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ダイオキシン全国調査の読み方  09.27.99
   追加 09.29.99 10.01.99






魚介類3割安全値超す 1999年9月25日 各紙

 環境庁による一斉調査は昨年夏から今年春にかけて、全国すべての都道府県と政令指定都市を対象に実施。約400ヶ所で大気や降下ばいじん、土壌中のダイオキシン類濃度を調べた。また、河川や海でも200ヶ所で水質や泥、魚介類を採取して濃度を分析した。

 魚介類では東京・神田川のコイから1グラム当たり30pg、多摩川のウグイから同24pg。368の試料のうち、約3割が2pgを上回り、平均2.1pgだった。魚介類に蓄積されたダイオキシン類の内約70%はPCBだった
 
 一方、大気中の濃度は北海道小樽市の1立米あたり1.8pgを筆頭に、指針値である0.8pgを超えた。
 
ダイオキシン類濃度の高かった魚介類と場所の表 pg/g
 東京都(中央台東区神田川) コイ       30 
 川崎市(川崎区多摩川) マルタウグイ    24
 京都府(宇治市宇治川) オイカワ       15
 兵庫県(姫路市市川)  ニゴイ         15
 大阪市(住之江区大阪湾) ガザミ       14
 川崎市(川崎区多摩川) フナ          13
 山形県(酒田市赤川) ウグイ          12
 名古屋市(中川・港区新川) コイ        12
 東京都(目黒区目黒川) ウグイ         12
 神奈川県(藤沢市引地川)コイ          12
 北九州市(八幡西区洞海湾) コノシロ     11


C先生:この記事がどのように読まれたか、また、どのように読ませたいと思って記者が書いたか。こんな議論をしてみたい。昨年度、環境庁が全国400カ所で実施したダイオキシンの実態調査の結果であるということがまずポイントの一つ。

A君:なるほど。実施母体が環境庁であるということは、農水省がやる調査とは全く意味が異なるということですね。記事にはこの説明がない。

B君:その通りだな。日経にはリストが無かったが、朝日にはどのような魚が対象とされたか、上記のリストが有った。これを見れば、その意図は一目瞭然だ。

A君:食用の魚を対象とした訳ではなくて、環境汚染測定の試料として魚が選択されたというのがより正確な表現ということですね。

B君:となると、朝日の最後のコメントはどうなる。次のようなものだった。なんだかずれていないか。
 「環境保護団体や研究者らは「魚の摂取基準をつくったり、どの魚をどう食べたりしたらいいのか指導したりすべきだ」と国に求めているが、国は、「基準を作って基準を超える魚があれば市場がパニックになる」と消極的だ。」

C先生:国に確かに摂取基準は無い。2pg/gの魚を100g食べると、200pgを摂取することになるが、これは、体重50kgの人のTDI(=4×50)に等しい。これだけでTDIを超すといって朝日も日経も問題にしている。これについてはどう?

A君:今回の平均値が2.1pg/gだったことからこの議論が出ているわけですが、上の表にある神田川のコイとかもう一つの東京都の試料としての栄誉を得た、目黒のサンマではなくて、目黒川のウグイも誰も食べようとは思わないでしょう。これらを含んで平均値が2.1pg/gだということは、逆に言えば食べる気になるような多くの魚は大体OK、ということでむしろ安心しました。

C先生:TDIの意味については、すでに説明済みだが、毎日一生摂取した場合にも影響がでないだろうという値で、安全係数10が掛かっていることなど、復習をしていただきたい。

B君:もう一つ重要なポイントがありますね。それは、ダイオキシンの測定値というと、「焼却炉が原因」と思わされてしまいますが、実際には、ダイオキシン「類」が対象で、測定濃度の70%をコプラナーPCBが占めたということです。要するに、焼却炉起源のダイオキシン汚染が主たる原因なのではなくて、PCB汚染による影響が魚の場合には大きいということです。勿論、焼却によってもPCB類ができることはできますがね。しかも、汚染魚は都市河川からのものだった。米国五大湖の状況に似ている。

A君:えーと、大阪府の母乳中のダイオキシン分析によるデータだと、汚染のピークが1975年ごろにあるのは何回も本HPにも出てきていますが、それからの減少の速度はPCBの方がダイオキシンよりも高かったように記憶しているのですが。

C先生:確かにその通り。母乳中のコプラナーPCB濃度は、75年から95年までの20年間で1/3ぐらいになっている。一方、ダイオキシン濃度は、半分まで下がっていないぐらいだ。だから、普通に考えれば、魚のPCB汚染濃度も、25年前の方が今よりも高かったのだろうと思われる。
 しかし、魚のPCB汚染が都市河川では大。これが何を意味するか、いささか問題かもしれない。PCBは、本来であれば、現時点では厳重保管されているはずのもの。ところが、一部行方不明になっているという指摘が絶えない。PCBは感圧紙などに使われていたのだが、紙類は余り厳重に管理されていないという話を聞く。要するに、一番重要なのは、現在でもPCBは環境へと流出し続けているのか、そうではなくて、単に過去の負の遺産が解消される速度(生態系中のPCB分解速度)が遅いだけか、この判断だ。

A君:そろそろPCBはお金を掛けて保管分の完全処分をした方が良いのでは無いでしょうか。

B君:そう。技術的にも可能。

C先生:ダイオキシン対策全体を考えると、焼却炉に多大な投資をするよりも、その方がまず先決かもしれない。特に、ガス化溶融炉は数10億円から数100億円というが、マスコミが主張する目先の状況だけを見て対策法を選択するのではなくて、PCBの負の遺産問題を解決する方が、トータルに見たときにダイオキシン類からのリスクを減少させることになりそうに思える。
 そろそろまとめよう。一言でどうぞ。
 
A君:魚はまず大丈夫。毎日淡水魚を100gずつ食べるのは問題があるかもしれないが、そんな人は例外中の例外でしょう。また、妊娠する可能性の有る人はちょっと考えた方が良いかもしれないが、タバコを気にしないなら、魚を問題にする理由はない。

B君:都市の河川からの魚でなければ、淡水魚でも大丈夫ではないかな。東京湾のハゼや穴子がどのぐらいの値か知りたい。

C先生:江戸っ子としては同感。魚の分析の前処理は、恐らく丸ごとミンチにする方法。しかし、テンプラにするときは、ハラワタは取る。これで多少コプラナーPCBのレベルは下がると思うが、これも調査をしてみよう。
 ということで、情報をお持ちの方は、是非ご連絡を。


追加分

その1: 中西先生のHPによれば、魚一匹丸ごとで1とすると、はらわたを取り除いた可食部は0.3ぐらいだとのこと。

その2: これまた中西先生からのメールによる直接情報。「コプラナーPCBは焼却炉からの寄与は少ない。魚中になぜコプラナーPCBが蓄積されるか、その機構は不明。水中濃度を測定しても、コプラナーPCBは低い。」とのことでした。

その3: またまた中西先生からのメールによる直接情報の続。「コプラナーPCBの海底の泥(底質)における濃度は低い。宍道湖の実験でPCB類は分析していない。」

C先生: なぜ魚にコプラナーPCBが蓄積されるのか、その理由がますます分からなくなってしまった!  ちなみに宍道湖の実験とは、湖底の泥を採取し、その深さ方向のダイオキシン類の分布を測定することによって、ダイオキシン負荷の時代の変遷を知るもの。中西先生のHPに概略が、そして、詳しくは、益永先生のHPに論文があります。

追加分その2  10.01.99

その4:益永先生からの情報では、生体濃縮係数は、コプラナーPCB/ダイオキシンで、どうも2桁ぐらいは違うみたいです。ということは、環境中の濃度がコプラナーPCBが100分の1であっても、生体内には、コプラナーが同程度蓄積されることを意味します。とすると、上の理由が明らかになったことになります。
 しかし、それでは、そのコプラナーPCBがどこから来たのかといえば、焼却排ガス中のコプラナーPCB/ダイオキシン比(それぞれのTEQ比)が0.01から0.1程度だとすると、 焼却起源のダイオキシン類を仮定しても、現在の魚のダイオキシン汚染の成分比の説明が可能ということになりそう。
 結構解決されていない問題というのがまだまだ多いようで。