いつかこんな日が来ることもあろうかと考えたこともあったが、先日、とうとうこのサイトの存在が夫にバレた。
他サイトのリンクから偶然辿りついて、
しっかり全部読んでしまったらしい。私としては、このような本音の部分で書いている文章を家族などに読まれることにはかなりの抵抗を感じる。
以前から数名のごく親しい友人にはURLを知らせてあったが、夫に限っては、私が個人サイトを持っていることさえ教えていなかった。
誰かに気兼ねをしながら文章を書くのは苦痛だ。例えば個人的な過去の恋愛について書く時、
夫が読んでいることを意識すればどうしても、嫉妬心を煽らないようになどとつまらないことを考え、
当時の恋人との間にあった剥き出しの感情や行動を率直に描写することを、私の良心が避けようとするだろう。
そして、そうやって書いたものは、書き上がった時点で死んでいるのだと思う。
後になって自分で読み返してみた時、それなりに苦い想いがするはずだ。
ネット上に日記や随筆のサイトを公開している人は多いけれど、家族や友達や恋人にその存在を知らせている人はどれだけいるのだろう。
この二年くらいの間に私が読んでいたサイトの内だけでも、「奥さんに見つかった」とか「会社にバレた」とかいう理由で
サイト閉鎖または移動という例が数件あったが、やはり、書かれた内容が自分の本心に正直なものであればあるほど、
身近な人には読まれたくないという気持ちは強いのかもしれない。
そんなわけでしばらくの間、ここの更新を続けようか止めようかと考えていたのだが、
別に夫から嫌な顔をされたわけではないし、むしろ「今度はいつ更新するの?」と期待されている様子、
それならこのまま書ける範囲で続けていこうかと思っている。ただ、以前のように誰と何してこいつとやりそこねたとか(こらこら)
あまり阿飛(アフェイ)なことは書けなくなりそうだが。
ちなみにこの場所は今のところ、多い時で1日あたり50件くらい、少ない時で10件くらいのアクセスがある。
まぁ、丁度いい具合かな、と思っている。以前やっていたサイトは(私の感覚では)アクセスが多過ぎた。
誰にも読んでもらえないのも悲しいけれど、ごく個人的なサイトに何百件という目が集まるのも考えものだと思う。
自分の場合は結局、書きづらくなって一旦閉鎖した後、何度か転々と場所を変えて再開した。
ここがどんな場所でありたいか、時々考える。そんな時ふと脳裏に浮かぶのは、長野県某所にある、私がいたく気に入っている喫茶店。
学生時代の夏休み、住み込みのバイトで赴いた時に偶然見つけた店だ。
店内に一歩足を踏み入れると、店主の趣味の匂いがぷんぷんする。
かなり偏った趣味だが決して不愉快ではない。オーダーの後テーブルに着いてぼーっと外を眺めていると、
注文したアイスココアを運んできた店主が、「この店、誰かから聞いてきました?」
と私に質問した。「いえ、偶然辿りついたんですけど。」と答えると、彼はゴツい
顔面をシワシワにして「あーそうですかー。んふふー。」とヘンに嬉しそうだった。
あの店は今でもあるのだろうか。辺鄙な場所に在るにも関わらず大した宣伝もせず、少数のリピーターと偶然に導かれて訪れる客だけを相手に
嬉々としてコーヒーを淹れ続ける北アルプスの岩盤のような容貌の、ちょっと不思議な店主。
無国籍なのかチャンプルーなのかよくわからない店内装飾。バイト先で休憩をもらうと、私は度々そこで時間を費やした。
客がほとんど入らないので、物思いに耽るにはうってつけの場所だった。
この場所がいつか、見知らぬ誰かにとって、或いは自分にとって、あの店みたいな存在になれたら嬉しい。
1999-12-01
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