青秋林道の残したもの

[keywords:公共事業、開発と保護、世界遺産]

青森県と秋田県境に今なお残るブナの原生林、

それが白神山地です。

※白神山地・青秋林道地域図へ

この白神山地を舞台に秋田と青森をつなごう、としていたのが「青秋林道計画」です。

この計画に対して、自然保護の世論から猛烈な反対運動が巻き起こり

最終的には計画断念となりました。

先日のNHK”プロジェクトX”で放送されましたのでご存じの方も多いと思います。

青秋林道計画は、すんでの所で中止されましたが、

現在の青秋林道、そして白神山地がどうなっているのか、

実際に林道を走って確認してきました。

以下に今回訪問した際の写真を掲載します。(01年8月30日)

国道101号線青秋林道入口
日本海沿いを通る国道101号八森町の青秋林道入口

青秋林道の案内としてではなく、白神山地の入口として案内板が大きく掲げられていた。

青秋林道山麓付近
青秋林道の秋田側起点部分の様子。

このように国道と比較してもひけをとらないような立派な舗装道路です。これを林道というのだから、予算のつけかたなどどうなっていたのだろう。

青秋林道告知板
林道途中にあった林道告知板。

青秋林道は正確には広域基幹林道「青秋線」と呼ばれており、計画時の予定では延長28.1km、建設期間十年、総事業費28億円(国の補助6割強)で青森・秋田両県が計画主体となったものであった。

人工林一望
林道途中より樹海を望む。

林道途中の森林は杉を中心とする人工林であり、この写真は見渡す限りの人工林です。昔はブナ林だったらしい。

上方より見た林道
標高の高い部分より下方を望む。

このように、急斜面を切り裂いて林道は建設されています。全国のスーパー林道のように防災的にも安定したものではないであろう。

林道側溝
林道の側溝

青秋林道は全面舗装されているが、その両側(部分的に山側のみ)にコンクリート製の側溝が設置されている。これは小動物の横断を妨げ生態系を分断しているし、人間にとっても車の脱輪の危険があり何もいいことはない。林道の建設仕様書に側溝設置が記載させているから、という安易な理由で建設されているのであろう。予算が増えて建設業者だけが喜ぶのだろう。

林道最終地点
林道計画断念地点。

このように林道最終地点までしっかりと舗装されています。ほぼ青森・秋田県境まで完成しており、もう一歩で白神山地核心地点です。

林道最終地点より下部
林道最終地点より下部を望む。

このように延々と林道が登ってきている様子が分かります。この近辺はブナの原生林となっており、もし林道計画が進んでいたらこの付近もすっかり伐採されたことでしょう。

白神山地を望む
林道最終地点より白神山地核心部分を望む。

予定ではこの白神山地のブナ原生林を一本の林道が傷を残すことになっていました。既に秋田側はこの地点まで林道が完成していますが、あと一歩のところでこの原生林は守られました。

ブナ林伐採跡
終点近くのブナ林伐採跡。

林道の最終地点近くのブナ林はすっかり伐採されており、笹藪となっていました。一部、民間のブナ林再生事業が行われておりましたが、元の原生林に戻すには気の遠くなるような時間が必要です。

野生のニホンザル
林道上部で出会ったニホンザル。

林道の最終地点に近い部分ではこんなニホンザルや、ウサギなどと出会いました。ニホンザルも日光や伊豆の様に人慣れしておらず、野生のままでした。ブナ原生林が残っており、豊かな山であることが伺えます。逆に麓の針葉樹人工林付近では野生動物とは出会えませんでした。


今回、白神山地を北側、南側、西側と巡りながら、

青秋林道も訪れましたが、現在の林道は世界遺産として登録された

白神山地を見るための「観光道路」となっていました。

皮肉にも、白神山地を破壊する仇が、白神山地を多くの人に知ってもらうための

言ってみれば「教育施設」となっていました。

当時の林野行政が行っていたごり押しの計画遂行方針については

非常に悲しく、怒りを感じたことを覚えていますが、

この既に出来てしまった林道は、白神山地を保護、育成するための

「いのちのみち」となるよう、方向を転換してほしいと思いました。

そのためには、ブナ林伐採エリアを取り戻そうとするのはもちろん、

人工林についても豊かな生態系を育むことが出来るよう

樹種についても転換していくことの必要性を感じました。

また、林道そのものの構造についても、走行車両がきわめて少ないという特徴を鑑み

側溝の撤去と土砂の流出防止の工夫がほしいと思いました。



国有林のありようは、近年大幅に変わってきました。

行政としても「林業と自然保護に関する検討委員会(88年)」等の答申を受け、

これまでの保護林の考え方自体、大転換されました。

見直し後、「森林生態系保護地域」が指定され、

大きな目的として、「森林生態系からなる自然環境の維持、動植物の保存、

遺伝資源の保存、森林施行・管理技術の発展、学術研究に資すること」とあります。

設定基準は1000ha以上となっています。

日本全国で、「日高山脈中央部」から「利根川源流部、燧ヶ岳周辺」、「屋久島」、

「西表島」まで日本全国26カ所(平成12年4月現在)が指定されている。

※「森林生態系保護地域図」へ



最後に、「青秋林道」計画阻止に尽力なさった人たちに

感謝と敬意の気持ちを表したいと思います。

(01年8月30日)

 

青秋林道関連リンク

 青秋林道現在までの経緯1(青森県の新聞社:東奥日報社より)

 青秋林道現在までの経緯2(秋田県の新聞社:秋田魁新報より)

 日本自然保護協会:白神山地について