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ダイオキシンサマリー(Q&A編) 07.19.99






 ダイオキシンサマリーに関するご質問を募集します。現在、M氏からご質問を3件いただきましたので、回答を試みます。


Q1:
まず、1点目は、WHOの(究極?)目標値1pgの意味です。これは、先日取り上げておられた朝日新聞の社説だけでなく、様々なメディアの論調は「WHOで1pgが示されているのに、TDIが4pgになったのは、1pgにすれば、すでに日本人の摂取量がこれを超えていてさらに対策が必要になる(あるいはパニックになる)と政府が考えたからだ。このような数値の決め方は全くおかしい。」といったものでした。
 先日来、TDI4pgの意味については、HPで詳しくお知らせいただいていますが、WHOの1pgの意味と、それと比較した日本のTDI4pgの妥当性については記述がないような気がします。

A1:
C先生:そういえばその通り。WHOがなぜ1pg/kg/日という値を目標値として掲げているか、今回の日本の4pg/kg/日との本質的な相違は何かということを説明していなかった。

A君:それでは、説明いたします。今回、ダイオキシンの毒性の実験に関しては、様々なものが検討対象になっております。主としてラットとかマウスとかを使用した動物実験です。ダイオキシンの投与法についても、様々です。毒性の対象も様々ですが、最も低負荷量で発症するのが、生殖毒性関係です。発ガン性や急性毒性は、摂取量が多くないと実験的にも見られません。
 今回、86ng/kgという体内負荷量になると発症するという見解を出したのですが、そこには、ある種の判断が働いていて、ある種の動物実験は信頼性が乏しい、あるいは、影響が些細であるとして考慮の対象からはずされている訳です。WHOも1〜4pg/kg/日という範囲で示しているのも、すべての動物実験を同等の信頼性があると判断している訳ではなく、かなり負荷量が低いデータには不確実性があると判断したからです。WHOも1pg/kg/日を最終的な目標値という位置付けにしています。
 ちなみに、4pg/kg/日という値になったために無視された実験は、
(1) 精巣中の精子細胞数の減少 この実験を認めれば1.5pg/kg/日になった?
(2) 性行動の変化  この実験を認めれば3pg/kg/日になった?
(3) 肛門生殖突起間距離  この実験を認めれば2pg/kg/日?
(4) 子宮内膜症    この実験を認めれば2pg/kg/日?
(5) 学習行動テストの成績低下  この実験を認めれば1.5pg/kg/日?
 なぜ、これらの結果が不確実とされたかは必ずしも記述されてはいないですが、精巣中の精子細胞の減少についても、減少していないという結論を出している研究もあって、一致していないとは言えそうです。
 (5)が無視されたのは、動物実験で学習行動テストの結果をきちんと出すのが難しいからかもしれません。

B君:それはそうだが、その判断を下す際に、現在の日本人の平均的摂取量が2.6pg/kg/日だから、1pg/kg/日とかいった値を示すと、それは実現不可能だから、規制値にはなり得ないという判断が最初からあって、最初から切る実験、取り入れる実験が決まっていたということは無いのか、という質問だと思うが。

C先生:それは有り得ないとは言えない。しかも、安全係数をいくつに決めるかというかなり任意性の高い操作をしているのも事実なのだ。最終的に、4pg/kg/日という値を出すときには、安全係数10というものが考慮されている。すなわち、ヒトという種は、マウスあるいはラットよりも10倍の感受性があったとしても、被害はでないだろうという安全係数だ。さらに言えば、ダイオキシンの毒性の発現には、Ahレセプターというものとの相互作用が必要であるが、これには動物種による違いが大きく、ヒトは、むしろダイオキシン感受性が低い種類に属するというデータもあるので、実際の安全係数は、10以上となっていると解釈できる。

A君:それに、日本の場合には、例のPCP、CNPといった水田除草剤によるダイオキシン負荷があって、歴史的には1970年代に最大の汚染があったという事実を考慮し、その時代の生殖毒性のデータが無いことも考慮されているのでは無いでしょうか。

B君:マスコミは、1pg/kg/日という値を将来の目標値としても設定しなかったことを批判しているが、自分もそのような目標値を出しても良かったのではないかと思うのだ。

C先生:日本のマスコミの特性を相当考えた上の判断かもしれないね。いかに目標値だとしても1pg/kg/日を認めると、パニックを起こすことを目的とした記事や番組が多発することを読んだ、ということも有り得るかもしれない。実際、この値を現在の日本人に適用すると、ほぼ全員アウトだ。そこで、もしもどうしても1pg/kg/日を満足させようとすると、魚の摂取を禁止するようなことになるだろう。特に、近海魚、すなわち、高級魚を食べるなと言うことになるかもしれない。しかし、食の多様性を確保することが日本人の健康法の一つだから、魚を禁止することはかえって日本人全体の健康を損ねる可能性が強い。さらに、肉食を推奨することは、「牛肉は8人分、豚肉で4人分、鶏肉で2人分」の食糧を食べていることと等価であるということから、地球上の食糧の平等な配分という意味からは推奨できることではないのだ。

A君:その「牛肉は8人分、豚肉で4人分、鶏肉で2人分」の話ですが、久しぶりに出ましたね。丸善ライブラリー「市民のための環境学入門」では議論をしていますが、本HPではまだご紹介していないようです。要するに、食糧供給危機が来ることを多くの人が予想しているけれど、その形態で最悪なのが、世界全体が米国的食生活になること。なぜならば、牛肉でカロリーを取ろうとすると、8人分のとうもろこしなどの穀物を牛に食べさせて、初めて、1人分のカロリーを得ることが可能になるから。食糧危機については、「環境センセーショナリズム=週刊朝日 02.25」をお読みください。98年版記事です。表紙にリンクを張っておきます。

B君:しかし、2002年には焼却炉の規制が厳しくなって、日本全体における発生量が1/10になれば、自然に1pg/kg/日になるのではないだろうか。だから、5年後の目標値としてこの値を示すことも可能だったのではないだろうか。

C先生:環境中のダイオキシンの半減期が非常に長いことを考えると、5年後にいくら発生量が減ったとしても、魚中の濃度はそんなに減少していないのではないだろうか。
 先程言い忘れたが、1pg/kg/日を目標値として設定すると、その目標の達成のためと称して、土木国家たる日本では、例えば「東京湾の底泥浚渫をやろう」、とか言った馬鹿げた発案をする政治家も出ないとは限らない。

A君:それに、5年後の目標値などというと、今生きている我々の命はどうなんだ、という反応が出る。ダイオキシンの毒性は、そんなものではないことは、本HPでも説明していますけど、マスコミが同様の説明をするようにならないと、やはり目標値としても設定が困難なのではないでしょうかね。

B君:確かにそうも言える。ここでも報道の態度が、逆向きに作用したのかもしれないな。

C先生:まあ、4pg/kg/日という値で、当面は良いのではないだろうか。その後、色々と調査結果がでるだろうから、さらに慎重な対応が必要かどうか、2年後あたりに再検討することで十分間に合うように思える。



Q2:ダイオキシン規制法の効果についてです。
これも何度もHPで取り上げておられるように、すでにダイオキシン発生のピークは70年代であって、現在発生量は大幅に減少、焼却場周辺の不公平感など精神的な問題と、女性、特に妊婦への影響が懸念されるといった状況とのことですね。
 このような中で、例えば排出・排水規制や環境基準の設定にどれほどの意味があるのでしょうか。それこそ精神的な問題の解決につながる(日本人は規制値があるとなぜか安心するようです)ということなのでしょうか。

A2:
C先生:やはり法律があれば違うことは違うのだろう。特に、産業廃棄物処理業者の一部が不法行為をした場合に、何も法律がないと罰則を与えることも不可能だからね。産業廃棄物からのダイオキシンの発生量は、一般廃棄物焼却に比べて低いとされていはいるが、今後、その寄与率がさらに下がるかどうか、これは炉の規制が本当に守られる必要がある。炉への投資には、やはり罰則付きの法律の存在が追い風になるだろう。

A君:日本人は規制値があると、やはり守る民族のようです。

B君:これまではそうだった。しかし、最近の若者の交通信号無視や、自転車族の運転を見ていると、怪しくなっているように思えるぜ。


Q3:先生のHPを見る限り、日本のダイオキシン対策が世界的に見て遅れているというふうにも思えなくなってきました。確かに法的規制という手段をとってきたわけではありませんが、結果的には、現在、それほど大きな問題ではなくなっているように思えます。(結果オーライだったのかな・・・)
 いわく「欧米と比べ対策は10年以上遅れている」「日本は世界最高のダイオキシンの汚染国だ」という指摘についてはどのようにお考えでしょうか。
 私自身は、ある意味で「臭い物に蓋」をしてきたという事実もあるように思いますが、一方で、日本のやり方が世間に言われているほど遅れているとも言えないと思うのですが・・・(感覚的な意見ですみません)

A3:
C先生:日本のダイオキシン対策が遅れていたのは事実だろうね。焼却炉の規制値にしても、ヨーロッパ各国に比べれば5年遅れぐらいではないだろうか。その意味では、厚生省や関連の審議会などが最初からダイオキシンを甘く見ていたことは事実だろう。しかし、日本におけるダイオキシンの摂取は、魚からが主体であるのに対して、ヨーロッパでは、牧草への汚染、牛への汚染、牛乳汚染といった焼却炉からの直接的な汚染が問題になる構造だから、焼却炉の規制強化による効果が比較的速やかに出る。
 しかも、魚中のダイオキシンは、恐らく水田除草剤+天然起源ダイオキシンで、焼却炉からのダイオキシンの寄与は余り大きくは無い。ということで、焼却炉からの汚染の影響が結果として余り出ていなかったのかもしれない。まさに、結果オーライだったのかもしれない。

B君:しかし、焼却炉の寄与率が最近は高いわけだから、そのツケがそのうち出ることも有る程度考慮しておく必要はあるのじゃないか。

A君:それは、PCP、CNPからのダイオキシン量が、本当に益永先生の言うような割合であるのなら、まず起きないのではないだろうか。

C先生:最初は認めていなかった三井化学も、また農水省も、やっとCNP中にも最も毒性の高いダイオキシン(2,3,7,8−TCDD)が含まれていたことを公式に認めた。
 しかし、焼却炉の寄与が本当のところどのぐらいなのか、また、将来的に問題がでる可能性が本当にないのか、これらは常にウォッチしておく必要があるだろう。