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  化学物質管理の枠組みの現状  05.12.2002




 最近、化学物質管理関係の会議に良く出席している。実は、もともと化学屋ではあるのだが、有機化学から遠いところに居たためもあって、この手の話題は余り得意としていない。そこで、復習を兼ねて、ここでまとめをしてみたい。

 志しは高い。現在の日本の枠組みを一通りカバーする予定。1回では終わりそうも無いが。


C先生:環境問題として化学物質のリスクを気にする人が多い。実際のところ、良く分からない問題もないわけではない。以前のような大きなリスクがあるというものでもなさそうなのだが、全く安心してよい状態であるとも言い切れない。

A君:特に、最近は、感染症の減少、寄生虫の減少の傾向とは逆に、日本人でアレルギー症状を示す人が増えて、それにこれもアレルギー類似だと思われますが、シックハウス症候群だとか、場合によっては化学物質過敏症といった症状を示す人もいます。

B君:だから、化学物質について過度ともいえる心配をしている人もいる。実際、環境ホルモン問題は、大部分は過剰な心配だったように思える。

C先生:もともと化学物質のリスクの評価自体が非常に難しい問題であって、現在のリスク評価の方法は、「知恵の集大成」といったところであって、全部が全部科学的に厳密だというものではない。

A君:それでは歴史的なところから。まず、化学物質審査規制法があります。こんな説明文が有りました。

 「化学物質審査規制法は、PCBによる環境汚染問題を契機として、昭和48年10月に制定され、昭和49年4月から施行された。同法により新規化学物質については、自然的作用により化学的変化を生じにくく(難分解性)、生物の体内に蓄積されやすく(高蓄積性)、かつ、継続的に摂取される場合には人の健康をそこなうおそれ(慢性毒性)があるかどうかを、その製造前又輸入前に審査するとともに(新規化学物質の事前審査)、それらの性状をすべて有する化学物質を第一種特定化学物質として指定し、製造(輸入)・使用等の規制が行われるようになった。これまでに、新規化学物質については、5,879件(製造4,404件、輸入1,475件)の届出があり、4,679件(製造3,591件、輸入1,088件)の安全確認がなされている(平成7年12月末現在、その後毎年300件程度)。ただし、1トン/年以下の製造・輸入の場合であれば、確認の申出をすることになっていて、確認されれば、その年に限り製造・輸入が可能になる。
 一方、既存化学物質については、昭和48年の化学物質審査規制法制定時の国会の附帯決議により原則として国がその安全性の確認を行い、必要があれば、第一種特定化学物質等に指定するという仕組みがとられている。
 このため、既存化学物質について、
経済産業省は微生物等による分解性、魚介類への濃縮性を、厚生労働省は人への毒性を、環境省は一般環境中での残留状況と生態影響を調査、点検している。そしてこれまでに、1279物質が点検を受け、PCB、HCB、PCN、アルドリン、ディルドリン、エンドリン、DDT、クロルデン類、ビス(トリブチルスズ)=オキシド、PDA−Z2、TTBPの11物質が第一種特定化学物質に指定されている(平成14年4月末現在)」。

B君:分かったかな。要するに、PCBなる便利な物質だと思って絶縁油などに大量に使用していたものが、実は毒性があって、しかも、難分解性で蓄積性が高い。こんなものは禁止しなければということで、法律ができて、第一種特定化学物質というものが11種類決められて、製造・使用禁止になってる。どんな物質かは、付録参照。

C先生:そして、それ以後開発された新しい物質については、チェックをしなければ製造・使用が認められず、また古くからある物質は、既存化学物質というが、これは、怪しいものから順番に、国がチェックをしている。しかし、数万ある既存化学物質のうち、チェックが済んだのは、1500未満。

A君:一応、次に行きます。

 「また、トリクロロエチレン等の地下水汚染を契機として、昭和61年5月に同法が改正され、昭和62年4月から施行された。この改正により蓄積性は低いものの難分解性で、かつ慢性毒性の疑いのある化学物質を指定化学物質として指定し、製造及び輸入量の監視を行うこととなった。また、当該指定化学物質による環境の汚染により人の健康に係る被害を生ずるおそれがあると見込まれる場合には、製造等の事業者に対し有害性の調査の実施及び報告を指示し、有害性があると判定した場合には、第二種特定化学物質として指定し、製造及び輸入量等の規制が行われるようになった。
 そしてこれまでに、指定化学物質については、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等616物質が指定されている。また、
第二種特定化学物質については、平成元年4月に四塩化炭素、テトラクロロエチレン、トリクロロエチレンの3物質が初めて指定化学物質から第二種特定化学物質に指定されて以来、現在までに、23物質が指定されている(平成14年4月現在)」。

B君:少々分かりにくいけど、分かったかな。先の第一種特定化学物質のときのチェック項目が、「高蓄積性、難分解性、慢性毒性がある」という3種類だったのだが、ここから、蓄積性を除いたチェック項目になっている。

A君:そして、「難分解性で慢性毒性がある」ものは、指定化学物質として616種類指定されている。

B君:そのなかでも、被害が出そうだと思われるような物質については、第二種特定化学物質として、製造量、輸入量の規制をすることになる。

A君:そして、23物質が指定されているが、23物質しか指定されていないとも言える。具体的な物質名については、付録を参照してください。

C先生:ここまでが化学物質審査規制法の枠組みだ。問題意識をもって読んだ人は驚いたかもしれないが、急性毒性がいくら強くても、それは化学物質審査規正法では規制されない。それは、別の枠組みで規制される。

A君:毒物とか劇物とかいう考え方がありますね。

B君:毒物劇物取締法なるものがある。ある物質が急性毒性があるかどうか、それには次のような判定基準が使用されている。

1.毒物劇物の判定基準

毒物劇物の判定は、動物における知見又はヒトにおける知見に基づき、当該物質の物性、化学製品としての特質等をも勘案して行うものとし、その基準は、原則として次のとおりとする。

(1)動物における知見
  @ 急性毒性 
   原則として、得られる限り多様な暴露経路の急性毒性情報を評価し、どれか一つの暴露経路でも毒物と判定される場合には毒物に、一つも毒物と判定される暴露経路がなく、どれか一つの暴露経路で劇物と判定される場合には劇物と判定する。
(a)経口 毒物:LD50が30mg/Kg以下のもの
         劇物:LD50が30mg/kgを越え300mg/kg以下のもの

(b)経皮 毒物:LD50が100mg/kg以下のもの
       劇物:LD50が100mg/kgを越え1,000mg/kg以下のもの

   (c)吸入 毒物:LC50が500ppm(4hr)以下のもの
     (ガス) 劇物:LC50が500ppm(4hr)を越え2,500ppm(4hr)以下のもの

      吸入 毒物:LC50が2.0mg/L(4hr)以下のもの
     (蒸気)劇物:LC50が2.0mg/L(4hr)を越え10mg/L(4hr)以下のもの

      吸入 毒物:LC50が0.5mg/L(4hr)以下のもの
   (ダスト、ミスト) 劇物:LC50が0.5mg/L(4hr)を越え1.0mg/L(4hr)以下のもの

(d)その他

  A皮膚・粘膜に対する刺激性
    劇物:硫酸、水酸化ナトリウム、フェノールなどと同等以上の刺激性を有するもの
 なお、上記のほか次に掲げる項目に関して知見が得られている場合は、当該項目をも参考にして判定を行う。
   イ 中毒症状の発現時間、重篤度並びに器官、組織における障害の性質と程度
   ロ 吸収・分布・代謝・排泄動態・蓄積性及び生物学的半減期
   ハ 生体内代謝物の毒性と他の物質との相互作用
   ニ 感作の程度
   ホ その他

(2)ヒトにおける知見
ヒトの事故例等を基礎として毒性の検討を行い、判定を行う。

(3)上記(1)又は(2)の判定に際しては次に掲げる項目に関する知見を考慮し、例えば、物性や製品形態から投与経路が限定されるものについては、想定しがたい暴露経路については判定を省略するなど現実的かつ効率的に判定するものとする。

   イ 物質(蒸気圧、溶解度等)
   ロ 解毒法の有無
   ハ 通常の使用頻度
   ニ 製品形態

(4)毒物のうちで毒性が極めて強く、当該物質が広く一般に使用されるか又は使用されると考えられるものなどで、危害発生のおそれが著しいものは特定毒物とする。

2.毒物劇物の製剤の除外に関する考え方
  毒物又は劇物に判定された物の製剤について、普通物への除外を考慮する場合には、その判断は、概ね次に定めるところによるものとする。
  ただし、毒物に判定された物の製剤は、原則として、除外は行わない。

(1)急性毒性が強いため劇物に判定された物の製剤を除外する場合は、原則として次の要件を満たす必要があること。

  @ 除外する製剤の急性毒性は弱く、基準で示された劇物の最も弱い物と比較して1/10程度以下と考えられるものであること。この場合において、投与量、投与濃度の限界において安全が確認されたものについては、当該経路における急性毒性は現実的な危害の恐れがないものと考えること。

 (例)経口  LD50が3,000mg/kg程度以上
    経皮  LD50が10,000mg/kg程度以上
    吸入(ガス)  LC50が25,000ppm(4hr)程度以上

  A 経皮毒性、吸入毒性が特異的に強いものではないこと。

(2)皮膚・粘膜に対する刺激性が強いため劇物に判定された物の製剤を除外する場合は、当該製剤の刺激性は、劇物相当以下であること。
(例)10%硫酸、5%水酸化ナトリウム、5%フェノールなどと同等以下の刺激性

(3)上記(1)及び(2)の規定にかかわらず、当該物の物理的・化学的性質、用途、使用量、製品形態等からみて、当該の製剤による保健衛生上の危害発生のおそれがある場合には、製剤の除外は行わない。


A君:特定毒物というものがあるようですね。

B君:それは、付録を見てくれ。

A君:毒物の定義が、経口毒性の場合、半数致死量LD50で、大体30mg/kg。すなわち、体重1kgあたり30mgということだと、余り猛毒でなくても、毒物になる雰囲気ですね。

B君:劇物だと30〜300mg/kgという範囲で、たったの10倍しか違わない。

C先生:300mg/以上は普通物で、そしてさらに10倍違うと、毒性が弱いことになって、除外されてしまう。

A君:急性毒性というものは、そんなにも確実なことが言えるのでしょうか。動物種による差がどのぐらいあるか、ということですが。

B君:通常マウスで試験をするのだから、ヒトとマウスとの感受性がどのぐらい違うかということか。

C先生:それは常に問題になる。(http://www.ne.jp/asahi/ecodb/yasui/Month010527.htmから5月31日の記事を参照して下さい)。
 一般には、10倍ぐらいの安全係数を「種差対応用」として付けるので、まあまあなのだろう。この世界は、絶対確実ということは無くて、不確実な情報で何をするか、ということで、「知恵」の塊みたいなものなんだが。

A君:まあ、ちゃんとしたシステムのようには見えますが。

B君:システムが変だったら、被害が出るだろう。

C先生:その被害というものも、最近では見えにくくなっているから、本当に安全なのか、と言われると、絶対の自信を持って言う訳にも行かない。それに、歴史的に積み上げられた法律体系だけに、なんとなくすっきりしない。農薬関係は、また別の法律があるし。

A君:それに、ヒトを対象としているだけでよいのか、といった検討は別途やる必要がありそうですね。

B君:生態系影響か。それは結構難しいが、まあ、放置もできない。どういう考え方でやるか、それで大きく変わりそうだ。

C先生:ちゃんとしたシステムのように見えるとは言うものの、ベンゼンだとかトルエンだとか、汎用の化学物質が大量に放出されてきた。そのリスクを減らすべきだという議論になって、なんとか放出量を下げる方法は無いか、ということで、自主的な取り組みが作られた。

A君:PRTR法ですね。http://www.env.go.jp/chemi/prtr/1/1index.html
に説明があります。日本では1999(平成11)年、「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(PRTR法)により制度化されました。

B君:Pollutant Release and Transfer Register:環境汚染物質排出移動登録という名称がなんとなく馴染めない。

C先生:それはそれとして、対象化学物質などは?

A君:こんな説明があります。「対象となる化学物質は、人の健康や生態系に有害なおそれがあるなどの性状を有するもので、環境中にどれくらい存在しているかによって「第一種指定化学物質」と「第二種指定化学物質」の2つに区分されています。このうちPRTR制度の対象となるのは、「第一種指定化学物質」の354物質です。
 対象化学物質の選定は、有害性についての国際的な評価や生産量などを踏まえ、専門家の意見を聴いて決定されました」。

B君:具体的に354物質を挙げると?

A君:第一種指定物質の354物質については、http://www.env.go.jp/chemi/prtr/list01.htmlを見てください。
 同じく、第二種指定物質は、http://www.env.go.jp/chemi/prtr/list02.htmlにあります。

C先生:第一種指定物質は、相当広範な地域の環境において継続して存すると認められる物質で、年間の製造量・輸入量が100トン以上の物質となっている。

B君:意外と大量だ。

C先生:数100種類にも及ぶ化学物質をいちいち規制しようとしても、なかなか難しい。しかし、排出量は減らしたい。こんなことで決まったのだ。実際ベンゼンなる物質は、工場のような固定発生源だけではなくて、ガソリンに入っているものだから、車からも放出されている。その量たるや平成7年で、1万6千トンにも及んだ。しかし、PRTRを始めることになってから、放出をしないで回収するという努力がなされ、平成11年には、1万トン程度に削減された。特に、工場からの放出量は、平成7年の6000トン程度が2000トン程度まで削減されている。

E秘書:そんなに出ていて本当に大丈夫なんですか。そのあたり、安心のためのデータが公表されることが必要だと思います。まあ、減っているというのが一つの重要な情報で、過去何年間かの感触から判断するというこができますが。

B君:しかし、これからも減るのだろうか。

C先生:一応目標が設定されているから、減るだろう。特に、塩ビモノマーのような発ガン性があるとされている物質は特に。
 発ガン性については、付録を。

A君:ここまで来ても、化学物質管理の全貌が書けたわけではないようですね。

C先生:とにかく、非常に多種類のしかも性格が違う化学物質をどのようなグランドデザインに基づいて管理するか、いろいろな研究者だけではなくて、市民も参加して知恵を絞る必要がある。本日はここまで。また続きをやろう。


付録:

第一種特定化学物質:http://www.safe.nite.go.jp/kasin/busitu2.html

第二種特定化学物質:http://www.safe.nite.go.jp/kasin/busitu3.html

指定化学物質:http://www.safe.nite.go.jp/kasin/busitu4.html

毒物のリスト:http://www.nihs.go.jp/law/dokugeki/dokubutu.php3

劇物のリスト:http://www.nihs.go.jp/law/dokugeki/gekibutu.php3

特定毒物のリスト:http://www.nihs.go.jp/law/dokugeki/tokuteidoku.php3

発ガン性評価リストbyIARC:http://193.51.164.11/monoeval/crthall.html