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塩ビ製調理手袋禁止へ 06.04.2000




 朝日新聞の5月31日夕刊によれば、調理の現場で盛り付け時に使われている塩ビ製の使い捨て手袋の使用を禁止する方向を厚生省が決めたらしい。塩ビ本体の問題ではなくて、問題の物質は、DEHP(フタル酸ジエチルヘキシル)である。新聞記事では、「環境ホルモン」と記述されていたが、本当に環境ホルモンとしての毒性で禁止になったのだろうか。


C先生:塩ビ製品が塩ビそのもの以外の理由で禁止になるようだ。調理用の使い捨て手袋だ。記事によれば、O−157騒ぎ以来、素手では不潔だということなのだろうか、給食センターなどでは、常用されるようになったらしい。

A君:手袋には、塩ビ製の他に、ポリエチレン製があるらしいが、どうも切れにくいということ、がさがさしないでしっとりとした感触があるためか塩ビ製が好まれるようですね。

B君:ところが、揚げたてのコロッケや魚フライなどをつかむと、当然ながら「高温&油」という最強のコンビによって、塩ビ中の可塑剤が溶出してしまう。

C先生:そういうことなんだけど、この手袋が全部台湾あたりからの輸入品で、日本製ではないところがなんとも。このDEHPという可塑剤だが、EUでは決まっているのに、日本ではTDIが決められていない。これがまあ不思議なことのひとつ。なぜだろうね。

A君:それは、もしもTDIが決まっていると、毒物だということを意味しますから、「普通の製品」ですと製造者が主張のために決めていないのでは。

B君:日本の社会がいささかでも毒性があればその物質の存在を許容しないから、当然なのでは。

C先生:リスクという考え方そのものも許容されない世間ということか。リスクゼロ思想が、ほぼすべての人の考え方だから。でも、そのために、かえってリスクの回避ができないという結果を生んでいるような気がする。

A君:このところ、同じ朝日新聞ですが、PCBの現状報告上下が掲載されましたが、これを見ても、まだ処理すべしという論調にはなっているようななっていないような。PCB処理によって、現世代がこうむる一瞬のしかもあまり高くはないリスクは許容して、将来のために禍根を残さない方法を取る、という発想を提案すべきだと思うのですが、やはり、まだそこまで書けないのでしょうね。

C先生:話を戻して、DEHPのTDI。

A君:はいはい。DEHPのTDIは、どうも体重50kgの人で、1850μg/日のようですね。1.85mgです。体重1kgあたりにすれば、37μg/kg/日。ダイオキシンの4pg/kg/日の約1000万倍。

B君:しかし、毒性は通常の毒性で、新聞に書かれている「環境ホルモン」という作用ではない。

C先生:何をもってして「環境ホルモン性がある」というのか、その定義も難しいところではあるが、少なくとも今回の毒性は、細胞への通常の毒性のようだ。しかし、その対象となっている細胞がセルトリ細胞という精子になる元の細胞のようだから、朝日の記者は環境ホルモンだと書いたのだろうか。このあたりの解釈を朝日新聞に聞きたい。

B君:「予測回答」は簡単ですよ。環境庁がDEHPを環境ホルモン物質に分類しているから、環境ホルモンなんだ。その作用が環境ホルモン作用かどうか、その判断については、「当社は預かり知らない」。

C先生:環境庁の環境ホルモンリストを撤回せよ、という主張が中西先生をはじめとしてなされているが、今回のような報道がなされてしまうと、確かにね。マスメディアよ、どのような場合に「環境ホルモン」の用語を使うか、自らの責任で自主基準を作成せよ、だな。

A君:今回のこの汚染の発現理由を敷衍すると、やはり、塩ビラップで電子レンジ加熱というのが危ういことにはなりませんか。

B君:コンビニの店頭で油っぽい食品をチンするのは、やばいかもしれんな。コンビニは、自ら使用しているラップ類の種類を明らかにすべし。家庭でなら、塩ビ製のラップは使っていないだろうから、まあ大丈夫かもしれないが。しかし、高温&油を有機物に接触させれば、油溶性の物質が溶出するのは、絶対的事実だから、コンビニ弁当に限らないが、高温の食品が接触する容器としてのプラスチックというものは、いつでも要注意。プラ容器類の本当の環境影響は何かと言えば、プラゴミを増やしているという点が最悪なのだが、それ以外にも直接人体への影響が有りうるという警鐘だと受け取ろう。

C先生:塩ビ業界も、日本で製造していない製品でこんな状況になって、またまた困っているだろう。今回の話は、一般廃棄物ではなくて、産業廃棄物として処理されるべき手袋の話ではあるのだが、塩ビを使い捨て用途に使うなというわれわれの主張が、たまたまこの例に適用されていれば、こんなことにはならなかった。

B君:さすがのNo!塩ビ派も、今回のことには気づかなかったのか。

A君:多分そうでしょうね。

B君:No!塩ビ派が、「コンビニのラップは非塩ビへ」、とか、「家庭のゴミ箱に入るような用途の塩ビ類は廃止」とか、「社会的コストを価格に反映させよ」とか、もっと限定的に、市民の生活に関係の深いところだけを市民運動として主張すれば良いものを、なんでもかんでも塩ビ全廃、あいかわらず塩ビ=ダイオキシンみたいなことを主張しつづけているから、支持もされない。

A君:今回、国内メーカーはすでに10社ほどが協力して、フタル酸エステルを使用しない調理用手袋を開発し、未使用表示をして秋から販売する予定。これって、本当に安全なんですか。DEHPという物質は、非常によく調べられている物質で、今回禁止にはなっても、なおかつ新代替物質よりは安全かもしれないという気がするのですが。

B君:新代替物質が何かという心配はあるな。

C先生:今回の話、もう一度ポイントを整理すると、
(1)製品の用途によっては、予想外の人体負荷が掛かる場合がある。
(2)DEHPも毒性はある。しかし、日本でTDIが決められていない。
(3)新代替物質が用いられる可能性が高い。
(4)やはり塩ビの使い捨て用途は駄目なのか。
(5)最後に、環境ホルモン作用とは何かと言う問題。

A君:今回、この(1)の事態が発見されたことは、大変なことですよね。国立医薬品食品衛生研究所が分析をしていたようですが。

C先生:やはり、地道な努力の結果だろう。

B君:(2)だが、人工物質に限らず、天然物質だって、極普通に食べている食品だって(添加物、汚染が無くても)無害ではない。という基本的な大原則を日本全体が理解すること。そして、TDIを決めるものは決める。リスクの定量的把握を!、だな。

A君:ある物質が有毒だと決まると、次々と代替物質とかいって、新しい物質を作り出す。これだと、ますます対象物質が増えてしまって、「発散の論理」ですよね。何時までたっても解決が無いように思いますね。業界が動物実験を行って安全性データなどを全部公開。そして、TDIも自主的に設定して、当面運用するということにしないと。

C先生:このあたり、残念ながら、化学業界の意識はそのようになっていない。今回の話しにしたって、調理用の手袋に塩ビを使わなければならない理由は、まあ無いのでは。ポリエチレン製などでもよいのでは。手触りが悪い、弱いのかもしれないし、しかも、もしもその問題を解決すると高価になるのだろう。安価だからという理由で塩ビ製を提供し続けること、これは、塩ビが廃棄段階で社会的コストをかける性質がある以上、業界としてやってもらっては困ることだ。現時点では規制が無いが、「持続性のある環境」の理念から見たときには、不公正な商行為だと思う。いつのまにか(4)の話しになった。

B君:医療用の塩ビなど、絶対に塩ビだという用途がまだあるようですし、医療現場とは、病気によるリスクの回避のために、手術・投薬といった別のリスクを患者に与えるのが当然という世界。この世界だからこそ、安価が選択基準にならずに、塩ビの本当の特性が活かされているのかもしれない。

A君:(5)の、今回のDEHPの毒性は、環境ホルモン性とは違うということ、これをきちんと理解して欲しい、というところは難しいですね。

B君:「毒性が生殖細胞に出るケース」、だからね。混同しやすい。

C先生:この問題は、環境ホルモン問題の持っている本質的な問題で、すなわち、「環境ホルモン問題とは何が問題なのか」ということにまだ答えを出さないから悪い。誰が責任をもつべきなのか。それは、一昨年度の補正予算で130億円もの国費の投入があったが、この国費を使って、「研究」をやっている人々の責任だろう。この国費は、「環境ホルモンを学問的に解析することに対する投資」ではなくて、「疑われた物質に対して、国民が安心できる政策とは何か、を決定のための投資」だったのだから。国費によって行われる環境研究には、純粋な基礎研究とは違う「+α」があるのだ。