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21世紀の自動車のエネルギー  03.24.2001




 昨年も同様の記事を本HPに掲載している(「自動車とエネルギー」10.22.2000)。その改良版である。最大のポイントは、燃料電池車が本当に実用になったとして、燃料使用効率がどのぐらい上がるか、である。その場合、燃料はどのような形になるのだろうか。


C先生:この話題、前にもやった。しかし、今回、日本化学会で講演(3月24日)をしなければならないので、データを再検討した。

A君:前提条件としては、なにを検討したのですか。

C先生:それは、まず、21世紀の環境問題の展望がまず第一。たとえば、温暖化がどのようにエネルギーの選択に影響を与えるか、排気ガス規制がどのようになるか、エネルギー供給限界がどんなところか、バイオマスからメタノールが合成されることになるのか、まあ、それぞれすでに本HPでは議論しているものばかりだ。

B君:一言でいって、温暖化問題が、二酸化炭素排出規制に影響を与えることは考えられるが、それが使用エネルギーを決定的に決めるのは、まあ21世紀には無いのではないか。排ガス規制については、カリフォルニアのゼロエミッション車が多少緩んだので、これまた、あまり影響は無いのではないか。

C先生:そのカリフォルニアのゼロエミッション車の話を少々やろう。

A君:了解。この話は、1990年に始まったのですが、当初、1998年から規制が開始されて、各自動車会社が販売する車は、ある割合で完全ゼロエミッション車でなければ、ならないという規制でした。これを満たす車としては、電気自動車と水素使用の燃料電池車だけ。当然のことながら、1998年に実現できる訳もなく、施行が延期されて、2003年からになりました。しかし、完全ゼロエミッションを要求することは、変わらないままだったのですが。

B君:電気自動車がゼロエミッションかどうか、これは大問題だぜ。英語でEVだが、これは、Emission elsewhere Vehicle(余所で放出車)の略だと悪口があった。発電所付近では、結構、NOx、SOxなどを発生しているのだから。

C先生:それに、カリフォルニアの電力不足での停電事件以来、電気自動車が増えてもますます電力が不足して困るし、大体この法律そのものが悪法であるといった評価があって、大分妥協的になった。

A君:対象がZEVばかりだったのが、PZEV(partial)というものができて、これは、超低公害車の意味。ちゃんと調べていないのですが、ブルーバードシルフィーはこれに相当するのでしょうか。それに、AT−PZEV(advanced technology-)というジャンルもできた。ここに入るのが、天然ガス車、ハイブリッド車、炭化水素燃料電池車、メタノール燃料電池車など。さらに、電気自動車も、FFEV(full function electric vehicle)の他に、CEV(city)、NEV(neighbor)、などといったコミュータ系の分類ができて、これらは当初は高評点、すなわち、1台で4台分とかいった評価なのだが、その後はあまり評点が高くないことになりました。

B君:原文を読んでもあまりはっきりしないが、PZEVだと1/4台、AT−PZEVだと1/2台相当に勘定をしてくれるみたいだ。

C先生:しかし、10%をZEVにせよ、というノルマも年度で徐々に高めて、最終的には、16%をZEVにすることを強制した。

A君:しかし、カリフォルニアのZEVは、車公害が対象の制度で、燃費を高めなければならないということでは無いのですね。

B君:アメリカンドリームは、大きな車に乗ること。この価値観を変えるのは難しいのだ。

C先生:燃費規制は、なかなかできないようだ。ヨーロッパは、小型のディーゼル車に切り替わっているようだが、それは燃料の価格が高くなったから。一番効果的なのは、やはり、炭素税などによる経済的な手法だろう。

A君:これで議論の境界条件は大体できたのでしょうか。

B君:そうみたいだな。

C先生:もう一つだけ。水素に対する認識だ。現状だと、水素を作るもっとも安価な方法が天然ガスを原料とする方法だ。将来、自然エネルギーによる水の電気分解などといった方法論が採用される可能性が無い訳ではないが、水素を使えば、全く化石燃料を使わなくて済むという訳ではない。

A君:さて、車の動力の種類ですが、21世紀となれば、燃料電池車だということですね。これは、本HPでも、取り上げて、かなり懐疑的なコメントをしてきました(2000年の記事、「燃料電池」01.05.2000、「自動車とエネルギー」10.22.2000)。それに、ディーゼル車はどうなるか。もしも、NOxやPMよりもCOの方が重大というようなことになれば、ディーゼルの方が有利ですが。

B君:ディーゼル車の排出規制もすでにやった(「ディーゼル排気規制強化」01.14.2001)。今後は、厳しい排出ガス処理で燃費の良さという特性が死ななければ、ディーゼルの活躍の余地もある。

C先生:一応、燃料自動車から検討し、その優位性がどのぐらいあるのか、ということを明らかにしよう。その課程で結論が出るだろう。
 
A君:了解。燃料電池は、現在のところ実用になりそうなのは、高分子の電解質を使ったもので、燃やせる燃料は基本的には水素です。それ以外に、メタンなどを直接燃やせる可能性も無いわけではないですが、現状では難しいと思います。となるとその水素をどうやって作るかが大問題。なんとかして水素を作って、それを車に搭載して燃料にする場合が一つのケース。どこで水素を作るか、それにも何種類かあって、工場で作ってガソリンスタンドに運ぶ方法や、メタンかなにかの形でガソリンスタンドに運んで、そこで水素にする方法などがあります。水素をどうやって燃料として車に搭載するか、これも問題です。

B君:出光興産の柴田氏などの検討によれば、40立米の水素を車に様々な方法で搭載しようとすると、大体次のような体積と重さになるという。

 水素用の燃料タンクの重量と体積
重量(kg) 体積(l)
吸蔵合金 182 68.6 トヨタ組成
シクロヘキサン 50 64.1
ナノチューブ 39 39.3
高圧ボンベ 361 200 200気圧
液体水素 39 50.3


C先生:一番良さそうなのは液体水素にして積むことなのだが、超低温なだけにどうやって温度を制御するか、これが問題。現在、カナダのバラード車の本拠地であるバンクーバーなどで走っている燃料電池のバスは、高圧ボンベを積んでいる。しかし、乗用車に360kgもの燃料タンクを積んでしまったら、しかも、体積が200リットルもあるので、邪魔だし重いし、まさに二重苦になってしまう。

A君:カーボンナノチューブに吸着させるという方法論がデータ上は良さそうですが、まあ、未来技術だということと、コストがいくらかかるか分からない。しかも、吸着だから、燃料を満タンにするのに何時間かかるか、これまた分からない。

B君:結局、乗用車用としては、水素で積むのは難しいかもしれない。

A君:やはり液体燃料が優れているということになりますと、メタノール、ナフサ、ガソリンなどを搭載して、それを車に設置したリフォーマで改質して水素を出して、燃料電池に使うという方式が有力だということになります。しかし、リフォーマは、温度が高いのです。メタノールで300℃ぐらい。炭化水素系だと800℃ぐらいになるのではないかと言われています。
 
C先生:そんな技術的な困難を考えて、現在のところ、メタノール派とガソリン派があって、メタノールを支持しているのは、ダイムラークライスラー、ガソリン派は、GMやトヨタ。評価が分かれる理由は、まず、燃料電池自動車がいつ普及するか、その見通しが問題。メタノール派は、比較的早く、まあ2010年ごろには普及するとの見通しで、技術的に容易なメタノールを主張している。ガソリン派は、余り普及速度は高くないことを前提として、社会的インフラに投資をしないですむことを優先しているように見える。

B君:それにアメリカというところの特異性がある。米国は広いが、パイプラインが整備されていて、ガソリンなどもそれで輸送されている。ところが、メタノールを現在のパイプラインに流すと、錆が出る。だから今のままだとメタノールは使えない。メタノール専用のパイプラインを敷設すれば良いのだが、それにはべらぼうな投資が必要になる。一方、ヨーロッパは、狭いから、タンクローリで運べば良い。だから錆の問題は出ない。

C先生:そろそろ、燃料電池車がどのぐらいの効率が期待できるのか、水素をどのように供給するかでどのように変化するかといった議論をしよう。

A君:その件ですが、出光興産の柴田さん達が発表しています。まず、それぞれの車種についての熱効率を次の表のように仮定します。ガソリン車で16.5km/リットルということは、小型乗用車級。これが水素燃料電池車ですと、なんと50km/リットルを超しますから、すごい燃費だなあと言うことにはなるのです。今ガソリン車の一つの目標が3リットルカー、すなわち、100kmを3リットルのガソリンで走れる車ですが、実現できているのは、まだ、ホンダインサイトの一部車種(マニュアル変速)ぐらいですから。

仮定した自動車の効率と燃費
エネルギー効率 燃費(km/l)
普通ガソリン車 16.0% 16.5
水素燃料電池車 50.00% 51.6
メタノール燃料電池車 38.50% 39.7
炭化水素燃料電池車 32.70% 33.7

B君:これだけ見ると何がなんでも水素燃料電池車を作らなければならないように見えるな。ただ、水素をどうやって作るか、これが問題なんだが。

C先生:現状では、化石燃料からの作るしかないからなあ。結局化石燃料を減らすことになる。将来、風力や太陽光発電で水の電気分解というシナリオが現実のものになれば、そこから水素を得て、やっと再生可能エネルギーになる。

A君:と言うわけで、柴田さん達も、液化天然ガスを原料として水素を作るというシナリオを書いて、どのぐらいのエネルギー効率になるかを検討していますね。検討したシナリオを表にすると次のようになります。
検討したシナリオ
(1) LNG→水素製造→パイプライン→SSで備蓄
(2) LNG→水素製造→液化→ローリ輸送→SSで備蓄
(3) LNG→配送→SSで水素製造→SSで備蓄
(4) メタノール製造→配送→メタノール燃料電池車
(5) ガソリン製造→配送→炭化水素燃料電池車
(6) ナフサ製造→配送→炭化水素燃料電池車
(7) ガス液製造→配送→炭化水素燃料電池車


B君:LNGから水素を作るときに、どこでやるかで2種類。工場で作る場合には、パイプラインでSS(ガソリンスタンド)までどうやって送るかが問題か。液化したら、それはエネルギーを食うな。

A君:そして、総合エネルギー効率のランキングは次のようになります。

総合エネルギー効率ランキング
1. 水素FCV(工場型) 30%+
2. ナフサFCV 30%+
3. 水素FCV(SS型) 29%
4. ガソリンFCV 29%
5. メタノールFCV 25%
6. ガス液FCV 21%
cf.
普通ガソリン車 14%
ハイブリッド車 25%


B君:水素燃料自動車の効率は総合的に見ても良いということか。30%行けばまずまず。しかし、ハイブリッド車の2割増しだから、すごく良いという訳ではない。

C先生:そうなんだね。二酸化炭素排出規制あたりが非常に厳しくならないと普及という訳には行かないのだろう。性能的には、残念ながら、ガソリン車の方が上だと考えられるし。

A君:その二酸化炭素排出量で比較すると、次のようになります。かなり幅があるのは、燃料製造プロセスが確定しないからです。

温暖化ガス排出比較 
ガソリン車=100
1.水素FCV(工場型) 29〜43
2.水素FCV(SS型) 32〜43
3.ナフサFCV 〜45
4.ガソリンFCV 〜49
5.メタノールFCV 42〜55
6.ガス液FCV 55〜68
7.ハイブリッド車 60〜70


B君:エネルギー効率よりも二酸化炭素排出量で見ると、水素燃料自動車の優位性がはっきりする。5割ぐらい良いかもしれない。ただ、水素燃料電池自動車は、技術的には簡単でも、水素供給のインフラ整備が難しい。だからといってメタノールやガソリンの燃料電池車だと余り優位性が無くなってしまう。やはりハイブリッド車基準で2〜3割良い程度になる。

C先生:まあこんなものだろう。最終的には、なんらかの技術的なブレイクスルーがあって、水素の供給がうまくできる状況が実現されれば、優位性が発揮されるだろう。それには、相当な時間を要することは確実だが。

A君:しかし、水素を自然エネルギーにするためには、太陽光発電、風力発電などがもっと普及する必要がありますね。

B君:日本の状況を考えると、プラス面、マイナス面両方がある。世界的には、前回やったように、バイオマスエネルギーに依存する方向だと考えられる。しかし、日本におけるバイオマスエネルギーの潜在的供給量は悲観的。やはり面積が足らない。となると、80倍ぐらいは面積効率の良い太陽光発電ということになる。これは技術的チャレンジの側面も大きいので日本向きか。だから水素を高効率で発生できる可能性が無いわけではない。しかし、風力はやはり適地が足らないのですぐ限界が見えそう。

C先生:日本は狭いことを逆に利用して、間欠性の自然エネルギー用の専用電力線を作って、消費地まで電気の形で輸送し、消費地で水素製造という形のシステムを作ることができるか、ということが次の検討課題になりそうだ。電力から水素なら、ガソリン(燃料)スタンドでできるだろうから。

A君:水素をガソリンみたいな形で車に供給するのではなくて、恐らく、カーボンナノチューブなどの吸着剤にあらかじめ水素を吸わせてあるカセットの形で入れ替えということになれば、短時間でエネルギー供給が可能になりそうですね。小型なら1個、大型なら2個といった形で。

B君:それには、やはり世界的な規格化が進む必要があるな。事実上の規格化でも良いのだが。ところで、卓上用のカセットボンベの共通規格はどのようにして決まったのだろうか。岩谷あたりの有力メーカーの規格がデファクトスタンダードになったのだろうか。

C先生:そうだな。考えたことも無かった。ご存じの方はお知らせください。
 そろそろまとめに行こう。

B君:やはり普及には30年掛かる。エネルギーの価格がべらぼうに高くなって、燃費に相当強烈な関心が来るか、なのだろうが、そんな事態はそう簡単には起きない。

A君:結論的には燃料電池車が普及するのには、なんらかの社会的システム、特に、二酸化炭素排出規制が極めて厳しくなるといった状況が必要不可欠なのではないでしょうか。

C先生:しかし、定置型の燃料電池は、結構いけるかもしれない。熱供給も期待できるからだ。もっとも、ディーゼルエンジンあるいはガスエンジンでも良いことにはなるのだが、振動・音・排気の面から、マイクロガスタービンか燃料電池ではないだろうか。問題はコストだ。
 結論的に言えば、エネルギーの問題は、品質の勝負ということが難しい分野であって、最終的にはどうしてもコスト競争になりがちな分野なんだ。そこに、燃料電池が参入してくること自体は、選択の幅が広がるので歓迎すべきことなのだが、コストの壁をどうやって越すか、これが燃料電池にとって最大の問題だ。そう簡単ではない。