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L.ブラウン流の脱炭素論 08.15.2000






 読売新聞の8月13日版に、レスター・ブラウン氏(ワールドウォッチ研究所長)による「地球を読む−化石燃料との決別」と題する意見が出た。内容としては、米国のロビー団体「地球気候連合(GCC)、いわゆるカーボンクラブ」の動向。この団体は、米国がCOP3における京都議定書を批准しないように、さらに、いかなる地球規模の二酸化炭素排出量削減に合意しないように米国政府に圧力をかける目的で、1300万ドルの費用をかけてテレビコマーシャルなどを打った団体。ところが、この団体は内部崩壊を開始した。デュポン、BPが脱退し、シェルも、フォードも、テキサコも、GMも、クライスラーも続いた。
 ブラウン氏によれば、今日まで世界中で行われてきた様々な官民の取り組みは、炭素排出量の増加を食い止める上で、実質的な効果をもたらしている。96年以降、地球規模の炭素排出量は横ばいになった。二酸化炭素を最も排出する燃料である石炭の使用量は5%低下した。

C先生:ブラウン氏も、前回コルボーンの件で文句をつけたブループラネット賞を受賞している。地球上の様々な状況について、かなり的確な予測をしているが、どちらかといえば、「悲観派」に属するだろう。
さて、今回の米国カーボンクラブが解散の方向だという報告は、地球レベルでは極めて望ましいことではある。しかし、米国ですらそのような方向だとすると、日本にとって、極めて重大なる影響がでると認識すべきだろう。なぜならば、日本でも不景気のためにエネルギー使用量は減少したが、これはおそらく一時的なもので、今年は猛暑ということもあって、エネルギー消費は確実に増大しているに違いない。京都議定書の1990年比で6%削減を今年の排出量に適用したら、17%以上の削減率になりかねない。日本は政府としての対策が大幅に遅れている。産業界はまあまあ自主的努力が進んでいるので、これ以上の努力をしても効果でるか?という状況。

A君:二酸化炭素排出量は、エネルギー消費量にほぼ比例しますが、その排出源を、産業セクター、民間セクター、輸送セクターとすると、産業セクターの排出量は、このところ横ばい状態。しかし、民間セクター、これには、家庭からの排出とオフィスからの排出を含みますが、エアコンの運転時間の増大とパソコンなどの機器の増加によって増加しっぱなし状態。輸送セクターも、宅急便などが便利になったツケとして増加中。日本全体の排出量を削減しようとしたら、やはり、個人の意識の変革が必要不可欠ですね。そのためには、税制を変えるとか、いろいろ対策を取らなければもう間に合わないのではないですか。京都議定書の排出量は、2008年から2012年の5年間平均で算出する訳ですから。

B君:アメリカは、二酸化炭素排出削減などができるわけがない。安全牌である。だから日本もあまり真剣に考える必要はない。こんな風に考えすぎてきたのではないだろうか。それに、日本には森林吸収分で3.7%減という計算値があるのだが、あれは、世界的には認められる訳もないものだ。90年を比較の基準とする減少分以外は、理論的にみても算入されると考える方がおかしい。

C先生:われわれの二酸化炭素排出削減に対する考え方は、後でちょっと説明することになるだろうが、多少ブラウン氏のようなものとはちょっと違う。しかし、いずれにしても削減することが望ましいという考え方には違いはない。

A君:その議論を先にやりましょうよ。

B君:それでは、自分がまとめよう。
AB&Cの二酸化炭素削減に対する態度は、温暖化によるリスクと、エネルギー資源の枯渇によるリスクを適切に評価しながら、最適な方策を探るべきで、温暖化だけをリスクだと見なして、二酸化炭素の処理処分のためにエネルギーを使うなどという考え方はとんでもない。あくまでも省エネルギー的発想で行くべきだ。国際間排出権取引についても、排出量総量削減になる方向ならば、検討すべきだが、妙な国際間取引で、結果的に世界的削減ができなければ、意味はない。大体、本当に二酸化炭素を地球の現在の処理能力に見合った排出量にするのであれば、50%削減が必要だから、6%などという京都議定書の削減目標は、環境問題としての削減目標ではなく、国際的政治取引としての目標である。だからといって、無視することは不可能。京都会議を開催した国として無責任だから。当面の日本の課題は、自国内の努力のみで6%削減をまず見事に達成してみせること、だろう。
 こんなもので良いだろうか。

A君:まず、2010年まではそんな対応でしょうね。現時点で、ブラウン氏が指摘しているように、地球が温暖化しているのは事実です。20世紀でもっとも暖かだった年を並べてみると、上位15年は1980年以降に集中している。すべての大陸で氷河が溶け出していて、北極海の氷も減少中。
 しかし、この温暖化のうち、どれだけが二酸化炭素などの排出による人為起源で、どれだけが自然現象なのか、そして、今後100年間で温暖化がどのぐらい進むのか。もしも、2度/100年程度以下の速度であれば、それほど破滅的な事態にはならない。ここまで人口が増えたということを考えると、地球環境が変わることも、ある程度避けることができないだろう。地球環境の変化の速度によって破滅的状況が起きないように、人類側が自らの生活を制御するのが最良の解だろう。こんな考え方ですかね。

B君:ブラウン氏の主張は、最後の段落にあるように、「今や、企業の賢明な指導者たちは、われわれのエネルギーの未来が、われわれのエネルギーの過去とは驚くほど異なるものにあろうとしていることを知っている。世界のエネルギー経済の基盤は、炭素から水素への移行の初期段階にある」。ということのようだが、これは技術的には極めて難しいことをどのぐらい認識しているのだろうか。これが疑問。

C先生:そこだね。長期的に見れば、恐らく2000年という年が、石油離れの元年だったということになると思う。いや、すでになっているだろう。しかし、水素の時代に行くには、いくつものハードルをクリアーする必要がある。燃料電池による車にしても、水素ボンベを積んで走るので良ければ、製造コストを無視し、かつ都市内の交通としてだけならば、今日にでも可能。しかし、大部分の車が水素ボンベや水素吸蔵合金によるタンクを搭載して走るという状況は、現時点では全く不可能。30年後でも怪しい。どうやって水素を作るか。ガソリンスタンドならぬ水素スタンドどうやって作るのか。水素をどうやって車に供給するのか。ガソリン補給のように、5分間程度の時間で満タンにできるのか。全部不可能のように思える。やはり、メタノールなり、天然ガスなり、ガソリンに近い油なり、炭素を含む燃料を使って走る車を作るのが簡単かつ合理的のように思える。

B君:水素エネルギーが主流になるには、恐らく、自然エネルギー、すなわち、太陽電池、風力発電が、使用エネルギーの大部分を供給する状況が実現しないと無理でしょう。逆に、水素をエネルギーの一時蓄積手段として使わないと、太陽まかせ、風まかせのエネルギーは使い物にならないから。

A君:しかし、「それでも、計算上は不可能」、ということになっています。日本なら全エネルギーの15%ぐらいまでは自然エネルギーで供給可能というのが、もっとも楽観的な見通しだと思います。

C先生:このあたりが、ブラウン氏がどのような見通しを持っているのか、疑問点その2だ。相当長期的視点のある人だから、よけいに疑問なのだ。可能性としては、(1)温暖化のリスクが非常に大きいと考えていて、エネルギーの需給見通しについては考えていないのか。あるいは、(2)エネルギー需給の方は、省エネルギーとエネルギー変換で乗り越えられるという考え方なのか。あるいは、(3)エネルギー需給を考えてはいるのだが、当面の問題は、温暖化防止だと考えていて、エネルギー需給をしばらくの間は無視しているのか。

B君:想像ですが、その(3)では無いか。

A君:そうだとすると、石炭の使用量が減少したということに評価を与えるべきかどうか。なぜならば、早めに二酸化炭素を発生させた方が、長期的視点からみた場合に、温暖化防止に有効だという評価も有りますから。私は、(1)では無いかと思うのですが。

C先生:どちらかというと彼は悲観派だから、100年後には、石炭がまだまだ十分にあるのに、温暖化の縛りがきつくなって、炭素燃料は使えないという状態になるという考え方なのかもしれない。それなら(1)だ。実際には、このような状態にはならない可能性が高いが。

A君:化石燃料、新自然エネルギー以外の、たとえば、水力発電などについてはどのように考えているのでしょうかね。

B君:ブラウン氏は、自然保護派でもあるから、恐らく小規模水力程度は考えるが、大規模ダムには反対なのではないか。

C先生:ダムで思い出したが、実は、今年の7月7日に、黒部第4ダム、通称、黒四を見に行った。日本の水力発電ということになると、あそこを見ておかないとということで。このダム工事は、「世紀の大事業」と呼ばれ、日本の土木工事のレベルを示す事業だとされている。確かに、長野県側から後立山連峰の下にトンネルを掘って資材を運んだ。このトンネル工事も相当の難所だったようだ。ダム工事そのものも難工事で、結局171名もの人命が失われている。裕次郎の「黒部の太陽」なる映画もできた。

 そして発電量は、といえば、33.5万キロワットに過ぎない。天然ガスを燃料とする火力発電所であれば、100万キロワットなどのものが比較的容易にできる。という訳で、大規模の水力は、もはやコスト競争力を持たないだろう。日本でダムを作るとしたら、それは、飲料水・農業用水が不足して、人命に危機的状況が発生した場合ではないだろうか。

A君:同じ読売新聞に、黒四ダムの記事も出ていますよ。黒四の工事の主役だった、「トンネルの熊谷組」、「ダムの間組」がいずれも「そごう」と同じ運命になるかもしれないとのこと。これが、水力発電の現状を物語っているのでは無いでしょうか。

B君:ブラウン氏も、そのあたりの事情は知っているだろうな。

C先生:まあ、温暖化に対して、非常にストイックな問題意識をもっていて、地球の温度を人為起源で1°でも上げてしまうことは悪だと考えている、というあたりが正解かもしれない。われわれAB&Cの温暖化に対する態度は、人間の存在自体が環境に負荷を掛けるものなのだから、他の環境負荷と同様に、ある程度はしょうがない。地球上の温度変化は、これまでもいくらでもあった。温度上昇の絶対値ではなく、上昇速度が問題であって、生態系を含めて、地球全体にあまり被害がでないような状況に持っていくことが解決なんだ、という妥協派だからなあ。我々は、むしろ、資源・エネルギーをどのように長期的見通し(500年)をもって管理するか、これが重要だと考えているから、恐らく、考え方が違うのだろう。しかし、温暖化に対して、我々のような甘い見方をもってしても、エネルギー税や国内の排出権取引などの仕組みに対して、なんらかの議論を開始しないと間に合わないだろう。なんとかしよう。すぐにでも。