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水にまつわる迷信
 2001版  08.19.2001




 最近、水道水を浄化する機器や材料などが売れるようだ。もちろん、ペット入りのミネラルウォータは、もはや日本人の主たる飲料水になってしまった(全く関係ない雑学だが、紙パック入りのミネラルウォータが存在しない理由は、紙には微妙な臭いがあるためとされている)。先日の今週の環境でも記述したように、スーパーに飲料水を汲みに行くということも普通に成りつつあるようだ。
 ペットボトル入りのミネラルウォータの環境負荷は水道水をそのまま飲む場合の1500倍も大きいので、環境調和型社会にとっては、余り良いことではない。
 それ以外にも「飲料水商売」には環境問題に対して悪影響がある。それは、「超自然的な要素を盛り込んだ作り話が多すぎる」からである。今後の環境問題の解決のために、市民には、「地球・生命などに対する科学的な理解に基づいて自らの行動を環境調和型に変更すること」、が求められている。すなわち、「超自然的な水」が流行することは、科学的な理解を阻害する。この意味から言って、環境上望ましくない。そこで、今回も水にかかわるいくつかのキーワードを批判してみたい。


C先生:色々なキーワードをちょっと解説しながら、超自然的あるいはオカルト的な要素があるかないか、議論してみようか。

A君:本日取り上げる水関係のキーワードは、
還元水(酸化還元電位)
麦飯石(イオン交換能、吸着能)
マイナスイオン水
アルカリイオン水
磁気水
逆浸透膜
 これらの言葉は、朝日新聞の記事にすらでてくるものなのですが、記者がその中身を分かって書いているか、そうでないか、それが問題ですね。

B君:まず、還元水か。これは、以前の「あるある大事典」の静電気のところでもでてきたが、いわゆる酸化還元電位の話。この電位がプラスだと、酸化力をもった物質を含み、マイナスだと還元力をもった物質を含んでいる。これは、「イオン化傾向」なるものと同じもので、水素が水素イオンになる電位(本当はこの書き方は駄目)を標準にしていて、これが0mV。

A君:日田の天領水などは、活性水素が入っているというのですが、活性水素というものが本当に水中に存在できて、それがポリエチレンなどの包装で分解しないのか、と言われるとこれはよく分からない。いずれにしても、これを飲むと体内が還元的になって、活性酸素を消すから健康によい、ガンを予防するという主張になる訳です。そして、どうも日田の天領水の酸化還元電位はマイナスらしいのです。

B君:どうせ活性水素が入っていても、量的には知れている。それで原因で電位がマイナスなどになるわけが無い。マイナスにするには、人工的になんらかの還元剤を足しているのではないか。

C先生:水道水の酸化還元電位がプラスだから体に毒だという話があるが、これもふざけた話だ。なぜならば、水道水には残留塩素が殺菌のために必要だとされている。そのお陰で、先進国では感染症の大部分が克服できたようなものだ。塩素はそれこそ活性酸素を出して菌を殺すのだから、電位がプラスであるということが感染症対策面から言えば安全だということなのだ。
 一方、オゾンや紫外線などでも、水を殺菌することはできるが、塩素殺菌とは根本的に違うところがある。それは、オゾン・紫外線の殺菌力は持続しないということ。だから、浄水場で殺菌しても、その後混入する細菌に対しては無力なのだ。だから、若干の塩素が必須。もっとも、これまでは、塩素を大量に入れておけば安全というある種の信仰があったが、これはこれでまた間違いのように思える。
 大体、酸化還元電位がプラスの水を飲めば、すぐ体内が酸化的になるなど、これまた根拠がない。マイナスの水を飲めば体内が還元的になるなども迷信だ。どうしてもマイナス電位の液体が欲しければ、レモンジュースでも飲み続けたら良いだろう。消化管というものは、「体の内部にあるのだが、実は皮膚と同様外側だ」、と考えるべきもので、注射をすることとは全く違う。

A君:それではそろそろ次です。麦飯石。この石は、普通の地殻を構成している岩石がちょっと変化したもので、花崗岩、本当は花崗班岩らしいですが、それが風化してできたもの。多孔質化しているので、様々な物質を吸着することができる。さらに、もともとナトリウム分を含むのですが、その代わりに、カルシウムなどを取り込んでイオン交換する作用も持っているらしいです。

B君:この麦飯石なるものは、古くから中国では使われているらしい。普通の岩石よりも表面積も大きいので、多少成分が溶け出す。それがミネラルの補給になるなどというふざけた説もある。日本人にとって、本当に補給しなければならないミネラルなど、ほとんどない。カルシウムが不足なら牛乳でよい。

C先生:麦飯石の効果は、硬水を軟水化する可能性、若干の有機小分子の吸着、などの効果はあるだろう。しかし、それでトリハロメタンが全部取れるとか、細菌が繁殖しないとか、となると、これは疑問だろう。

A君:イオン交換、吸着といったことが飲料水作りに必要なら、ゼオライトを用いた方が効くのではないでしょうか。ゼオライトは、合成洗剤にはいっているから、こんなものは入っているだけでイメージが悪くなるので使わないのかもしれません。しょせん、飲料水商売はイメージ商売ですからね。

B君:トリハロメタンを除去したければ、沸騰させるのが良いだろう。殺菌にもなるし。自宅で水道水を沸騰させる。鉄分も補給したければ南部鉄瓶が良いだろう。それで、ガラス容器に移して冷ましてから冷蔵庫で冷やす。これで、最高のミネラルウォータの完成でーす。

C先生:麦飯石は遠赤外を出すから、風呂に入れるとあったまるなどというこれまた馬鹿話があるが、麦飯石が遠赤外を出すのなら、ホウロウバスでも遠赤外線が出る。水からだって出ている。それに出ているからどうという問題でもない。風呂から体への伝熱は、お湯からの伝導によるものがもっとも多いに決まっている。赤外線などという輻射が水中で効くか?

A君:それに、麦飯石の効果というものが、イオン交換と吸着だとしたら、それは寿命があるということを意味しますね。無限に効く訳ではない。

B君:確かに、その通りだな。イオン交換は、水酸化ナトリウム・食塩水などで再生が可能だろう。吸着の方は、温度を上げて乾燥させ、脱着を行う必要がある。

C先生:麦飯石はインターネット市場でも売っているところが多いが、そんな注意書きが付いてくるのだろうか。まあ疑問だな。最初は無害でも、長い間続けていると、それこそ雑菌が繁殖しそうな気がする。大丈夫だろうか。

A君:次に行きますか。「マイナスイオン水」という言葉が、先日の朝日新聞にあったのですが、これは難しい。もともとマイナスイオンは水滴ですからね。どうやってマイナスイオン水を作るのか、不明。

B君:アルカリイオン水に行くか。これは、電解水だ。通常、何か電解質を入れて、水に電気を通すようにしてから、膜をつかって電気分解をするみたい。Webを若干調べていたら、アルカリイオン水については、
http://www.geocities.com/denkai_hp/top_d.html
がお奨めというので、覗いてみたら、酸化還元、酸性アルカリ性、電気分解についての化学の基本知識は怪しい。「酸化」と「酸性」が違うことが分かっていないようだ。

C先生:陽極側の水は酸性水と呼ばれるが、その実態は、どうやら次亜塩素酸らしい。酸素より先に、まず塩素が電気分解されて出てくるのかもしれない。電解質(電気を通すため)として、酢酸カルシウムを使う場合があるらしいので、そのときには酢酸なのだろうか。こちらは捨ててしまうらしいが。次亜塩素酸は、塩素系の漂白剤に使用される。酸化力のある、すなわち、活性酸素を出す化合物。

A君:陰極側の水が含むものは何か、ということはなかなかわからないですね。もしも、酢酸カルシウムを入れているのならば、水酸化カルシウムかなにかが入ってのでしょうか。やはり微量の有機物が還元されて残っているのでしょうか。

B君:どうもよく分からん。

C先生:還元力が欲しければ、レモンジュースでも飲んでいる方が良いと思うが。カロリーが心配なら、B君特製のミネラルウォータにレモンをたらした水が良いだろう。

A君:磁気水というのは変ですね。水は常磁性体ですから、まず磁気の影響を受けない。もしも影響を受けるとしたら、それは、重金属イオンでしょうか。手近なところでは、鉄ですが。しかし、鉄が水溶液になっていたとして、磁気は影響するのでしょうかね。

B君:超交換相互作用などがあるから、イオン状態では影響を受けないだろう。受けるとしたら、それは、鉄粉あるいはさび、特に、黒さびであるFeだろう。あれはフェリ磁性体だから。

C先生:磁気で鉄やさびを除去するという技術はあるみたいだ。それ以外に、水に対してなにか効果的というものは、証明不能。まあ詐欺のレベルだろうな。

A君:そして最後の逆浸透膜。これは、海洋深層水からミネラルウォータを作るところで、すでに述べていますね。

B君:逆浸透膜は、目が細かいから、ナトリウムなどのイオンも取れてしまう。こういう言い方は不正確のようだが、まあ良いだろう。だから、海水からの淡水を作る設備などに使用されている。

C先生:逆浸透膜を使えば、もちろん、分子は取れる。しかし、飲料水が純粋なほど良いのかどうか、それは分からない。本当かどうか知らないが、蒸留水は体に良くないと言われる。だとすれば、逆浸透膜で作った水は体に良くない可能性がある。

A君:これで大体カバーしましたが、これまでのところ、麦飯石は超自然的なうたい文句が多いようでした。イメージ商法のようです。

B君:酸化還元電位だが、ある教科書によれば、本当はかなり濃い溶液でないと、「何を測定しているのか分からない」、らしい。だから、純粋に近い水の場合の酸化還元電位などは、本当は意味が無いのかもしれない。

A君:磁気水はまあ嘘。マイナスイオン水は実態が不明。アルカリイオン水とは何か。誰も学問的にちゃんと解析していないとしたら、それはやはり偽物の証拠なのだが。

C先生:その点、逆浸透は本物だが、水以外の成分はほとんどすべてが取れてしまうから、海洋深層水から作ろうが、水道水から作ろうが、例え、下水処理水から作ろうが、同じ水ができると考えてよい。それに海水を一滴二滴たらせば、それで海洋深層水ミネラルウォータの完成でーす、という訳だ。こんなものを誰か買いますか? 逆浸透膜を高圧にして無理やり通すので、エネルギーの消費量は非常い大きいプロセスですから、値段は高いから、心理的には効くからしれませんがね
 ところで、アサヒ本生の話。発売当初行っていた宣伝では、「アサヒ本生は海洋深層水を使っている」、としていたが、最近、その宣伝を止めてしまったようで。なぜだろう。発売当初には、大々的に宣伝していたのに。 他社からの文句が効いた?