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久米さん陳謝、3.8pg/gは煎茶   02.21.99




 テレビ朝日ニュースステーションでは、2月18日、40分間にわたって今回のダイオキシンさわぎの総括編とも言える番組を放送した。これまでニュースステーションが数値だけを発表してきた飛びぬけたダイオキシン含有量(3.8pg/g)の検体について、データの提出を求めた埼玉県が「煎茶」であると発表したことを受けたもの。同県は、この数値について「ダイオキシンは水には溶けにくいので、お茶の葉から抽出される量(飲む可能性のある量)は、葉に含まれるダイオキシン量の最大1.7%程度である。したがって安全」という宣言を出した。
 3.8pg/gの測定値がホウレンソウであるかのごとき報道をしたことに関して、所沢および埼玉県の農家に迷惑を掛けたと久米さんも一応陳謝。これでひとまず落着なのかも知れないが、今後どのように対策をすべきかという根源的問題はもとより、風評被害を出さないために、どのように報道すべきだったのか、といった基本的な問題点もすべて未解決で残ったままだ。


C先生:やはりお茶だった。しかし、煎茶になったお茶のデータだとは思わなかった。ナマのお茶の葉の含有量に換算するには、水の含有量を考えれば、5で割ったぐらいでよいだろう。となると、0.7〜0.8pg/gぐらいになってホウレンソウの値と大差はない。

A君:今回のさわぎの決着ですが、この3.8pg/gの取り扱いだけが問題にされて、ニュースステーション側は「若干取り扱いをミスったからゴメン。農家にはちょっと気の毒したけど。でもそのおかげで市民社会にとってはプラスになったでしょ」、とちょっと謝ってから開き直ったように思えるのです。そんなに単純な構図にしてしまって良いのでしょうか。

C先生:それなら、この煎茶の値が存在しなかったと仮定して、ニュースステーションがどのように報道したかを考えよう。

B君:なるほど。となると、ホウレンソウに関しては、今回の分析値は、全国平均の約2倍のダイオキシン含有量ということになるが、これをどのように報道するかだ。さて報道の価値があるだろうか。

A君:言い方次第になりそうですね。2倍!2倍!2倍!2倍!と叫ぶかどうか。
 しかし、もしも自分が測定をする立場に立つと、たったの2サンプルぐらいでは統計的な誤差がありすぎて、2倍という数値が絶対に有意とも言えないですね。

C先生:測定に関わる誤差の考え方は「科学」の基本だが、番組の製作に関わっている人々がどれほど理解しているか、これはいつも問題。要するに、理科系の基礎的な訓練を受けていない人によって主として作られているからね。

B君:直感的な感触ですが、もしも3.8pg/gという数値が無かったら、報道しなかった可能性がある。

A君:そんな気がする。

C先生:いや、すべてを見てしまった今だからそんなことが言えるのかも知れないとも考えられる。2倍という報道もやりようによっては、超過敏反応をする人々がいるかもしれないと思えるのだ。

B君:しかし、ホウレンソウでしょ。1日のダイオキシン摂取の限界をWHOなみの4pg/kg/dayにしたとして、体重が50kgの人ならば200pg/dayだから、ホウレンソウだけでこれを超すには、300gも食べなければならないことになる。厚生省基準なら700gか。これでは報道を相当うまくやらないと視聴者を驚かすことが難しいのでは。

A君:でも、そんなデータの読み方を示さないで、単に2倍も高いと騒ぐ報道手法は有りうる。そして、西友、ジャスコ、サミットがそれを聞いたら、やはり埼玉県産の仕入れを止めて差別化しようなどと思うかも。消費者の安全を守るのが我々の義務です、とか言って。

C先生:そうそう、いろいろな反応がありうるから、断定するのはなかなか難しいが。

E秘書:はい、狭山茶を持ってきました。我々の西友、ジャスコ、サミットのボイコットはまだ継続ですか。
 私の今回の感想ですが、久米さんは、放送の中で、実は自分の本当の意見を言えないのではないか、ということです。日本のニュースキャスターって、その程度なのでしょうか。米国だと、アンカーマンがすべての責任で物を言うことが多いと思うのですが。ですから、久米さんの発言を信用するのはもう止めます。
 お茶どうですか。

AB&C:美味しい。

A君:環境総合研究所が、お茶の値を発表できないと固執したのはなぜなのだろう。サンプル提供者の本当の利益を考えたら、むしろ発表すべきだ。試料がお茶なのだから問題はないという結論にならなかったのだろうか。
 青山貞一氏が述べていたことで若干気になったのが、葉の表面にダイオキシンが降り積もっているかのような表現をしていたこと。ダイオキシンがホウレンソウに入るのは、灰が葉の表面に降り積もって表面からしみ込むといったそんなメカニズムなのだろうか。

B君:いや違うのでは。ダイオキシンは固体だけれど、塩素化合物の常としてある程度の蒸気圧はある。だから、気体として存在しているダイオキシンを、植物が呼吸の際に取り込むのでは無かったか。だから、ホウレンソウの場合、いわゆるトンネルの中で栽培されて灰は降りかからない状態であっても、ダイオキシンを取り込むのではないだろうか。

A君:お茶の場合、青山氏が降り積もるような機構を想定しているとしたら、表面に単に灰と一緒に付着しているダイオキシンがあって、それがお茶を入れたときに洗い出される可能性があり、3.8pg/gという数値でも危ないと考えていた可能性はあることになる。

B君:確かに。測定数値をどのように理解・解釈するか、確信が無かったのではないだろうか。だから3.8pg/gという本来ならば問題のない数値でも、別の解釈がなされて数字が一人歩きすることが恐かったのでは。

A君:どこまで考えていたのだろうか。疑問だ。

B君:今回のニュースステーションが3.8pg/gという数字を使って意図的にセンセーショナルにやろうとしたところまでは事実だろう。さて、問題は、その数値の中身を知っていながら、意図的にやったのか、知らなかったのかだ。これは薮の中だが、少なくとも、「数値の正しい解釈法」は知らなかったのだろう。こんな状態で番組を作られても困る。

C先生:ダイオキシン測定値の数値をどのように理解するかだが、今回の報道の中で、誰もこの点をちゃんと議論しなかった。これは問題だ。いろいろな科学的知見を集める必要がある。そのうちきちんとやろう。まともに議論したら、本が書けそうな分量だからね。
 今はいささか評論家的スタンスに留まって、専門家の誰をどのように信じるべきか、という考察を少々やることでお茶を濁そう。
 そのニュースステーションに登場した有識者とされる人々のうち、いわゆるダイオキシン専門家だが、実際のところ、3〜4種類に分けるべきだろう。
 第1種ダイオキシン専門家:ダイオキシンの測定屋からスタートした専門家
 第2種ダイオキシン専門家:医者でダイオキシンを追いかけている
 第3種ダイオキシン専門家:リスクの専門家で、ダイオキシンだけでなく環境毒物のリスクを考えている
 第4種ダイオキシン専門家:自分では何もやらないで、外国の話ばかりを引用
 さて、我々も何もやらないことは似たようなものだが、長期的環境総合評価を考えている中で、ダイオキシンも気にしている。第5種ダイオキシン評論家かもしれない。
 第1種の専門家は、測定が専門。特に、民間の測定機関が無い時代には、数値情報を独占的に出していた。現時点では、測定業者が多いので、存在意義が減りつつある。どちらかというと、測定値そのものに絶対的意味を持たせようとする。マスコミにとっては、したがって、便利である。
 第2種の専門家は、ダイオキシンの人体影響を基準としてものを見ようとしている。となると、人体という分からないものを対象としているし、また、ダイオキシン摂取量が1970年代をピークとして、日本全体としては減りつつある現状を分かっているから、乱暴なことは言わない。
 第3種の専門家は、リスク分析のように数値を取り扱って、極限の推定を行っているから、数値そのものに統計的なバラツキがあること、食物の摂取状況についてもさまざまなパターンがあること、などを考慮しつつ、平均的日本人を対象とした考察をする。となると余り断定的な表現をしないので、マスコミには受けない。
 第4種は、ときどきマスコミに現れる。単に、便利屋に使われる。
 さて、誰を信じるべきか。まず、所沢に住んで、そこで取れる(作る)ホウレンソウだけを食べるであろう農家の人は、第1種の専門家が出すデータを考える必要があるが、平均的日本人である多くの方々は、第3種の専門家を信じれば良い。
 西友、サミット、ジャスコのような流通業も、本来であれば、第3種の専門家の発想をしっかりと勉強すべきなのだ。
 具体的人名は述べませんが、誰が第何種に属するか、皆さん考えてください。

A君:話を変えて、今回、行政の怠慢が相当指摘されましたが、どうすれば怠慢と言われなかったのでしょうか。

B君:確かに、それも問題。個々の食品について基準値を示せというような話があるが、これをすべての食品について求めるのは無理だ。結局1日の摂取量が問題なのだから。

A君:でも基準が無いから問題が起きたという指摘はある程度正しい。

B君:しかし、個々の食品について、どうやって基準を決めろというのだ。

A君:だから、多く食べる野菜ならこの数値とか。

B君:そんなことを言えば、野菜だったら緑黄色野菜がダイオキシンを多く含むことは事実のようだから、ホウレンソウは例えば2pg/gとか決めれば、それで十分だということになる。同じ葉菜でもハクサイはダイオキシンをあまり多く含まないようだから決める必要はない。根菜も大丈夫。お茶なら、煎茶にした状態で、例えば10pg/gとか。

A君:まあそんな感じの規制ならできるじゃないですか。

B君:しかし、その値にしたところで、それを超したら絶対ダメなのか。1日の摂取量が問題なのだから。

C先生:ところで、なんで1日の摂取量が問題なのだろうね。ダイオキシン類には急性毒性がある、しかもサリンよりも毒性が強いという表現がされたこともあるが、人体への作用の実態は、ダイオキシンを含む食品を食べたらコロっと死ぬといったものではないようだ。人体中でのダイオキシン代謝は極めて遅くて、5〜7年でやっと半減するということだが、逆に言えば、ある量までなら貯めても大丈夫ということではないだろうか。そして、もしも体内のピーク濃度が問題になるのならば、1週間程度の平均摂取量で制限すれば十分という話なのでは無いだろうか。要するに、ある日に基準値を超えたとしても、翌日に食べなければ問題はないのじゃないだろうか、という感じなのだろう。1日の”平均”摂取量が問題なのだろう。

A君:となると、やはり個々の食品に規制値を付けるのは無理かもしれない。でも、標準値は出せるのでは。

B君:でもねえ。食品は無限に種類があるし。

C先生:それにしても、この議論をやる前提となる各種食品中のダイオキシン含有量の実験的データが不足しているのは、行政の怠慢なのだろう。農水省は農作物の測定に手を付けるのをいやがっていたという噂だし。
 まあ、環境ホルモン問題で、あんなに予算を付けたのだから、国の研究所は、ダイオキシンの測定にいっせいに取り組むべしと言いたい。ダイオキシンも環境ホルモンの一種だから。ビスフェノールAと類似物の環境ホルモン問題は、なんだか先が見えてきたようで、しばらく研究を中断しても問題なさそうだから。

B君:そう言えば、あの番組で、ニュースステーションの論説委員(いつもの菅沼さんではない人)が出てきて、将来世代のことを考えたらダイオキシンは大問題だから、今回のニュースステーションの報道がきっかけとなって、良い方向に進むことを望む、みたいなことを言っていましたね。あれは、なんなのだろう。「将来世代のことを考えたら」、は殺し文句として結構個人的にも好きなのですがね。ダイオキシンの環境ホルモン作用の話なのか。

A君:そんな気がした。でも、今回の騒ぎを正当化するための発言というのがより正確な表現のように思えた。

C先生:各種物質の環境ホルモン作用も徐々に解析が進んでいるようだ。これだけお金を注ぎこんだのだから明確な結果を出してくれて当然。多くの環境ホルモンについては、あと1年程度で、「あのときの騒ぎは一体何だったでしょうね」あるいは「もう忘れた」と反応する環境専門家が70%、「生態系への影響は大きい。人間はやはり環境を破壊している」、という結論を得る専門家が20%、「化学物質はやはり製造中止だ」という専門家が10%ぐらいになるのでは、と大胆に予測しておこう。しかし、ダイオキシンの環境ホルモン作用の議論は、最後の最後まで残るように思える。
 そろそろ結論を出そう。今後どうすべきだろうか。

B君:今回の件で、風評被害を受けた農家は、裁判所に訴えることはまず行うべきでしょう。

A君:となると意図的だったかどうか問題。意図的でなくても、補償は必要だけれど。しかし、いくら提訴を行っても、問題の真の解決にはならない。

C先生:行政の怠慢が話題になったが、これから世の中をどのようにリードするか、これはやはり行政の役割だ。怠慢と言われないためには、2020年程度までの廃棄物処理の長期ビジョンを出そう。これに尽きる。
 それに、研究の方向性だが、次の点を要望したい。「人間地球系」の課題の中で宮田先生が行った阪神大震災の建築廃材野焼きによるダイオキシン発生の推定値があったが、これが、今後なんらかの健康被害を出すかどうかの追跡調査研究。これを誰かぜひやって欲しい。
 セベソ事件の場合には、その後の追跡調査では、ダイオキシンの発ガンリスクの明確な増大は見えていないが、阪神の場合には、同時にアスベストへの暴露もあるはずだから、何か起きている(くる)かもしれないから。このような高暴露群を追跡調査することで、ダイオキシンの危険性の本質が見えてくる。