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   細菌発生の歴史と生ゴミ処理 12.02.2001




 今週の環境11月25日号に、「ゴミ減量化のためには、EM菌による処理が効果的であるとは思えない」と記述した。その理由は、嫌気性発酵菌だから。しかし、これでは理由になっていないと思われるだろう。そこでもっと本質的なところを説明したいと考える。しかし、好気性発酵と嫌気性発酵はこう違うのです、という説明では面白くないので、地球上における細菌の発生史から説き起こしてみたい。
 参考書は、またもやブルーバックスで、「地球と生命の起源」酒井均著、B1248、ISBN4−06−257248−6。


C先生:本日のHPの目的は、生ゴミ処理の際にしばしば議論になる発酵の話に関連し、嫌気性発酵、好気性発酵とはどのようなことかを説明することが主眼。地球上での最初の生命は細菌だから、この細菌がどのようにしてできたかを知ると、嫌気性細菌による発酵では、なぜ生ゴミを十分に分解できないかが良く分かる、というシナリオで行きたい。

A君:生命というものを理解することも、環境リテラシーの重要要素の一つではありますからね。

B君:ここまでバイオ科学が進んでも、まだ人工生命なるものはできていない。やはり悠久の時の流れが必要だということも分かればさらに学習効果がある。

C先生:それでは、生命とは何かということから。

A君:一応の定義としては、生命は自己を再生産できるもの、でよいでしょうか。再生産の情報は、DNAに書き込まれていますから、DNAが存在していることが必須でしょう。その他の構成要素としては、蛋白質を考えればよいでしょうか。

B君:DNAを構成する分子として、糖、燐酸、核酸塩基類があるから、物質としては蛋白質を加えて合計4品目で良いかな。

A君:それでは原料の検討をしてみましょうか。まず糖ですが、ブドウ糖などは、リング状の構造なのですが、原料としては、ホルムアルデヒド(HCHO)を6分子使えばできます。DNAの原料になる糖は、5分子のホルムアルデヒドで作ることができます。
 ホルムアルデヒドそのものは、化学物質過敏症の原因物質で有害物ですが、5〜6分子が合体すると、生命体に必須の糖類になるのですから、面白いですね。
 
B君:DNAに使われる核酸塩基類は、4種類あるが、その一つアデニンは、シアン化水素(青酸)HCNの5分子で作ることができる。シアン化水素だって、猛毒だ。

A君:糖と燐酸でDNAの骨格を作ります。燐酸は、普通の無機酸です。

C先生:ここまでで必要な原料が、ホルムアルデヒド、シアン化水素、燐酸、いずれも無機物あるいは非常に簡単な有機物。まあ当然なのだ、地球ができたときには生命体は無いのだから、分子量の大きな有機物は無い。

A君:残るは、蛋白質ですが、それは、DNAのもっている遺伝情報にしたがって、すなわち、アミノ酸と呼ばれる物質が、決まった順序で、数百から数千個結合したものです。アミノ酸は、300種類以上が知られているのですが、蛋白質用として生命体が使用するのは、20種類しかないのです。

B君:アミノ酸とは、炭素原子の4本の手の1本に−NH(アミン)が、もう1本に−COOH(カルボン酸)がくっついたもので、残りの2本の手には色々なものが付く。もっとも簡単なグリシンというアミノ酸では、2本の手にいずれも水素が結合している。

A君:アミノ酸には、イオウを含むものなども有りますから、ちょっと複雑な原料が必要になります。

B君:しかし、基本的なものは、ホルムアルデヒド、シアン化水素、メタン(CH)といった原料にあれば元素としては十分。

C先生:イオウは、原始地球上には、硫化水素HSが大量にあったから、それをちょっと拝借すればよい。
 ただし、もう一つ重要な物質がある。それは水である。水溶液になってはじめて、DNAや蛋白質は、生命体としての機能を果たすからだ。

A君:いずれにしても、生命体を構成するDNAと蛋白質の原料となるホルムアルデヒドやシアン化水素は、原始地球上に存在していたものから合成されたと考えられますね。

B君:その有名な実験をやったのが、1953年でミラーという人。ミラーは2つの電極を備えたガラス容器に、水素、メタン、アンモニアを入れて、1週間もの間放電を続けた。その結果、ガラス壁にはタール状のものがこびりついた。装置の一部に用意した水も褐色に着色した。
 分析したところ、気体中に一酸化炭素と窒素を、水溶液中には、7種のアミノ酸と10種類以上の有機酸を検出した。タールは、これらの成分が重合したものだった。

A君:実験開始後12時間ぐらいで、容器内にはシアン化水素とホルムアルデヒドが生成したのですが、120時間程で消滅し、逆にアミノ酸の量が増えたようです。

C先生:要するに、シアン化水素とホルムアルデヒドが、アミノ酸の重要な中間原料であるということが証明された。この実験は、雷が生命を作ったことを意味するものとされた。

A君:しかし、その後の研究で、宇宙線を模した高エネルギー粒子を使えばもっと効率的にアミノ酸などが生成することが分かりました。

C先生:これで蛋白質、DNAの原料ができることは分かった。しかし、これから蛋白質やDNAができるためには、大変な過程を経なければならない。アミノ酸が数100個以上結合するには、まず、多数のアミノ酸が出会う機会がなければならない。それには、特定の場所が必要だったと思われる。

A君:その場所ですが、超好熱性細菌なるものが見つかったことから分かったと言えるのです。通常の動物ですと、まあ45℃になれば暑くて駄目ですが、細菌には80℃以上の環境でも生息するものが居ます。例えば火山地帯の温泉中などに見つかります。米国のイエローストーン国立公園の酸性の温泉中で発見された硫黄細菌がその代表です。

B君:ところが、海底から噴出している熱水を研究しているときに、なんと90〜110℃という高温で生きている超好熱性細菌なるものが多数発見された。この細菌を遺伝子解析したところ、どうやら原始生命の生き残りではないか、ということになって古細菌というものに分類された。どうやら、この海底での熱水が噴出しているところが生命誕生の場所ではなかったか、ということになった。

C先生:もう一つ。生命として重要なことは、エネルギーをどうやって稼いでいるかということだ。生命の維持にはエネルギーが必要不可欠。いずれにしても化学反応で稼ぐのだが、細菌も、実に色々な方法を使うのだ。

A君:古細菌は、エネルギーを作るためにメタンを生成するか、あるいは、硫黄に依存する菌だということが分かったのです。

B君:メタン生成菌というものは、二酸化炭素を水素で還元してメタンに変換するときにエネルギーを稼ぎ、硫黄依存菌は、イオウの酸化還元を用いてエネルギーを得る。

C先生:こんなことで、生命は熱水から始まったということになった。そろそろ、嫌気性発酵と好気性発酵の話にいける準備が整ったようだ。

A君:大部分の細菌は、有機物を酸化することによってエネルギーを得るのですが、それには、2種類の方法があります。嫌気的にエネルギーを得る(嫌気性発酵)、好気的にエネルギーを得るかです。嫌気、好気という条件は、酸素が十分あれば好気、不十分だと嫌気です。

B君:嫌気性発酵というのは、実際、かなり苦しいことをやるのだ。嫌気発酵菌が使うのは、糖分のような酸素を分子内に含んでいる物質だ。その酸素を無理やり使って、一部の炭素を二酸化炭素にして、その際、二倍量の炭素を還元してアルコールに変える。こんなことをするのが、酵母類で、お酒はこうやって作られる。

A君:だから、嫌気性発酵菌が使える有機物は、酸素を含んだ有機物に限りますし、存在している炭素の1/3を二酸化炭素にするだけで、しかも、そのとき得たエネルギーを使ってアルコールを作りますから、使えるエネルギーが本当に少なくて、効率は悪いのです。したがって、嫌気性発酵だと、温度は上がらず、また、使える物質が限られていますから、すぐ原料不足になって発酵が止まります。

B君:一方、好気性発酵では、外部から酸素を取り入れて、有機物を酸化する。だから、有機物は最終的には、水と二酸化炭素になる。いわば、有機物の燃料としての性能を最大限活かしているということができて、同一量の有機物から得られるエネルギーは大きく、理論値に近いものになっている。

A君:我々哺乳類に限らず、現在生きている大型の動物は酸素を使って有機物を燃やしてエネルギーを得ます。そのため、多くのエネルギーを使用することができて、速く動くことが可能なのです。

B君:嫌気性の細菌は酸素があると死んでしまうが、その特性は相変わらず我々の細胞が引き継いでいて、活性酸素というものが最大の敵なのだ。余分な話だったかな。

C先生:さて、生ゴミ処理に嫌気・好気という発酵をあてはめてみよう。
 生ゴミを処理するとき、好気性発酵菌が作用する状態にすれば、有機物は二酸化炭素と水にまで分解されて、これらは大気中に出て行くから、ゴミの減量には極めて有効ということになる。しかしいくら好気性発酵菌でも、生ゴミの中のセルロース分などは分解できないから、有機物でも残るものはある。このように好気性菌が、分解可能な有機物を完全に近い状態まで分解したものが、堆肥(コンポスト)の実態であって、逆にいえば、簡単に分解するような有機物が残っているようなものは、堆肥とは呼ばない。その易分解性の有機物を農地に大量に入れると、土の中で発酵(腐敗)が進み、その際土中の酸素を消費して嫌気状態を作る。これが作物の根に悪影響を与える。
 さらに言えば、好気性発酵では、かなりのエネルギーが発生するから、堆肥を作るときに温度が60℃を超すことになる。これで雑草の種の活性が失われるとか、有害菌が死滅する。この60℃という温度も極めて重要な条件で、好気発酵した堆肥でないと、農地に病気をばら撒く原因になる。
 もう一つ付け加えれば、嫌気発酵した生ゴミは、動物の餌になる。すなわち、野鼠や烏などの食糧にもなるため、具合が良くない。
 ということで、生ゴミを肥料として使うには、どうしても、好気性の発酵を行う必要がある。

A君:ですから、EM菌で処理した生ゴミは減量もされていないし、易分解性の有機物を大量に含んでいるし、ということで、堆肥や肥料としては極めて危ないものです。

E秘書:はい、お茶。EMをやっている友人からの情報だと、EMは河川浄化にも効くらしいですね。ヘドロの分解には嫌気性発酵が効くということでしょうか。

http://mikawawan.tripod.co.jp/index-2.html
http://www.asnet.co.jp/citywalk2000/wadai/20000622.htm
http://www.ibaraki-np.co.jp/contents/news/2001/feature/kankyou/chap2/10.htm

B君:理論的にはそうかもしれないが、EM菌でヘドロを分解しようとすると、EM菌と一緒にかなりの有機物を含んだ液体を河川に流すことになって、かえって富栄養化の面からも問題になるのではないか。

A君:それに、ヘドロに直接注入するなら効果があるかもしれませんが、単に流すだけでは駄目でしょう。

C先生:確証はないが、そんな気がする。EMには、どうも「効く効くという話」はあるのだが、科学が無い。どうも一種の宗教のようだ。

B君:そう、そんな感じ。生ゴミに戻れば、土壌と肥料の一番基本的なことが無視されているのが、EM菌による肥料作りだということになる。

A君:その割には、EMを推奨している自治体が存在しているのが不思議ですね。

C先生:自治体がやる場合には、EM処理後の漬物みたいなものを二次発酵処理してから堆肥にする。二次は勿論好気発酵。好気発酵だと水分量の制御が重要だが、EMで発酵した場合の水分の多い処理品がやっかいで、また、嫌気発酵で中途半端に分解されているものが原料なので品質的に良いものができるかどうか、かなり疑問。

B君:自治体がEMにこだわるのは、生ゴミを最初から好気発酵をさせて堆肥を作るということでは、当たり前すぎて、キャッチフレーズにもならないからではないか。

C先生:いずれにしても、EM処理を生ゴミ減量化のために推奨しようとしている自治体は、速やかに再検討してなんらかの決断をすべきだろう。