________________

科学的迷信3 深層水編 12.17.2000




 前回取り上げたマイナスイオンも、どうやらその手品のタネは「水」にあるように思える。なぜかは分からないが、科学的迷信の特徴の一つとして、「水」というものがしばしば取り上げられる。一つには日本人の水に対するこだわりがあるのだろうし、もう一つは、「特殊な水」を売っても、「効果も無いが、害にもならない」から、商売としてはやりやすいことが有りそうに思える。


C先生:今回は、深層水の真相。おやじギャグだ? まあまあ。 ちょっと高知県に行って来た。高知はなかなか元気な都市に見えた。しかし、室戸岬というところは、比較的寂しいところで、なんらかの産業が必要だったものと思われ、最近、海洋深層水から採取したミネラルウォータなる商品が盛んに販売されている。土産物屋、空港売店など、どこにでもある。さて、この深層水ミネラルウォータなるものは、本当に効能のある商品なのか。これが本日の第一の話題だ。

B君:深層水といっても、そもそもどのぐらいの深いところから汲み上げるのだろうか。

C先生:今、手元にあるパンフレットでは、海岸から2200m、深さ374mの海底から汲み上げるとある。徐々に深くなっていく海底が、海溝へ向かって急に深くなり始めたところあたりのようだ。このあたりは、当然のことながら、もはや太陽の光はほとんど入らない。したがって、植物が繁茂する条件を満足していない。人間活動からはある程度切り離されているから、生活排水などからの影響も一応遮断されている。

B君:海水といえば、それが深さでそんなに成分が違うのだろうか。地域によって、蒸発量や降雨量が違うから、塩分濃度などが違うのは当然として。

A君:一般に溶液は均一に混ざっていることになっていますが、余り対流が起きていないとすると、多少は成分が違っても不思議では無いと思いますが。

C先生:室戸で深層水を採取している場所は、室戸岬の東側。そこから、2200m沖合だそうだが、黒潮が流れているのではないだろうか。黒潮というのは、もっと表面だけを流れているものなのだろうか。

A君:どうやら、表層水と混じり合うのは、水深200mぐらいまでで、それから深いところは、かなり静かなようです。

B君:だとすると、まあ、溶質が多いこともあり得るかもしれない。コップに砂糖をとかしたって、下側が濃い状態になるだろうから。それに、光合成が起きていないということは、栄養源や微量ミネラル成分も多いということだろう。

C先生:ということで、海洋深層水という海水を養殖に使うことは、恐らくプランクトンの生育にプラスになる可能性が高いから、生産性が高い養殖業に貢献できるかもしれない。良い漁場というところは、海流と海底地形の関係で、深海からの海水が上がってくる流れ(湧昇流というらしい)があるところだという話も聞くし。
 しかし、問題は、深層水ミネラルウォータだな。塩分をどうやって除去しているか。当然、逆浸透法だろうな。

A君:そのようです。逆浸透法だと書いて有ります。

B君:逆浸透法だとすると、まあ純水とまでは行かないが、かなりイオンは除去されてしまう。だからミネラルが豊富とは思えない。

A君:成分が書いて有りますね。
 表 深層水の栄養成分 1000mlあたり
  エネルギー     0kcal
  たんぱく質     0g
  脂質         0g
  糖質         0g
  ナトリウム   218mg
  マグネシウム   24.5mg
  カルシウム      7.6mg
  カリウム        8.1mg

B君:普通の海水のイオン組成と違うのか、それとも同じなのか。

A君:次の表に、海水の組成を示します。  第3カラムは、深層水の組成を海水濃度に合わせた数字を示してみました。 
    海水の主成分濃度(塩分3.5%の海水として)
                   g/kg      深層水の濃度を50倍
  塩素 (Cl−)        19.353g      
  ナトリウム(Na+)      10.766g     10.90g
  硫酸塩(SO42−)      2.708g
  マグネシウム(Mg2+)   1.293g      1.225g
  カルシウム(Ca2+)     0.413g      0.380g
  カリウム(K+)         0.403g      0.405g
  炭酸塩(CO32−)      0.142g
  臭素(Br−)          0.0672g

B君:なんだ。海水とほぼ同じ濃度じゃないか。そう言えば、深層水の栄養成分に塩素が入っていないのはおかしい。逆浸透膜で作ったのなら、多少なりと塩素が入っているはずだ。

C先生:まあ、全部を書かなければならないという法律になっていないから。

A君:恐らく、塩素を含むというとイメージが悪くなってしまいますから、わざわざ避けたのではないですか。塩ビやダイオキシンなどを単純に連想する人がいるでしょうから。

B君:本当に何も知らない人は、何も考えないだろうが、この手の商品が好きな人は、いわゆる聞きかじり屋だ。要するに、聞いたことがある言葉は、ある種のイメージでそれを分類するタイプだから、まあ当然か。

C先生:深層水中と海水とで、そのイオンの濃度が微妙に違うのだが、それは逆浸透のせいだろうか。

A君:海水用の逆浸透膜の実体をちょっと調べました。1956年ころ、アメリカのリード氏によって提案された方法で、半透膜の両側に溶液と純水とをおけば、通常は浸透圧という圧力によって純水が溶液側に移動しますが、溶液側を浸透圧よりも高い圧力にすることによって、溶液側から、水だけが純水側に移動するようにできます。膜は、アセチルセルロースとか、芳香族ポリアミドとかの膜で、水を選択的に吸着する膜だとされています。一段で、塩分濃度200ppm程度にはなるようです。深層水のミネラルウォータは、やはりこんな塩分濃度ですね。

C先生:まあ、逆浸透膜を通りやすいか通りにくいか、それは、膜との相互作用、例えばイオンの大きさ、より正確には、そのイオンを取り巻く水が作っているクラスターの大きさ、要するに取り巻き連中を含んだサイズと、電荷で決まるのだろうが、そのデータをみると、ナトリウムとカリウムが多めに含まれ、2価のマグネシウムとカルシウムが少な目だ。逆浸透膜の通過のしやすさを反映した濃度になっているように見えるが。

A君:そうですね。だとすると、有用なミネラルだと皆さんが誤解しているカルシウムは2価ですから、海水を50倍に単に薄めた水の方がかえってミネラルたっぷりということになりますね。

B君:まあ、単に薄めた水だと誰も買わない。やはり深層水という名前で売るのだから。

A君:深層水を蒸留水で薄めれば、やはり深層水なんじゃないですか。その方がコストも安いだろうし。

C先生:今回の分析結果が信頼できるものでるとすれば、まあ、逆浸透膜を通っているのだろう。「深海の華」というのも売っていたぞ。これは深層水から採取した塩なんだが。

A君:微量元素値というものがありますね。
   ナトリウム  34.56g
   マグネシウム 0.58g
   カリウム 0.19g
   カルシウム 0.36g
   塩化物イオン 54.25g
   硫酸イオン 2.09g
   乾燥減量 6.17g

E秘書:先ほどいただいた海洋深層水を味見のためにお持ちしました。いかがですか。

C先生:まあ普通の水だな。

E秘書:あれ、お塩もあるのですか。

B君:ふつうの天然塩と違うのだろうか。

A君:説明文には、「海洋深層水の海水中の水分だけを除きミネラル分をこわさない様に低温で丁寧に作り上げた塩の結晶です」とありますね。

E秘書:海水組成そのままだと、マグネシウムが多すぎると苦くなりますよね。それに、ミネラル分をこわさない様にということですが、ミネラルって、そもそも壊れるのですか。

B君:まあ、壊れない。硫酸イオンなどを1000度にでも加熱すると分解してしまうかもしれないが、水が共存しているような状態だったら、まあ壊れない。

A君:マグネシウムの量ですが、普通の海水ですと、ナトリウムイオンの12%相当ぐらいが含まれているのですが、この塩は、1.5%ぐらいに減っていますね。ですから、説明文の「水分だけを除いた」というのは全くの嘘ということになります。確かに、マグネシウムが多いと苦いですから、通常の塩としては使えない。

B君:どうせ、加熱して水分を蒸発させて、そこで析出してくる結晶を濾過して作るのだろう。となれば、一番最初に食塩が析出したところで濾過すれば、ほぼ食塩だけを取り出すことができるが、それからどこまで煮詰めたら何が析出するかを探りながら、適当なところで加熱をやめているのだろうな。計算する気になれば可能だから、計算をしているかもしれないが。

C先生:まあ、そんなもんだろうな。「海洋深層水」という科学的迷信を新たに作り出そうとして努力中というところだろう。「海洋深層水」も魚の養殖などの用途に限って使えば、それは科学的だといえる。やはり、それを使って市民へ直接売れる付加価値の高い商品を作ろうということになると、どうしても迷信部分を作る人が現れるということなのだろう。消費者の科学のレベルが低いことを見抜いてわざわざやっているのか、それとも、販売する側のレベルが低いのか。さて、どちらなのだろうか。