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COP6の評価 12.24.2000
第1部:京都議定書に戻って検討開始




 先日ある機会があって、通産省、環境庁をはじめとする省庁がCOP6の決裂についてどのように評価しているのかについて議論チャンスがあった。どうやら、担当者の意見は、日本は何も悪いことをしていないし、決裂したのは、別に誰の責任とも言えない、ということのようだ。
 もう少々細かく記述すれば、日本政府の本音は、
(1)やはり森林吸収分の3.7%は産業界への言い訳のために(?)本気で欲しい
(2)それがCOP6でもう少々で貰えそうだったのに、ドイツが反対してCOP6が潰れた、
(3)COP3では、不合理な数字を日本だけに押しつけられたので、COP6で本来の数値に戻そうとしていただけだ、
(4)アメリカが批准しなくても、いわゆる55−55という条約発効の条件が満たされる可能性はある、
という理解なのではないかとの結論に到達した。
 一方、新聞報道を見る限り、そんな政府の本音が十分に表現されていないのではないように見える。一方、NGOによる「日本が悪い」という意見の表明はいくらでもある。「環境問題の本質が、合意形成にある」、としたら、このような日本の現状は極めてまずいのではないだろうか。
 今回の議論はかなり長いので、いくつかに分割する。まず、森林吸収について京都議定書の再検討から。


C先生:COP6決裂以来、約4週間が経過した。その後の情報がやっと形になりつつある状況なので、ここらでもう一度評価し直してみよう。

A君:決裂時まで、さらに決裂後も、われわれの情報は、主として新聞情報に限られていますよね。だから、かなりバイアスが掛かっていると思われます。そこで、そのあたりをもう一度チェックするために、毎日、読売、朝日、日経のCOP6関係の記事を集めました。

C先生:情報をインターネットから探しだ。といっても、主たるものは2種類だ。
「ハーグ会議の結果の読み方」、松尾直樹(IGES/GISPRI) http://www.iges.or.jp
Earth Negotiations Bulletin,   http://www.iisd.ca/climate/cop6/

B君:そういえば、COP3の京都議定書の英語版を読んだことが無かった。環境庁が訳した日本語版はあるが、実際のところ、京都議定書は、アラビア語版、中国語版、英語版、フランス語版、ロシア語版、スペイン語版がそれぞれ正本なんだが、日本語版は正本ではない。だから一度正本を読んでおく必要があるかと思って用意した。

C先生:検討すべき情報ファイルは、そんなところだろうか。そこで、検討すべき内容だが、やはり、今回は、「森林吸収」に限ろう。これだけがいわゆる「Crunch Issue」(決定的な対立問題)という訳ではないが、日本+カナダ+米国とEU+途上国の対立構図のかなりの部分を占めた問題だったことに間違いは無いだろうから。

B君:森林問題だが、茅陽一先生の発言(日経11月26日)によれば、「京都で日米は森林吸収分の十分な算入を前提に温暖化ガス削減を受け入れた経緯がある」、とのことだが、文章としてどのように書かれているか、これが問題。そこで、正本たる英語版を仕入れた訳だ。森林吸収に関係するのは、第3条の第3項と4項なんだ。

C先生:まあ、基本に戻るということで、京都議定書の解釈をもう一度やり直してみよう。

B君:了解。では行くぞ。
第3条3項の森林関連部分
The net changes in greenhouse gas emissions by sources and removals by sinks resulting from direct human-induced land-use change and forestry activities, limited to aforestation, reforestation and deforestation since 1990, measured as verifiable changes in carbon stocks in each commitment period, shall be used to meet the commitments under this Article of each Party included in Annex T.

A君:それでは、日本語に訳しましょう。うーん、結構、難しいですねえ。カンマの解釈が。全体としてなんと一文なんですが、まあ、一文で日本語にしたら意味不明ですね。いくつかの文章に分割しましょう。もっとも、分割すると意味が変わる可能性があるのですがね。

第3項関連部分、AB&C和訳:
温暖化ガスの正味の変化量、すなわち、放出量から吸収量を差し引いた値は、各目標期間について科学的に検証可能な炭素蓄積量の変化として示すこと。この値が、付属書Tに含まれる各国の約束した削減量と比較されるべき量である。吸収量の算出は、直接的な人為的活動の結果として生ずる土地利用(ランドユース)の変化と対森林活動に対して行う。ここで対森林活動とは、1990年以降に行われた植林、再植林、森林伐採を意味する。

B君:ご苦労。まだ良くわからん。まあいいや、環境庁が作った日本語を示そうか。
第3項関連部分、環境庁和訳:
各約束期間において検証できるような炭素貯蔵量の変化として測定された、1990年以降の植林、再植林及び森林の減少に限り、直接的かつ人為的な土地利用及び林業活動から生ずる温暖化効果ガスの発生源による排出及び吸収源による除去の純変化は、付属書Tの締結国のこの条の規定に基づく約束の履行のために用いられなければならない。


C先生:一文として訳してあるな。しかし、これでは日本語の方が英語の原文より難しいなあ。

B君:次に行く。
第4項の関連部分
The Conference of the Parties serving as the meeting of the Parties to this Protocol shall, at its first session or as soon as practicable thereafter, decide upon modalities, rules and guidelines as to how, and which, additional human-induced activities related to changes in greenhouse gas emissions by sources and removals by sinks in agricultural soils and the land-use change and forestry categories shall be added to, or subtracted from, the assignmed amounts for the Parties included in Annex T, taking into account uncertainties, transparency in reporting, verifiability, the methodological work of the Intergovernmental Panel on Climate Change, the advice provided by the Subsidiary Body for Scientific and Technological Advice in accordance with Article 5 and the decisions of the Conference of the Parties.


A君:またこれで一つの文章ですか。長いですねえ。こちらの方がさらに分かりにくい。
第4項関連部分和訳byAB&C
本議定書の締結国会議における最初のセッションか、あるいは、それ以後になる場合にはなるべく早く、算出様式(modalities)、規則、ガイドラインをいくつかの事項について決定しなければならない。それらの事項とは、以下に述べる様々な「追加的な人間活動」を原因とする排出ならびに吸収量に関するものであり、これらの排出量と吸収量は、付属書Tに含まれる各国の約束削減量との加算または減算すべき量である。また、その際、注意すべき事項として、不確実性、報告の透明性、検証可能性、さらにIPCCにおける方法論に関する議論、第5条できめる科学技術助言機関の助言、について考慮すべきである。
 温暖化ガスの排出・吸収に関連する「追加的な人間活動」の対象リスト
(1)農業用地の土壌
(2)土地利用の変化
(3)森林関連分野


第4項関連部分和訳 環境庁版
この議定書の締約国の会合として機能する締約国会議は、その第1回会合において又はその後できる限り速やかに、不確実性、報告の透明性、検証可能性、気候変動に関する政府間会合が行う方法論についての作業並びに第5条の規定及び締約国の決定に基づき科学的及び技術的助言に関する補助機関が行う助言に考慮を払いつつ、農業土壌、土地利用変化及び林業分野における温室効果ガスの発生源による排出および吸収源による除去の変化に関連する追加的な人為活動のうち、付属書Tの締約国の割当量に加え、又は割当量から差し引くべき活動の種類及び方法に関する仕組み、規則及び指針を決定しなければならない。

B君:第2文にいく。
Such a decision shall apply in the second and subsequent commitment periods. A Party may choose to apply such a decision on these additional human-induced activities for its first commitment period, provided that these activities have taken place since 1990.

A君:はいはい。
第4項関連事項 AB&C訳:
 この決定は、第2期以降の目標期間に対して適用することとする。しかし、これらの追加的な人間の活動が、1990年以後継続的に行われているという条件を満たすものならば、第1期の目標期間(2008〜2012年)に追加することを選択する国があってもかまわない。 

A君:この英訳は自信がない。なぜならば、最後のところのsinceの訳し方が分からない。

C先生:sinceをロングマン(英英辞典)で引くと、since=from (a time in the past) to present.となっていて、完了形の継続の場合に使うのだが、この使い方だと、その真意がちょっと理解しがたい。1990年時点では実施していないで、それ以後新しくやったものが勘定に入れられないという意味だとしたら、それはこの議定書の真意に反するような気がする。ただ、第一目標期間に適用するものなら、1990年からずーっとやっていたものだけ、という意味なら分かるが。

B君:参考までに、
環境庁版訳文:
この決定は、第2期の約束期間又はそれ以降の約束期間に適用されるものとする。締約国は、その活動が1990年以降に行われる場合には、これらの追加的な人為的活動に係る決定を、第1期の約束期間に提供することを選択することができる。


C先生:ご苦労だった。議定書などというものを読むべきではないなあ。英語だけでなく日本語が下手になる。
 まあ、それはそれとして、この議定書の意味するところを議論してみよう。

A君:まず、いくつかのキーワードがありますね。第3条3項の方ですが、「温暖化ガスの正味の変化量は、炭素蓄積量の変化だ」、という定義が基本の基本になりそうです。比較年度が1990年だということは、第3条1項に書いて有るので、もっともオーソドックスな議論は、こうなります。
 1990年において、化石燃料の燃焼などで二酸化炭素を放出した量が、当然蓄積量が減った分であり、その時点で、森林などが二酸化炭素を吸収した量が、その時点で蓄積量が増えた分となる。その差が1990年における正味の放出量ということになります。簡単に式で書けば、次のようです。
  1990年の蓄積量の減少分=1990年の(放出量−吸収量)
 そして、比較の対象になるのが、2008年〜2012年の第一目標期の平均として、
  第1目標期平均の蓄積量の減少分=その時期の(放出量−吸収量)
この差を1990年の蓄積量の減少分で割れば、増加・減少分が算出できる。これが正統的な考え方で、EUはすべてについてこのような考え方ではないかと思われます。

B君:「吸収量の算出は、直接的な人為的活動の結果として生ずる土地利用(ランドユース)の変化と対森林活動に対して行う。ここで対森林活動とは、1990年以降に行われた植林、再植林、森林伐採を意味する」、という文章だが、一番分からないのが、森林伐採(英語の表現だとdeforestation)がなんで吸収量の算出のところで出てくるのかだ。

C先生:まあ完全なる表現が難しいのは分かるから、意識としては、植林によって吸収源が増えたとしても、伐採したらその分はさっぴきなさい、という意味だと思うが。

B君:それでは、再植林というのは何ですかね。

C先生:それは分からない。勿論、植林してあったところを伐採して、その後に植林することなんだが、わざわざ再植林という言葉を使わなければならなかったのか、理解できない。計算方法に含みをもたせたという考え方があり得るのかも知れない。

A君:そうですね。日本の主張の一つに、再植林の計算法というものが有りましたから、そうかもれない。日本の主張だと、木を伐採しますよね。その伐採分は無視して、植林した分だけをカウントするという主張だったようですね。少しでも吸収量を増やしたいというところなんでしょうね。

B君:どうやら日本政府にはネット(正味)という考え方が無いのではないか。

C先生:伐採した木をすべて家の材料にでもして、余った木片を炭にでもして保存すれば、理屈上は不可能ではない。

B君:しかし、それは屁理屈でしょ。

A君:しかし、植林、再植林、伐採と決まっていては、そこで、日本だけ再植林について特殊な理解をしたところで、稼げる量は決まっていますよね。

C先生:どうもそうらしい。さすがの日本でも、0.3%の吸収が第3条3項の植林、再植林、伐採による吸収分だとしているようだ。もっとも、それは、FAO流の考え方で、IPCC流の考え方を採用すると、0.2%の排出増になるというから、まあ、この第3条3項はゼロで良いのではないか。

B君:ということは、日本が主張した3.7%の吸収というのは、いずれも、第3条4項に根拠があるというのか。それはもともと無理だろう。大体、第3条4項には何も書いてない。

C先生:本当、そうなんだ。何も書いていない「追加的活動」の一つとして、森林分野があり、そこで新しい仕組みを発明して、「森林吸収で3.7%削減」だと主張しているものなんだ。

A君:具体的には、森林の管理・保守作業でその森林が成長するということらしいですね。

C先生:いずれにしても、基本的な考え方は、炭素蓄積量が増えるかどうか、と見るべきだろう。炭素蓄積量を担うものとしては、
(1)地上バイオマス
(2)地下バイオマス
(3)リター(敷きわらなどの散乱物)
(4)枯死木
(5)土壌
(6)伐採木材
などがあるが、これらが森林の管理・保守によって増加することが必要。だから、管理・保守といったって、その内容が問題になる。

B君:それに、基本的な疑問だが、追加的人間活動というものが、1990年時点で行われているとしたら、その差だけが正味の減少量になるのであって、全体が減少量になるとは思えない。第3条3項に記述されている原則が、第3条4項にも適用されると考えなければないと思うが。

C先生:その考え方が正しい取り扱いだと思うのだが、日本が3.7%に固執しているのは、当然ながら、COP3で6%を背負ってしまったことが、産業界から理解されていないからだと思われる。

A君:森林の管理を1990年よりも格段に増やすという方針なんでしょうか。そうだとすれば、日本の森林は最近放置されているものが多いらしいですが、森林保護にお金をつけようということですか。それだとまたまた農業振興みたいな話になりませんかね。

B君:いずれにしても、日本がどのような論理で3.7%を主張しているのが、その論理構成をもっと市民社会に対して分かるようにアッピールすべきだ。

A君:今回のCOP6については、CASAなどのNGOの実力が上がったという評価があったのですが、CASAの発表文を読むと、やはり、政府案への対決姿勢だけが目立ち、一般市民が読んでも全く分からないだろうと思われる文書がWebなどにも掲載されている。これでは、まだまだ不十分。

C先生:CASAも温暖化オタクの集団としては能力を付けたのかも知れないが、まだまだコミュニケーションの重要性が分かっていないのでは無いか。

A君:そうですね、皆さんにもCASAのHPをアクセスしてもらって、どんな分かりにくい文書がアップされているか見ていただくことが良いかもしれません。
CASAのホームページ http://www.netplus.ne.jp/~casa

B君:これから議論するのだろうが、COP6の続きとして行われるであろう、COP6.5などで3.7%が認められる可能性が低くなって、2010年時点で、25%以上の二酸化炭素排出を削減しなければならない状況になるだろう。これに対して早めに対策を練らないと、間に合わない。まあ、たとえ認められたとしても、25%削減が22%削減になるだけの話。だから、どっちにしても早めの対策が必要。

C先生:それを次回以降も検討する予定だが、この3.7%の削減分を産業界の直接的な省エネには押しつけないということを確約して、あらゆる手法を探ることが日本の産業技術のさらなる発展につながるという前向きの姿勢をもつことが重要だと考える。

A君:しかし、NGOといっても色々ですよね。「大量生産・大量消費・大量廃棄の生活を続ければ、人類は100年もたないだろう」、by池内了氏(名古屋大学教授、文春新書「私のエネルギー論」の著者)、といった理解では、産業界がこれを無視せざるを得ないのはよく分かる訳でして。

C先生:次回は、新聞がどのように報道したか、そこに登場する人々の意見がどうだったか。各新聞社の社説はどのような意見だったのか。こんな視点でやってみよう。