【みっぴーの安曇野見聞録/四日目】

早朝、外から「キャッ、キャッ、キキー」という声が聞こえてきて、ベッドから跳ね起きてしまったの。急いでカーテンを開けて窓の外を見ると、すぐ下の芝生で野生の猿が数匹、遊んでいたわ。で、しばらく彼らの様子を眺めていたんだけど、ふと遠くの方に視線を移すと・・・

白い光景

そこには、幻想的な雲海が広がっていたのです。このホテルは山の中腹に建っているので、朝はこんな光景が見られるのよね。しばらく見とれちゃいました。

さて、今日はJR大糸線に乗って南小谷方面に5駅ほど移動したいと思います。行き先は、信濃松川。そこで、松川村にある安曇野ちひろ美術館を見学する予定。

JR大糸線

大糸線の駅は基本的に、電車が通過するたび、どの駅にも駅員さんが改札に立って、切符にスタンプを押してくれるの。だから自動改札機に切符が挟まって出て来ないとかで立ち往生することはないわ。そして、ホームに電車が入ってくると、乗りたい人は自分でドアを開けて乗るの。みっぴーは、そんな大糸線が結構好きなんです。ただ、時間によっては電車を1本逃すと一時間以上も待たなきゃいけないのが玉に瑕なのよね・・・。

電車は2両編成。車内はローカル線のご多分に漏れず、ボックス席になっています。というわけで、ローカル鉄道のボックス席の醍醐味といったら、同席した人たちとの交流にあると思うんだけど。今回、向かいの席には登山に来たと思しき中年女性グループが座っていたので、みっぴーも話しかけてみましたわよ。そしたら予想通り、皆さん鈴をお持ちでした。「このところクマが出るっていうからねぇ。これはクマ除けの鈴なのよ。」とのこと。あーん、みっぴーも山に登りたーい。

信濃松川駅

そんなこんなで、到着しました信濃松川。駅ロゴが渋いでしょ?目的地の安曇野ちひろ美術館までの足は、これまた自転車。駅を出てすぐ目の前に観光案内所の建物があるので、そこの受付に申し出れば1台につき4時間500円で貸してもらえます。この駅からは路線バスも出ていないので、歩くか自転車を借りるかしかないのよねー。タクシーもあることはあるんだけど、安曇野ちひろ美術館まで行こうとすると往復で2000円かかるらしいので、天気が悪くないかぎり、断然自転車の方がお薦めだわね。

目的地までの道は、自動車も少なくて走りやすいです。見はらしもいいし、空気もおいしいし、こんな場所を爽やかな秋風を受けながら走り抜けるのは本当に気持ちがいいですわよ。

安曇野ちひろ美術館

さ、安曇野ちひろ美術館に到着しました。自転車で10分弱でした。山の麓の、それはそれは緑豊かな平地にこじんまりと建てられています。周りには公園や散歩道がめぐらされていて、すぐ近くには北アルプスから流れ出る清流、乳川(ちがわ)も緩やかに流れていて、とても静かです。とにかく、何も無い所にポツンと一軒、美術館だけがあるっていう状態ね。

では、早速中へ入ってみましょう。・・・受付で入館料を払い、入館バッヂをつけて展示室へ。いわさきちひろさんと言えば、絵本画家として有名な方ですが、ここには生前の彼女が描いた絵本の挿絵やスケッチなどが集められ、展示されています。「世界中のこどもみんなに平和としあわせを」という願いのもと、子供を描き続けることをライフワークとしていた彼女、反戦主義者であり、日本共産党の党員でもあったのですね。この美術館では彼女のそうした側面にも触れています。

みっぴーが思わずハッとしたのはねぇ、彼女が描いた戦下の子供たちの表情よ。ほら、一般に、いわさきちひろ作品として知られている絵というのは、子供の無邪気さや可憐さが前面に出ていて、まるで子犬のような黒目がちであどけない瞳が印象的だったりするじゃない?でもね、戦争の時の子供たちの絵を見てみると、みな一様に瞳が不安でいっぱいに満ちていて、表情が翳っているの。それはもう、見ていると胸が締め付けられるくらいにね。彼女が生涯、戦争に苦しめられる子供たちのことをどんなに思っていたか、どんなに戦争を憎んでいたかが、ひしひしと伝わってきます。

ところで、展示物の中でもう一つみっぴーが釘付けになってしまったのが、意外にも彼女の日記なの。ふんわりとした画風とは裏腹に、とても苦悩しがちな人だったのね。夫との関係や仕事のことなど、痛々しいほどに思いつめてしまっているんです。ある日の日記なんか、「もうイラストの仕事は来ないかもしれない」って・・・私達から見れば「これだけステキな絵描いててそんなわけないじゃん」と思うんだけどね。でもまぁ、そういう、驕らない人柄だったからこそ、ああいう絵を描き続けられたのでしょうね。

ちなみに、この美術館、中は木のあたたかさと採光が生きていて、とても居心地がいいです。子供が遊ぶためのスペースもあるし、約3000冊の絵本を自由に手にとって閲覧できる図書コーナーもあります。そして。ここではいわさきちひろ関連のものだけでなく、世界中の、普段あまり目にすることのできないような国の絵本の挿絵なども展示されていて、自由に見ることができるんです。したがって、絵本好きのお子さんを持った家族連れなどには特にお薦めしちゃいますね。

緑の中のみっぴー

さて、美術館見学を終えて・・・みっぴーたちは再び自転車で信濃松川駅に引き返しました。で、そこから大糸線で穂高に戻ろうと・・・したんです、が。なんと。松本方面に向かう次の電車までは1時間近く待たなきゃならないと時刻表は語ル。そんなわけで、ちょうどお昼時だったから「それならどこかでご飯食べて時間潰そうか」ってことになったんだけど、この駅の周り、どこをどう見回してみても食べ物屋が見当たらないのね。・・・そこで仕方なく、駅のすぐ前にある観光案内所の建物の中にある喫茶コーナーへ入ってみたわ。地元のおばちゃんが2人ぐらいで切り盛りしているトコロなんだけど、まぁ何か食べさせてはくれるでしょうよ、と期待感ゼロでテーブルについて盛り蕎麦を注文したんです。そしたら・・・

ガーン!!運ばれてきたお蕎麦を一口食べたとたん反省。ごめんなさい。みっぴーの先入観、間違ってました。すっごく美味しいです、このお蕎麦!!ツルッツルのシコシコです!!お蕎麦の香りも生きてます!!そして薬味でついてきたおろしたての生わさびもたまりません。花マル!!ここは隠れた穴場だったのね。

穂高駅ホームにて

と、そんなこんなで、穂高駅に戻ってきました。今回の旅も、いよいよフィナーレです。荷物まとめて、お土産持って。もうじきホームに滑り込んでくるであろう特急あずさに乗って、私達は東京へ戻ります。北アルプスの山々とも、しばらくはお別れね。さよなら。ありがとう。大好きよ。・・・と、感傷的な旅情に浸っていたら・・・

特急あずさ

あずさキターーーーー!!

あたふたと列車に乗り込んで、席について、もう一度、北アルプスを振り返って見ました。夕刻せまる晴れた秋空の下、山々が「またきてね」って言ってくれてるような気がしたわ。(涙)

というわけで、みっぴーの安曇野見聞録、この辺でお開きです。今度は一体どこから旅のお話をお届けできるのかしら。ま、それはまた来年のお楽しみってことで、みっぴーはしばらく窓の外の風景を眺めながら旅の余韻に浸ることにするわ。それでは皆様ごきげんよう。みっぴーでした。


2004-11-08


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