________________


   狂牛病ファイナル 11.18.2001




 わが国で狂牛病の疑いのある牛が発見されたのが2001年8月6日、それが狂牛病であることが診断されたのが、9月21日であった。約2ヶ月が経過し、農水省のまずい対応もあったが、「今週の環境」11月4日に本HPでは、「これから食べる牛肉は安全」宣言をしたが、これまで本HPには掲載してこなかった様々なデータをここにまとめ、これで狂牛病の記事の打ち止めとしたい。
 参考図書:中村靖彦著「狂牛病」岩波新書759、ISBN4−00−430759−7、
 文藝春秋12月特別号、リチャード・レイシー、「狂牛病、あまりにも楽観的な日本人」。


C先生:本HPでは、すでに「これから食べる牛肉は安全」なる宣言をしたが、まだ科学的な疑問が全部解決したという訳でもない。とはいえ、このような科学的疑問がすぐに説明できる状況にはならないものと思われるので、ひとまず、現時点までに有用と思われるデータを解析し、ひとまずの終結としたい。今後は、科学が進歩するか、あるいは、日本でも死者がでるような事態が出ない限り、もはや狂牛病を取り上げることは無いだろう。

A君:そうですね。一応、歴史的な記述はすでにしているのですが、かならずしも正確なデータばかりではないもので、ここで再度データの整理をしておくのが有効かもしれません。

B君:どうするか。記述の都合上切れ切れになりそうだが。

C先生:それはそれで良い。

A君:牛が奇妙な行動をしたのは、1984年の12月から85年の4月に掛けて、ロンドンから南西に70kmほど言ったミッドファースト村。

B君:すでに85年当時に、羊のスクレイピーとの関係を指摘した人が居た。キャロル・リチャードソンさんという獣医さん。

C先生:そのあたりで事実の重大性に気づいていれば、英国の狂牛病もこんなにはならなかったのだろう。

A君:羊のスクレイピーについては、過去数100年に渡って知られている病気です。ただし、発生の原因は不明のままです。

B君:そして、英国での話だが、2000年までの間、狂牛病に感染した牛が18万頭。疑わしいとして殺処分された牛の総数470万頭。

A君:発生の頭数をグラフに書くと、こんな風です。もっとも発生が多かったのが、1992年で35000頭を超しています。



C先生:英国では発生はかなり抑えられているようだ。

B君:英国以外の狂牛病の頭数は、合計でも2200頭にしかならない。要するに英国の1%なのだ。
英国以外の狂牛病発生頭数
ベルギー 43
デンマーク 5
フランス 344
ドイツ 108
アイルランド 637
リヒテンシュタイン 2
ルクセンブルグ 1
オランダ 19
ポルトガル 602
スペイン 65
スイス 390
イタリア 27
ギリシャ 1
チェコ 2
日本 1

A君:ヒトのvCJD(変異型クロイツフェルトヤコブ病、ヒトがかかる狂牛病の正式名称、ここでは、牛がかかったときには狂牛病、ヒトの場合にはvCJDを使うこととする)の発生数ですが、これも表の形にして示しますが、英国では102名、その他の国で合計4名です。数が少ないですから、統計的に意味があるわけではないのですが、フランスの狂牛病の発生数を考えると、ヒトのvCJDの発生数3名が多いような感じはしますね。可能性としては、英仏のことゆえ英国で牛肉を食べたか、あるいは、フランス人の方が内臓が好きだからということも有るかもしれません。

変異型CJDの発生件数
イギリス フランス アイルランド
1995 3 1
1996 10
1997 10
1998 18
1999 15 2 1
2000 28
2001 18
合計 102 3 1


C先生:発生の原因になった肉骨粉に関する情報に行くか。

A君:まず、英国が88年から肉骨粉についてどのような規制をしていたか、そのリスト示します。

88年7月:反芻動物への反芻動物の肉骨粉投与禁止
89年7月:88年以前に生まれた英国産牛の輸出禁止
90年6月:生後6ヶ月以上の英国産牛の輸出禁止
90年9月:牛の特定危険部位を動物の栄養源利用禁止
91年1月:危険部位を含む餌のEUへの輸出禁止
91年11月:肥料にも危険部位の混入禁止
94年11月:哺乳動物由来の資料を反芻動物へ投与禁止
96年3月:肉骨粉の輸出禁止

C先生:それでは、日本の状況についてのデータに行こう。

B君:日本では、まず、1990年から生きた牛の輸入は禁止している。牛肉とか牛の内臓については1951年から輸入していない。

A君:しかし、2000年には、デンマークとイタリアから2万5千トンを超す肉骨粉が輸入されているのが多少気になります。もっとも、この肉骨粉は、より厳しい国際基準で製造されたもので、プリオンも活性を失うという136℃、30分、3気圧というものです。

B君:日本には、牛の餌に肉骨粉を与えるという習慣は無かったのだ。それはヨーロッパでは、乳牛は大量に出す乳によってカルシウムが失われるので、肉骨粉が良いとされてきた。ところが日本では、石灰岩から作ったカルシウムが餌に混ぜられているために、必要が無いとされていた。しかし、96年に行政指導によって禁止したはずだったにも関わらず、9500頭もの牛に肉骨粉が与えられていたことが分かった。

C先生:どうやら日本の場合も、完全には安全な状態であったとはいえないのだ。しかし、それにも関わらず、日本の状態はそんなにも深刻だと思えないのは、なぜか。

A君:それは、やはり肉骨粉の絶対量が少ないようなのです。農林水産省が作ったシミュレーションなので、信用できないと言われればそれまでですが、狂牛病発生国からの生きた牛、牛肉と内臓・加工品の輸入量、肉骨粉の輸入量を国際獣疫事務局が決めた過去8年間の数字を調べて、相対的な比較をしたものです。それによると、汚染された肉骨粉の輸入量ゼロではないものの、8年間で10キログラム程度であると推定できたのです。ある発生国の場合には、その具体的な名称は明らかにされていないものの、10〜100トンというような数字になっている。となると、日本の場合は、1000分の1〜1万分の1程度でやはり際立って低いのです。

B君:その割には、1頭の発生が出たのはなぜなのだろう。そこが分かり難い。

C先生:確かにその通り。確率的には、日本で狂牛病起きるとも思えない状態なのに、実際には1頭が発症した。となると、そのシミュレーションが間違っているという可能性が無い訳ではない。

A君:しかし、まるでデタラメということも無いでしょう。恐らく、他の比較的多い発生国に比べればかなり低いことは事実だと思うのです。そこで、他の国が100頭程度の発生頭数だとして、日本は、まあ2〜3頭程度、非常に多く見ても10頭程度ではないか、というのが推定だったのです。

B君:そして、vCJDが発生するのは、狂牛病の発生数と比較すれば、全世界で約18万頭が発生していて100名余で、今後の発生数を非常に大目に見積もってこれからも過去の20倍の患者がでるとして、合計2000名。となると、狂牛病の発生数の100分の1。日本で狂牛病になる発生数が2〜3頭、多くても10頭だとすると、日本でvCJD患者が出る確率は非常に低いことになる。

C先生:それで、vCJDの発生数は多くても1名程度という予測をしてきた。それに加えて、日本では出荷する牛の全数検査をすることになったので、ここで確率的には100分の1になるとして、発生確率が10のマイナス10乗になったという評価にした訳だ。

A君:しかし、完全に確信がもてる訳ではないですね。

B君:まだまだ分からないことがある。検査して狂牛病ではないと分かっても、その牛が1ヶ月後に狂牛病に掛かる可能性だってあるのではないだろうか。それを食べても大丈夫なのか。

C先生:確かにその通り。異常プリオンが指数関数的に増加するという仮定がないと、今、狂牛病ではないとしても異常プリオンはゼロという訳ではないからね。もっとも、どんな牛だって、完全にゼロと言う訳ではないから、同じなのかもしれないが。

B君:さらに言えば、異常プリオンにしても糖タンパクだ。分子量も3万以上。だから、この物質がなぜ口から入って腸管に吸収され、血液中に入って、血液脳関門を通過して脳に入るのか。これが分からない。大体、まず、腸管に吸収されるときに、こんな分子量のものは消化分解されない限り入らないだろう。血液脳関門にしても、こんな分子が通るとは思えない。

A君:やはり、基本的にヒトはvCJDに掛かり難いのでしょうね。そうでないと説明ができないと思います。

B君:しかし、「狂牛病のリスクは?」にも記述したように、イスラエル在住のリビヤ系ユダヤ人にヤコブ病の発症が多いのは、羊の目玉を食べるからだという話があった。羊のスクレイピーがヒトに感染するという話は確定していないのだが。しかし、よく考えると、これだって不思議な話で、腸管に吸収されて、血液脳関門を通らないかぎり、こんな話にはならない。

C先生:やはり、プリオン病そのものの研究がもっと進まないといけないのだろう。まあ、いずれにしても、「これから食べる牛肉でvCJDに掛かる心配をする必要はない」。過去のことは知らない。私自身も、この期間内に、結構イギリス、スイスなどに行っているけどね。

翌日:

A君:文藝春秋に「狂牛病、あまりにも楽観的な日本人」なる記事が出ていたので、買って来ました。

B君:どれどれ。なるほど。一つの重要な指摘が英国などから輸入された肉骨粉だけが狂牛病の原因ではなくて、日本にも別のルートから入っている可能性があるということだろうか。

A君:そうみたいですね。感染牛が輸入されて、それが日本で肉骨粉になったという可能性も。

C先生:まあ、それも無いとは言えない。しかし、このレイシー教授は、肉骨粉だけが伝染の原因だと思っていないようだ。「英国政府は肉骨粉に狂牛病の原因を全面的に押し付けたい。それは、もしも、母子感染や動物−動物の伝染を認めると、すべての牛を殺さなければならないからだ」、というのがレイシー教授の主張だ。

A君:プリオンが生き物ならば、母子感染や動物−動物で伝染してもおかしくないですが、プリオンが糖タンパクに過ぎないとして、伝染するには、やはり何かを食べる必要がありますね。

B君:それが胎盤ではないかということだ。胎盤で汚染された草などを牛が食べることによって伝染するというのがレイシー教授の主張だ。

C先生:もしも、母子感染などが行われるとしたら、それは普通、血液を経由した伝染だということになる。血液中にプリオンのような高分子の糖タンパクが存在して、それが脳に入るのか。余り有りそうも無いのだが。

A君:要するに、狂牛病の科学がもう少々解明される必要があるということですね。現状、レイシー教授の主張が正しいとも正しくないとも言えないということですね。

B君:肉骨粉が原因でないとすると、まだ分からないことも多いが、イギリスでの狂牛病の発生がこんなに急激に下がることは無いのではないか。英国では、基本的に肉骨粉対策しかしていないのだから。
 それに、もしも直接的な伝染が原因だとしたら、イギリスから遠い日本では確率が却って低いような気がする。

C先生:そんな感じだ。色々分からないことはあるが、全数検査を信頼して、これから出荷される牛肉の安全宣言はやはりやってよいと思う。

E秘書:お茶が遅くなりました。しかし、すでに出荷されて肉屋の冷凍庫に入っている牛肉は、まだまだあるのでは無いですか。

A君:それはゼロではないでしょう。

B君:しかし、肉骨粉が原因だとしたら、日本に入った病原になる可能性がある量が知れているので、検査以前の牛肉だって、確率的には極めて低いですよ。

E秘書:母親というものは、そんな確率ではものを考えないものです。それは、自分の意思で避けることができる原因で、万一子供を死なせてしまったら、それこそ、いくら悔やんでも悔やみきれないですからね。狂牛病は、死因が極めて分かり易いから、ますます避けたくなりますよ。

C先生:その心境は別に母親に限らない。父親だって同様だ。ただし、その程度のリスクがあるものを全部避けていたら、生活などができないのも事実。だから、「知っているかどうか」、これが非常に重要だということになる。

A君:生卵のサルモネラ菌とか、ピーナッツバターのアフラトキシンとか、ほうれん草の中のシュウ酸とかのリスクの方が、もはや牛肉よりは大きそうですね。

B君:様々なリスクを知れば、現状での牛肉のリスクを評価し、無視できる。しかし、知らなければ、それに囚われる。

C先生:環境問題におけるリスクの問題とは、大体そんなもんだ。リスクが常識的に評価できるようになること、これはすなわち、多くのことを正しく知ることだ。やはり知識は力なりなのかもしれない。