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異分野交流フォーラム参加 03.20.00




 異分野交流フォーラムとは、科学技術庁の予算でJST(科学技術振興事業団)が主催している会合で、「異なる研究分野、組織の研究者に出会いと議論の場を提供し、研究者の自由な意見交換から、自らの研究のヒントあるいは既設の学説にとらわれない新しい発想を生み出し、これらの成果から新しい研究領域、課題などを創出することを目指す」、もの。
 今回、3月17日から20日まで、八ヶ岳ロイヤルホテルで開催された。コーディネータは、国立環境研の副所長 合志陽一先生。その趣旨は、「地球温暖化、内分泌撹乱物質、ディーゼル排ガスの健康影響といった現代を代表する環境問題についても、その実態の把握は十分ではなく、部分的な情報にもとづいて対応がとられようとしている。個別のトピックスを越えて、広い視野から総合的な検討を加えることが必要」、ということ。題して、「実態把握に根ざした環境問題の捉え」。
 さて、異分野交流フォーラムには2回目の参加であるが、このフォーラムは、どのような議論が行われたかは「非公開が原則」。すなわち、その場で述べられた意見については、それが学問的に正しいとか、非倫理的であるとか、あるいは非論理的である、といった批判の対象にすることは許容されていない。しかし、どのような研究が発表されたか、あるいは、どのような方向からのコメントがあったか、については、部分的に公開してかまわないと判断し、新しく得られた知識、あるいは、修正された知識について、若干のメモを作成してみたい。


C先生:またまた週末が消滅した。今回は、八ヶ岳ロイヤルホテル、甲斐大泉駅から1.2kmぐらいのところだが、で勉強会に参加していた。参加者は、45名程度。参加者はその筋の一流の研究者であった。
 セッションは第1から第5まであって、第1セッションの有害物質の諸問題では、環境ホルモン関係、ダイオキシン、農薬などの8件の報告が行われ、議論された。各発表について、30分のプログラムが組まれていたが、皆さん時間を全く無視。どんどん遅れて、最後は体力勝負になった。18日土曜日だけで、なんといっても16件の発表があったから、30分だとしても8時間。実際には、40分平均ぐらいあったから。正味10時間以上の研究会だった。プログラムを一応示すか。

プログラム 以下のような講演と自由討論時間があった
セッション1:有害物質の諸問題 講演8件
 「性と生殖」 星 元紀(東京工業大学)
 「環境ホルモンと生殖」 井口泰泉(岡崎国立共同研究機構)
 「環境ホルモンと生殖機能」 堤 治(東京大学医学部付属病院分院)
 「環境ホルモンと男性生殖機能」 森 千里(京都大学大学院)
 「ダイオキシンリスク評価とその不確実性」 森田昌敏(国立環境研)
 「ダイオキシン等による母乳汚染とリスク効果」 長山淳也(九大医療短大)
 「AhR(aryl hydrocarbon receptor)の作用メカニズム」 藤井義明(東北大学)
 「農薬と環境ホルモン−エクジソンとアゴニスト」 上野民夫(京都大学)
セッション2:生態影響と生態系モニタリング
 「化学物質、特に農薬類の生態系影響評価」 畠山成久(国立環境研)
 「野外を汚染する人工化学物質は生物達のコミュニケーションを撹乱する」
                   花里孝幸(信州大学理学部)
 「海棲哺乳類を指標にした海洋汚染」 宮崎信之(東京大学海洋研)
 「海生生物のP450を指標とした環境モニタリング」 藤田正一(北海道大学)
セッション3:新たなリスクのトレンド
 「放射線リスク」  秋葉澄伯(鹿児島大学)
 「照明光スペクトルの生体影響」 安河内朗(九州芸術工科大学)
 「抗菌社会の落とし穴−キレイ好きの功罪検証」 藤田紘一郎(東京医科歯科大)
 「電磁界・電磁波のリスク」 新田裕史(国立環境研究所)
 「シックハウスと化学物質過敏症」 柳沢幸雄(東京大学)
 「PM2.5の健康影響」 小林隆弘(国立環境研究所)
 「飲料水のリスクを考える」 真柄泰基(北海道大学)
 「広域災害と国際的なリスク」 喜多悦子(国立国際医療センター)
 「脳と環境」  黒田洋一郎(東京都神経科学総合研究所)
セッション4:計測技術の新たな展開
 「脳機能の新しい計測法」  小泉英明(日立製作所基礎研)
 「SAGE法によるエストロゲン応答遺伝子の探索」 稲寺秀邦(東大環境安全センター)
 「衛星からの大気環境のリモートセンシング」 笹野泰弘(国立環境研)
 「衛星リモートセンシングによる陸域生態系モニタリング」 安岡善文(東大生産研)
 「環境バイオモニタリングの新たなアプローチ」 国本 学(国立環境研)
 「内分泌撹乱物質のinVitroバイオアッセイ」 西原 力(大阪大学)
 「分析システムのマイクロチップ集積化」 北森武彦(東京大学)
セッション5:リスクマネジメント
 「予防原則と環境リスク管理」 池田三郎(筑波大学)
 「環境リスクの総合評価」  安井 至(東大生産研)
 「新しいリスクの登場と損害保険」 江里口隆司(東京海上火災)

A君:プログラムを見ると、星正紀先生が「性と生殖」の話から始まっていますね。

C先生:星先生のお話は始めて伺ったが、極めて面白い。性が多様性を高めることにどのように貢献したか。如何に、地球上の生物の多様性が大きいかといったお話。当研究室の持続型LCA研究会で講演をしていただく交渉をしてしまった。

B君:このセッションから得られた新しい情報は何ですか。

C先生:東大病院の堤先生の臨床的情報。不妊症がいまや7組みに1組み。卵子、精子の異常が増えている。子宮内膜症も増えている。卵胞液も、ビスフェノールA、ダイオキシンで汚染されている。子宮内膜症については、喫煙が発症を抑えているというデータもある。

A君:えーーと。喫煙はダイオキシン摂取を10pg/本ぐらい増やすはず。となると、ダイオキシンが子宮内膜症の原因では無い証明なのでは。

C先生:実は、その質問をしている時間が無かった。多少の感想だが、環境ホルモンを研究しているサークルの情報だけが堤先生に伝わっているように見えた。

B君:環境ホルモンに対してはどうです。やはり深刻かどうか。

C先生:やはり基礎データが決定的に不足している。今回得た新しい情報は、次のようなものだ。
(1)「男性生殖能力は減少しているか、について。どうも、最近の若い男性は能力のピークを迎えるのが早く、余り長持ちしないので、晩婚は問題かもしれない」。(森千里先生の講演から)
(2)「inVitroのスクリーニングが相当進んで、フェノールがパラ位についた化合物に女性ホルモン活性があり、それ以外のものには無いことが分かってきた」。(西原力先生の講演から)

A君:いわゆる女性ホルモン活性物質として問題にされているのは、やはりビスフェノールA(BPA)、ノニルフェノール(NP)ですか。

C先生:まあ、そうだ。しかし、活性は相当低いように見受けられた。

B君:とすると、スチレン類、スチレンダイマーなどは問題ではない?

C先生:一度も話題にならなかった。余り問題にされている様子は無かった。恐らく、今後ともスチレンダイマーなどが問題になることは、化学構造からみて、まあ無いだろう。

A君:ダイオキシン類、DDT、PCBなどはちょっと違ったホルモン撹乱物質ですよね。

C先生:そう。それらに関しては、女性ホルモンの真似するというタイプではない。しかし、ヒトに対する影響は、恐らく女性ホルモンタイプよりも大きい。それらについては、「脳機能への影響があれば大変だ。ヒトの脳はサルの脳とどこが違うのか。それは、ヒトは脳が未完成な状態で生まれてきて、その後の外部からの刺激で完成状態になる。3歳までが重要。しかし、3歳ぐらいまで、脳の化学物質に対するバリア(血液−脳関門)が弱い」。(黒田洋一郎先生の講演から)

B君:影響としてはどんな形で現れる?

C先生:IQが低いのが一般的。また、学習障害や多動症など。黒田洋一郎先生は、ワイスの指摘を紹介している。「IQの平均値100ということは、もしも人口が1億人だとすると、230万人が130以上のIQを持つ。化学物質の影響で、もしもIQの平均値が95に下がったとすると、IQ130以上の人数は、99万人と半分以下になり、一流の「発明家、作家、科学者、大学教授」などの半数を失うことになる」、そうだ。

B君:もしも、一流の数が減ると同時に、世の中のせわしなさも同時に消滅すれば、歓迎だけどな。不謹慎か。ははは。

A君:後のセッションでの新しい情報は何か有りましたか?

C先生:そう。「電磁界・電磁波のリスク」の新田氏の発表はなかなか面白かった。電磁界・電磁波と白血病との関係は、疫学だとどうしても何か有りそうという結果になるが、すべての実験結果はそれを否定する。このような場合にどのような対策をとるべきか? というものだった。

B君:それは、困った問題だ。乱暴だが、その程度のリスクはあきらめるという以外は無い。

A君:もしも50〜60Hzが問題ならば、技術的には、直流送電にするという方法もあるけど、その変更に要する費用とリスクの回避による利益のバランスでしょうね。

B君:今回の勉強会で、新たに浮かび上がってきた新しいリスクは何です。

C先生:そうだな。これは、我が方が無知だったのだろうが、黒田先生のアルミとアルツハイマーの相関がやはり高いということか。やはり、ヤカンやお湯のポットは、アルミ製を止めるべきかもしれない。水道水の凝集剤に使っている硫酸アルミニウムも問題かも。ただし、シリカ(酸化ケイ素)分が共存していると、影響は少ないらしいが。

A君:それは電器屋としてはいろいろ対策をしていまして、テフロンでコーティングをしたり、ステンレスにしたり。

B君:昔ながらの鉄にするのはどうだ。錆びた鉄分を摂取すると、貧血にも良いし。

A君:錆びなどが今の市民社会に受け入れられると思ってるのですか。

C先生:概して「化学物質=環境リスク」という発表が多かったが、今回、コメンテータとしての登場だったが、名古屋大学細菌学の太田美智男先生の様々な場面でのコメント、「感染症の見地が見事に欠落している」、が非常に痛烈でかつ印象が強かった。環境、環境というが、最終的には、感染症で死んでいるケースが多いのではないだろうか。だから、環境と感染症との関係を注意深く見ないと。

B君:成る程。しかし、敢えて聞きたい。新しい有リスク化学物質は?

C先生:もう指摘されていることの繰り返しが多かった。大気中のさらに細かい粒子状物質とか、水道水中のヒ素とかホウ素とか。はたまた、柳澤先生のホルムアルデヒドと化学物質過敏症の関係なども。

A君:この世の中、化学物質過敏症になるような社会構造になっていますからね。

B君:テレビのコマーシャルを見ていると、抗菌剤を含む洗剤とか、脱臭剤とか。電子蚊取りとか。抗菌剤入りの洗剤など最悪なだけだと思うが。
 そう言えば、藤田紘一郎先生の「清潔はビョーキだ」の話は面白かったですか。

C先生:直接の話を伺ったのは初めて。面白かった。その後、晩飯時に色々とお話ができて、市民の超清潔症を治すために、お互いに頑張りましょうということになった。
 最後のセッションで、我が主張である、最低でも今後500年間のスコープをもって環境リスクを管理すべきだ、という発表をしたが、今回のような有害物質を取り扱っている環境研究者の中では、もっとも受け入れられない主張だということを再度確認できた。これまでの経験でも、環境観を変えないのが、第一に環境毒性の研究者、第二に環境市民運動家だから当然だが。