増える。その場合には、もっと面倒な計算をしないと。

A君:相当面倒な計算をして、その結果も用意しましたが、完全に合っているかどうか、必ずしも自身は無いです。次の図を見てください.


    図  縦軸=体内負荷量  横軸=月
    女児の体重増加のデータを採用して、0ヶ月児から成長する仮定を採用
    それほどの差はないが、8000に到達するのが480ヶ月(=40歳)程度と、
    体重一定の場合に比べると130ヶ月程度遅くなっている。

A君:この計算には、女児の体重の月別のデータを利用していまして、生まれたとき3.1kgから徐々に増えて、52kgになるところまで体重変化を考慮しています。12歳から15歳ぐらいでちょっと妙なカーブになるのは、まだ検討中。多分、この期間に体重の増加が激しいためだと思う。この値も、単位はpg/kgです。こんな計算をしても、大人になれば、当然ながら、前の計算と同じように、8600pg/kgで飽和します。飽和までの期間が10年程度後ろにずれるというのが違うだけ。ところが、体重の毎月の変化を考えたもので、計算の手間は、前のものの200倍ぐらい大変だった。

B君:これなら、母乳からダイオキシンを大量に摂取する場合があることも検討可能なのではないか。

A君:それを考慮するのは比較的簡単ですね。次のようになります。


     図 縦軸=体内負荷量   横軸=月
     女児の体重変化を仮定、通常摂取は4pg/kg/日
     0ヶ月から12ヶ月までの13ヶ月間、64pg/kg/日と通常の16倍の
     ダイオキシンを母乳から摂取するとの仮定

A君:こんなになります。これは、生まれてから13ヶ月間、母乳の摂取のために、4pg/kgというTDIの16倍の値、64pg/kgという値のダイオキシンを摂取した場合の体内負荷量pg/kgの変化です。
このように、最初の1年ほどで、かなり大量のダイオキシンを摂取しますから、負荷量も急上昇。しかし、その後、体重の増加もあって、通常の指数関数的な減り方よりも相当早く減少します。安全係数が10であることが本当に意味があるのならば、まあ心配は無さそうです。でも、かなり高い負荷量になることは事実ですね。ただし、母乳を1年間も与えつづけていると、母親の体内のダイオキシンが大幅に減少して、徐々に母乳もきれいになると言われていますから、それを考慮すれば、実際の状況は多少良いかも知れません。

B君:まあ、こんな検討をすれば、確かに良く分かる。しかし、体内負荷量という考え方で良いのか、さらに、安全係数が10というのは本当なのか、などなど根本的な問題点は残る。乳児期に、ダイオキシンがどのような作用をするのか、まだまだ検討が必要に思える。例えば、免疫機能や脳の機能などへの影響を解明すべきだろうが、現在の科学のレベルでも、本当に分かるかどうか、これは問題。

C先生:とはいっても、今回のTDIの意味は、これまでのTDIの意味に比べれば、かなり論理的な理解が可能だ。
  母乳によるダイオキシンの摂取の体内負荷が結構大きく見えるし、また、生殖毒性がダイオキシンの中心的毒性であるとの認識を持つべきだ。結論的に、妊娠の可能性のある女性は、ダイオキシンには万全の注意をすることを薦める。タバコは100害あって1理無し。次の記事で述べるように(予定)、やはりタバコからのダイオキシンを女性の場合には無視すべきではないだろう。タバコをやめたからといっても、ダイオキシンの半減期は7〜8年。すぐに体はきれいにならないから。