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環境税を考える  08.11.2001




 政府も、昨年までは環境税という言葉さえ拒否という感じだったのだが、いよいよ環境税を正式に検討することになったようだ。一旦、検討に入ると、導入も近いかもしれない。
 さて、環境省の委員会がアンケートを行ったところ一般市民の59%が環境税を受け入れるという意向を示した。この数値はなかなかのもので、これならば、将来ともなんとかなるとレベルのものではあるが、環境税というものが常に環境負荷を下げるとは限らない。特に、持続可能性という意味から考えると、様々な問題点がある。


C先生:今日は環境税。環境税と言っても、いわゆる炭素税だけを考える、といった単純なものではない。当面、二酸化炭素排出量を低減させることは重要だが、使い方を誤ると、持続型ではなくなってしまう可能性も大きい。

A君:環境税といっても、(1)どこから取るか(2)取った税金を何に使うか、この入口、出口の議論をやらないと、妙なことになりますね。(1)の入口ですが、(あ)二酸化炭素排出量に対して課す炭素税、(い)エネルギー使用量に対して課すエネルギー税、(う)地球から採取した資源に課すバージン資源税、(え)廃棄物の排出に課す焼却・埋め立て税、(お)それ以外、といった分類になりそうですね。

B君:その(お)それ以外というのは、何かあるのか。税金としてはそんなものではないか。排出権取引といったものを組み合わせればいくらでも可能性があるが。

C先生:その議論は後にしよう。

A君:続きです。(2)出口側の議論ですが、まったく一般財源にしてしまう、といった方法論が一方の極にあって、その対極が、課税の趣旨に直接関係のある財源にするといった方法です。もしも、その方法をとるとするのなら、(ア)二酸化炭素排出量の削減技術の開発、(イ)省エネルギー技術の開発、(ウ)省資源技術の開発、(エ)リサイクル費用の補填、などといったものが、入口側と1:1で対応したものになります。もちろん、それ以外の対応をさせることも可能で、たとえば、二酸化炭素排出量に対して課税して、それをリサイクル費用の補填などに使うといった方法もありそうです。

B君:日本の税制がどのぐらい柔軟に対応できるか、それも問題かもしれない。普通の炭素税であれば、燃料を買うとき、電力を買うときなどに課税がなされるのだが、それを、例えば、「ネギ」を買うときにも課すかどうか。これは後でまた。

C先生:それでは、どのような困った事態がありうるか、といった問題点の洗い出しをしよう。

A君:まず、炭素税だけが課せられた場合なのですが、一番起きそうなことが、大量放出産業に対する海外移転の圧力が高まることでしょうか。例えば、鉄鋼業、セメント製造、といった産業を日本国内では止めてしまえば、京都議定書対応策として有効ですから、重い炭素税を掛けてしまうと、明らかにそんなことになりそう。

B君:それ以外の産業だって、海外移転を加速するだろう。となると、日本国内の産業の空洞化を加速させることになる。

C先生:炭素税を課す場合、製品のLCA的なデータをもとに課すという方法論にすれば、海外産のものでも、国産でも同じような取り扱いにすることができる。しかし、この方法論を実践するのはなかなか難しいだろう。

B君:さっき言いかけたことだが、ネギを買うときにもLCA的な計算根拠による炭素税を課すことが可能ならば、環境的には良くなる。中国産のネギが問題になってセーフガードの対象になったが、そのネギの生産・輸送にかかわるエネルギー使用量、二酸化炭素使用量は、国産のネギに比べたら価格は低くても、格段に大きいだろう。なぜならば、中国で生産され、そこから輸出港まで保冷車で運ばれ、海上輸送も保冷状態。この間の二酸化炭素放出量に比例した税金を課すことにすれば、多少価格的な優位性は多少失われるだろう。

A君:まあ残念ながら、LCA的な課税という考え方は、「理論的にはありえても、、、、、、」、というところですね。

C先生:それ以外にも、輸出産業の競争力が低下するという懸念もしばしば表明されるが、これは、国境を越すときに、それまで支払った税金を還元するという方法論でなんとか、対応可能だろう。

A君:いずれにしても、二酸化炭素大量排出産業だけでなくて、すべての産業の海外移転を加速するということに対してどのような対応が取れるか、ということになるのでしょうか。

B君:それは難しい問題だ。排出権を考えるべきなのではないか。

A君:いくら排出権市場を作っても、鉄鋼業のある年度の実績に対して排出権を設定したとすると、海外移転をすると、国内の排出量が低下しますから排出権も売れるし、ますます海外移転を加速することになりそうですね。

B君:普通の排出権ではそうなる。なるほど。それを解決にするには新手法が必要だ。例えば、排出権の設定は、雇用者1名あたりの排出量とするというのが新しい提案。どうだ、こんなのは、恐らく、まだ誰も考えていないのではないか。

C先生:アイディアは良いが、取引の前提になる総量が一定という条件を満たしていない。例えば、A社がB社からその排出権を1トン/人分だけ買ったとしようか。B社の雇用者が1万人だとすると、普通の考え方なら1万トンの排出権がA社に移動したことになる。しかし、あくまでも一人当たりの排出権だとすると、B社の社員が2万人いたとすると、2万トン分の排出権が移動したことになる。市場における取引対象の量が一定ではないことになる。

A君:そうですね。もしもA社の社員が5人だったとして、1トン/人分の排出権を売るその直前に、社員4名をリストラしてから売買すると、ものすごいことができますからね。

B君:取引で駄目なら、環境税と組み合わせて何かできないだろうか。社員が100人のある企業が、これまで1万トンの二酸化炭素を放出していたとして、業務を拡大したために、社員が20名増えた。しかし、放出量は増やさなかったとする。これは、雇用あたりの環境負荷が低くなったことを意味するので、その分、税金を軽減するのが当然。

C先生:ということになると、排出量に対して税額を決め、社員一人当たりの排出量で割引あるいは割増率を決めるという方法になるのかな。これで、多少でも社員を増やすと有利という税制になりそうだ。
 まだ困ることは多数あるだろう。その議論に戻ろう。

A君:まず、紙のリサイクルなどが進まなくなります。なぜならば、二酸化炭素の排出量だけから言えば、化石燃料を主として使っていることになる再生紙の方が、環境負荷が大きいからです。バージンの紙であれば、ウッドチップの中に含まれているリグニンとヘミセルロースを燃料として使ってセルロース分を紙にしますが、その際放出される二酸化炭素は、バイオマスであるということで、通常は勘定しません。だから、二酸化炭素の排出量だけを基準として課税すると、紙はバージンが有利になります。

B君:それはLCA的発想だろう。要するに、環境税の対象になりそうな燃料・電力といったものに再生紙はより多く依存するから、価格競争力を失う。一方、バージン紙は、ウッドチップがもっている自分自身のエネルギーを有効活用して紙になるから、環境税の対象になりにくい。ということ。

A君:他のリサイクルの場合についても、同様の事態が考えられますね。バージン素材で完成度の高いものを輸入すれば、その大部分の二酸化炭素の放出は国外で行われてます。しかし、それをリサイクルしようとすると、日本国内で二酸化炭素を放出することになって、環境税が掛かる。

B君:それまたLCA的説明だな。要するに、リサイクルをしようとすると、日本国内で調達する燃料・電力に依存することになるから、環境税の分だけ、経済的に不利になる。

C先生:その話は、炭素税ではなくて、エネルギー税にすれば、ある程度解決が可能な問題ではあるのだが、再生エネルギーを優遇しようとすると、エネルギー税はつらい。まあ、エネルギーにしておいて、再生可能エネルギーに対しては特別の措置をするという方法あたりが、妥当なところだとは思うが。

A君:単に炭素税にすると、天然ガスがもっとも二酸化炭素排出面では有利ということになって、単なる燃料種の切り替えだけ優先するということにもなります。

B君:欧州の二酸化炭素放出削減の対策の主体が、古い石炭から天然ガスへの切り替えによって行われているので、それと同じことが起きるだけ。これは、目先の解決にはなっても、エネルギー枯渇というような観点からみれば、つまらない変更にすぎない。

C先生:毎回述べているように、温暖化のリスクが突出しているという判断ならば、それはそれでも良い。資源枯渇あたりも重要だというのなら、炭素税だけでは解決不能。
 むしろ、使いにくい燃料やエネルギーであっても、それを優先して使ってもらえるような仕組みを組み込むことが望ましい。再生可能エネルギーは当然のこととしても、それ以外にも、石炭とか重質油とか。将来世代に残すエネルギーが、使いにくいものだけになるのは本当に公平なのだろうか。

A君:さらに困る話の議論に行きますが、プラスチックなどを処理する際に、埋め立てをしてしまえば、塩ビなどでしたら100年間ぐらいは分解しないでしょうから、二酸化炭素の放出にはなりません。しかし、焼却したら、その時点で二酸化炭素を発生してしまいますから、埋め立てを優先すべし、ということに成りませんか。

B君:だから、それはLCA的発想ならそうなるが、実際には、燃料・電力に対してのみ課税されるとすれば、プラスチックが燃料としての価値をもつようになって、むしろ積極的には課税されない燃料として使おうという動きになるのではないか。

A君:でも、リサイクルには回らなくなるのでは。もともとリサイクル価値の低いものをわざわざ高い燃料代を払ってやるのは変人ということになりますから。

C先生:だから、環境税を課す場合には、その出口側で、リサイクル事業などには補填を行わないと駄目だということになる。これが果たして行われるだろうか。なぜならば、どうやって補填金額を決めるかということ自身が結構難しい問題だからだ。

A君:やはり、バージン資源税などが平行して検討されないと、炭素税だけでは歪みますね。

B君:とは言っても、バージン資源税をどうやって掛けるかとなると、これが難しい。輸入資源に対して税金を掛けて、製品輸入に税金を掛けないと、ますます製品輸入になる。すなわち、海外に製造拠点が移転することになる。

C先生:そろそろ止めよう。本日の結論だが、環境税なるものを掛けると、様々なことが起きる。個人的には、環境税を課すことそれ自身には賛成だが、残念ながら、簡単なシステムでは上手くいかない部分が多いということだろう。