【焼きたて】

昨晩、「鉄腕DASH!」でTOKIOのメンバーが煎餅を焼いている様子を見てフと思い出したのだが。

大学生の頃、下宿からバイト先に向かう途中に、一軒の手作り煎餅屋があった。その店ではいつも、店頭で一人の爺さんが一枚一枚煎餅を焼いて売っていた。ある日、私は焼きたての煎餅が食べてみたくなり、店に入って「お煎餅一枚ください。いくらですか?」と声をかけてみた。すると、煎餅を焼いていた爺さんが私をジロリと一瞥するなり、「子供には売らねぇんだ。帰んな。」と言った。

「なにさ、あのジジイ、ちょームカツク!こーなったら2ちゃんねるに書き込みしてやるもんね!」と、今の大学生なら思うかもしれないが、残念ながらまだ2ちゃんねるが存在しなかった当時、私はその憤りをバイト先の友人達にぶちまけるしかなかった。友人の一人は「仕方ないよ。だって尹ちゃんまだこんなに小っちゃいんだもん、ねぇ。」と言って私の頭を撫でくり回した。(童顔で背が低かった私は、20歳を過ぎてもよく中学生に間違えられていた。)さらに、もう一人の友人は「じゃあ、今度私が一緒に行って煎餅買ってあげるよ。大人にだったら売ってくれるんでしょ。」と申し出てくれた。

かくして数日後、件の煎餅屋を再度訪れ、友人達のお陰で焼きたての煎餅を無事入手した私は、今度こそアツアツの煎餅にその場でかぶりついた。だがそれは、醤油味がヤケにしょっぱいだけであまり美味しいものではなかった。そこで、「この店、お高くとまってる割には大して美味しくないね。」と煎餅焼き爺さんに正直な感想を述べてやった。すると爺さんはムッとした顔になり、持っていた道具を乱暴に放り出すなり奥へ引っ込んでしまった。

店を出た後、友人の一人が「尹ちゃん、気が済んだ?」と尋ねてきた。複雑な心境だった。あんな老い先短い爺さんを相手にしてムキになるなんて、我ながらイヤな性格だよなぁ、と反省する気持ちもあった。「確かにあんまり美味しくなかったよね、煎餅。」という友人達の言葉に少しだけ救われながら、それでも私はその日、自己嫌悪の淵に沈んだ。

というワケで、煎餅を焼く人を見ると、今でもそんなことを思い出して薄ら恥ずかしい気持ちになってしまう。


2005-01-24


回目録】  (C) 尹HM. 版権所有・不准転載.