【なんとなく桃色草子・2】
シュウ「・・・懐かしい。」
五郎 「・・・何が?」
シュウ「お父さんの、カラダの、焚き火の匂い。」
五郎 「くさいかい?」
シュウ「ううん、いい匂い。」
五郎 「悪いなぁ。三日ほど風呂入ってねぇんだぁ。」(TVドラマ「北の国から2002遺言」より)
数年前、TVでこのくだりを観た時、「倉本聰ってわかってるよなぁ!」と独り大きくうなずいてしまった。そう、そうなのだ。労働した後のオヤジの体臭って、この年頃の女子にとっては魅惑的な匂いなのである。三日も風呂に入ってないなら、さぞかしその匂いも熟成されて、たまらない感じになっていることだろう。想像して、ゾクゾクした。ちなみに、件のシーンでシュウの役を演じていたのは宮沢りえであった。そんなわけで、五郎を演じていた田中邦衛は、このシーンで何回かワザとNGを出したらしいという未確認情報もあったりする。
ちなみに前述のドラマでは、中嶋朋子演ずる五郎の愛娘・蛍も、嫁ぐ前の晩に「父さんのこの匂い、絶対忘れない。」と五郎の体臭を絶賛している。
だが、女子中高生に言わせれば、このテの匂いは「オヤジくせー。」ということになってしまうのだろう。でも。でもね。20代になって御覧。そうすれば君たちにもきっと、或る日突然わかる時がくる。あの匂いに、えもいわれぬ感情を掻き立てられる時がやってくる。
以前、妻子ある男性と危うい雰囲気になったことがあった。私は当時21歳、彼は40代前半。バイト先の上司だった。ある日、同じ持ち場で働いていて、ふと近づいた時、彼の首筋の辺りからオヤジの匂いがほんのりと漂ってきた。と、その時、私は一瞬目の前がクラッとするような奇妙な感覚に襲われた。何?何なの?これは。・・・しばらくして、私は彼の匂いを嗅ぐたび、欲情している自分に気付いた。彼を抱きたい。大人の男を識りたい。数週間後、私は生まれて初めて自分から男を誘った。
だが逢瀬の時、彼に身体を寄せてみると、私の好きないつもの匂いはしなかった。代わりに、やや若作りな感じの柑橘系のオーデコロンの匂いがした。つまりは彼もフツーの男だった。若い女の子を抱けるかもしれないと浮かれて、「オヤジの匂いを消さなくちゃ」なんてつまらない小細工をしてきたというわけだ。私は忽ち興醒めし、彼がシャワーを浴びている間に、置手紙をして部屋をあとにした。
こんなことを書いたのは、実は最近、夫が一日の労働を終えて帰宅すると、件のオヤジの匂いがするようになってきたからなのである。私はそれが嬉しくて、彼の首筋に毎日かじりついてしまう。そんな時、「汗臭いのが移っちゃうよ。」と言いつつ夫は多少、嬉しそうである。ああ、毎日オヤジの匂いを嗅げる幸せ。それを合法的に所有できる幸せ。これがセックスレス解消の一助となればいいのであるが。
2006-09-13
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