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ダイオキシン問題はどう解決(?)されたか  11.07.99






 ヒューマンエラーのHPは、現時点でも作成中で未完成。朝日新聞の11月4日の社説も同様の問題を取り上げている。しかし、どうもしっくりこないので、しばらく延期。


 11月3日の新聞によれば、ダイオキシンの新しい環境基準が設定された。これまで基準が無かった土壌の基準を1000pg/gとし、これを超している場合には、直ちに除去などの対策を取ることとした。250pg/gを調査指標とし、これを上回る場合は監視を続けて、数値が上がって時には焼却施設などの発生源を探すとしている。一方、水質の環境基準は、1pg/リットルとした。しかし、ゴミ焼却施設、下水道終末処理施設、紙パルプ製造業、塩化ビニル製造施設などについては、10pg/リットルとしている。大気については、従来の0.8pg/立米から0.6pg/立米に強化した。
さらに、環境庁は全国1万7000ヶ所の土壌の調査を来年度に行い、基礎データとする方針。


C先生:先日、石橋湛山記念会の雑誌、自由思想というものに、ダイオキシンは正しく報道されたか、と称する文章を書いた。それはそれで、そのうち本HPにも掲載予定だが、諸君達の意見も聞きたい。今回新たに設定された環境基準が、一連のダイオキシン問題の最後を飾りそうな気がするので。念のため、最近のダイオキシン問題年表を出しておこう。

付表:最近のダイオキシン問題年表 この年表に記述されていることは、昨年、1昨年の記事にその当時の解説が残っております。表紙にリンクをはっておきます。

97年8月  新設焼却炉のダイオキシン規制がこれまでの80ng/立米から1ng/立米へ強化。ただし、既 設炉は2002年から。
97年12月頃 ダイオキシンの発生源が塩ビ、塩化ビニリデンとプラスチックであるというのが一般社会の理解。 実際には、食塩も塩素源である。
98年4月 能勢町の焼却炉から高濃度のダイオキシン放出が明らかに。この頃、摂南大学宮田教授がダイオキ シンの権威としてマスコミに常時登場。ダイオキシンの毒性はサリンの2倍という枕言葉
98年4月頃  ダイオキシンの毒性回避のために、母乳を飲ませるなといったマスコミの風潮。
98年6月 CNP(水田除草剤)がダイオキシン源だった。ただし、毒性の低い1,3,6,8−TCDDが 主。しかし、愛媛大学脇本教授談「もう日本は手遅れ」。
98年9月 文藝春秋に、日垣隆氏による「ダイオキシン猛毒説の虚構」なる記事が掲載されたが、ダイオキシ ンの理解への一つのターニングポイント。
98年11月 高木善之氏などの発言により、アトピーもダイオキシン原因説。母乳を飲ませるなという報道によ り、母親混乱。
99年2月 ニュースステーションの所沢産葉物(ほうれん草?)のダイオキシン濃度が全国平均の数10倍報 道によって、所沢の野菜に風評被害。
久米氏、葉物の実体が煎茶であったとして、陳謝。
99年3月 益永教授(横浜国立大学)による過去のダイオキシン放出の推定値が発表。CNPはもっとも有毒 な2,3,7,8−TCDDを含んでいた。1970年ごろの水田除草剤による汚染がいまだに残 っている。
99年6月 議員立法によって、ダイオキシンの摂取許容量がそれまでの10pg/kg/日から、4pg/k g/日へ低減された。WHOの数値に合わせた形。
99年11月 ダイオキシンの環境基準。新たに、水質、土壌について基準値が決まった。土壌については、1000pg/gという値で、批判あり。大気の基準も厳しくなった。

A君:そもそも表題の「解決(?)されたか」ですが、これはどうなんでしょうね。これから新たな動きはもうでないだろうということですか。

B君:実質上、これで片付いたと思う。焼却炉に関する規制が、既設炉については、2002年から発効することになるが、まあ、小型炉の規制強化が今後有りうる唯一の動きのように思える。色々と右往左往したが、97年にできた焼却炉の規制以後、発生源の排出規制ができたのは、今回の水質規制だけ。

C先生:益永先生のダイオキシンインベントリーデータ、すなわち、過去のダイオキシン放出の大部分は、焼却炉起源ではなくて、むしろPCP、CNPといった農薬とPCB起源であって、そのピークは1970年頃だったという研究結果が、徐々に社会的認知を得ているのだろうか。どうも、きちんと報道されたとは思えないのだが。

A君:確かに、母乳中のダイオキシン濃度が1975年ごろから減少し続けていて、概ね半分ぐらいになっているというデータをどのように説明したら良いのか、自分も分からなかった。それが、益永先生のデータによって一気に理由が分かってしまったという、推理小説の名探偵なみの切れ味でしたからねえ。

C先生:でも、多少まだ気になっている部分はある。それは、魚に含まれているダイオキシンは、主成分がむしろコプラナーPCBであるということ。コプラナーPCBは、PCB起源だ、と簡単に割り切ってしまって良いのだろうか。我が地元で、先日のダイオキシン全国調査でも高濃度汚染が指摘された目黒川のウグイだが、この川はかなり大幅な改修が行われていて、とても1980年頃まで続いたPCBの環境への放出の残りが川底に残っているとは思えない。目黒川のウグイが採取された場所は、目黒区の清掃工場の隣。300トンの焼却炉2台という大規模な焼却施設を持っている。普通に考えれば、ウグイには、焼却起源のダイオキシンが蓄積されていて不思議ではない。

A君:そうですか。そのウグイから検出されたダイオキシン類ですが、どのぐらいがコプラナーPCBでどのぐらいがそれ以外のダイオキシン類だというのは分かっているのですか。

B君:環境庁の報告書を調べて見よう。大きなファイルがあるなあ。これか。分かった。
こんな感じだ。
目黒川太鼓橋付近のウグイ中のダイオキシン類
    PCDD+PCDF=1.7pg/g
    コプラナーPCB= 10 〃
    トータル=      12 〃

今回の調査では、魚中のコプラナーPCBの平均的寄与率が70%ということだが、これだともっと高い。単純計算で85%ぐらいがコプラナーPCBだということになってしまう。

C先生:となると、解釈は3通りか。@ウグイは淡水魚だけれど、どうも汽水域や内湾程度なら行くらしい。だから、ここのウグイは、東京湾まで降りてその底質に住むゴカイなどを食べている。だからコプラナーPCBが多い。A焼却によって生ずるダイオキシン類は、PCDDとPCDFが多いが、コプラナーPCB分も無い訳ではない。コプラナーPCBの生物濃縮係数が高いために、ウグイの体内には結果としてコプラナーPCBが多く存在している。BいまだにPCBがいずこからか放出されており、目黒川などにはPCB起源のコプラナーPCBが供給され続けている。
 もしも、このAのシナリオが成立するようだと、益永先生のデータを根拠として、PCBの主な放出は1980年頃までに終わっているから、魚中のダイオキシン汚染には焼却炉由来のダイオキシンは余り寄与していない、とは言えないことになる。Bのシナリオがもっとも恐ろしいが、無いとは断言できない。
 益永先生、中西先生、教えて下さい。ということになる。

A君:しばらく待ちましょう。

B君:来年度、環境庁が1万7000ヶ所の土壌についてダイオキシンを測定するとのことだが、「無駄だ」という意見もある。

A君:しかし、そのウグイの話のように、データがまだまだ不足。あるベースデータとしては意味があるのじゃないですか。

B君:いくらになるんだ。1箇所の測定に10万円強としたら、約20億円。どこかに無駄なハコモノ予算を付けるよりは良いか? 坪あたり単価が80万円とすれば、2500坪か。まあ比較的小さなビルが1個分だから。

C先生:9月24日に発表された平成10年度の結果も、まだまだ検討すると新しいことが分かるだろう。安心料という言い方も可能だろうか。しかし、そのデータを100%活用することが重要だ。
 環境データは、可能なときに測定しておくと、それが後から役に立つこともある。この間、環境庁国立環境研のN氏は雑談の中で、「各地の高等学校の生物部が、昆虫などの生物観察記録を継続して取ってくれると、後々いろいろな役に立つ」、と言っていた。


C先生:話変わって、ダイオキシン問題がまずまず解決方向だとは言っても、どのような形で解決に向かったか、この検証をやっておく必要があるな。

A君:それは、益永先生のデータが出て、社会が沈静化したからでしょう。

B君:いや甘い。やはり旧来の公害型環境汚染の解決と同じだよ。要するに、@マスコミ&恐怖本の作者が良識ある市民にダイオキシンの恐怖を植え付けた、A政治家がそこでダイオキシンは票になると読んだ、B行政もダイオキシンが予算獲得の手段になると考えた、C猛毒派市民運動が自分の商売のタネになると見た。ここで結果的に、「市民、行政、立法が同じ方向を向いた」。それで各種法規制ができて、一応の解決となった。

C先生:ダイオキシンも古典的公害型環境汚染の考え方、「リスクゼロ+予防原則」で解決されたという訳だな。それに、「被害は有ったとしても極めて限定的なのではないか」、という理解を持つ人々も増えてきたことも、比較的スムースに解決方向に向かった理由かもしれない。このような理解の他に、単に、社会が飽きたからだという説も有力だが。

A君:そう言えば、ダイオキシン本を珍しく買ってしまいました。なぜならば、著者が珍しい人だからです。大野ゆり子(由利子?)氏、当時衆議院科学技術委員会委員長、現在、厚生総括政務次官。厚生大臣の次に偉い人です。「猛毒連鎖 ダイオキシン汚染 −これだけは知っておきたい」、大野ゆり子著、学陽書房 98年12月15日初版。 ご本人は、京都大学薬学部卒の薬剤師で、公明党のようです。今回の自自公連立で政務次官になった。

B君:そんな本があるのは知らなかった。ちょっと読みたい。しばし休憩。

C先生:どうだった読んで見て。

B君:確かに、ダイオキシン騒ぎの後期に出た本ですから、ほぼあらゆる情報が出てますね。例の所沢新生児死亡率が高いというデータも出ています。その論調は、やはり恐怖本以外の何物でもないですね。大野氏に聞いてみたい。「現時点(時期と身分との両方)でも、こんな本を書くのか」、と。

C先生:ちょっと見ただけだが、やはり「リスクゼロ+予防原則」しか言えない人のようだ。このような考え方でダイオキシン問題を含むゴミ問題などの環境・厚生行政に取り組むと、まあミスリーディングな結論を出しそうだ。ダイオキシン汚染が250pg/g以上の土壌と同じように、調査対象に入れておくべきかもしれない。
 最後にその大野ゆり子氏への要望事項だが、本でご指摘のように、PCBの処理は重要な課題として残っている。これを在任期間中になんとか方法を考えて欲しい。その本によれば、「政府がPCB廃棄物の回収と処理のシステムを早急に作るべきだ」、と述べられている。ご本人が、それができる要職についたのだから、それを是非とも実現して欲しい。