【尹のソウル見聞録/一日目/そうだ、ソウル行こう】
「12月31日にソウルでイ・スンファンのコンサートがあるよ。もし都合が良ければ俺がチケット取っておくけど、来られる?」
そんなメールが、ソウル在住の友人・インドクから届いたのは12月に入って間もなくの頃だった。イ・スンファンというのは、以前から私が敬愛している韓国の男性ミュージシャンで、地元では「ライブの帝王」と呼ばれている人だ。私は、1も2もなく「絶対行く!チケット頼む!」とインドクに返信を送り、それから間もなくインドクからは「チケット取れたよ」と返事が帰ってきた。
かくして、2003年末のソウル行きが決まった。私は、夫にも「一緒に行こうよ」と声をかけた。夫は「イ・何とやらのコンサートは全く興味ないが、うまい肉が食えるなら行ってもよい。」と答えた。よし、ぜんは急げである。私達は早速、格安旅行で有名な某H旅行代理店を訪れ、12月30日羽田空港発・アシアナ航空・金浦(キンポ)空港着便の席を二人分、押さえてもらった。
そして迎えた12月30日午後、私達は無事飛行機の中で機内食を食べていた。メニューは、パン・魚の辛味煮込み・サラダ・フルーツ・そして当然のようにキムチが。「何?これ」と言って夫がつまみ上げた歯磨き粉のチューブのようなものには「コチュジャン」と書かれていた(下写真参照)。これは韓国人乗客向けのサービスだろう、魚もキムチも、おそらくは外国人乗客の味覚を考慮して、あまり辛くはなかったから。
金浦空港に降り立ったのは夕方5時近かった。まず入国審査をして、空港内の両替所で日本円4万円を韓国ウォンに替えた。その日のレートでは43万6千ウォンだった。ロビーではインドクが待ってくれていた。インドクに夫を紹介し、夫にインドクを紹介した。インドクは日本語は全く話せないが、地元の大学の英文科を卒業した後、アメリカの大学にも留学しているので結構流暢な英語を話せる。というわけで、我々3人の間での共通語は英語となった。
インドクの車で、私達夫婦が宿泊予定となっている明洞(ミョンドン)のホテルまで連れて行ってくれることになった。車の中から見るソウルの街は、新暦クリスマスと正月&旧暦クリスマスと正月のドサクサで、イルミネーションがやたらキレイだった。途中、夫が「ソウルで新しいメガネを作りたいと思っている」と言うので、インドクが行きつけのメガネ屋に案内してくれた。
メガネ屋のアジョッシ(おじさん)に、韓国語で「この人(夫)が新しいメガネを作りたいんですけど」と告げると、アジョッシも韓国語で「若い人向けのフレーム、いくらでもあるよ。ほら、こんなオシャレなのとか。」と言ってレイバンのディスプレイ用パネルを指差した。「あ、ペ・ヨンジュンだ!」・・・そう、そのパネルには大韓ベストメガネドレッサーの呼び声も高い、あの「冬のソナタ」の甘い演技で夫をウンザリさせたペ・ヨンジュンが不敵な笑顔で収まっていたのだ(下写真参照)。と、その時、夫が日本人だということに気づいたアジョッシは突然流暢な日本語で「日本の方なんですね?今お持ちのメガネは度が合ってますか?あっ、じゃぁ検眼しましょうねぇー。」と愛想を振りまき始めた。値切りがヘタな日本人は、彼らにとっては儲かる客なのだ。
ボラレてはたまらないと思い、私はシークレットサービスよろしく夫の側でそのアジョッシの接客状況をじっと見張っていた。そして検眼を済ませ、気に入ったフレームが見つかり、レンズ選びの段階に入ると、アジョッシは明らかに「ふっかけ」始めた。「本当は16万ウォンなのですが、お客様には特別に15万ウォンということにいたしましょう。」・・・それを真に受けて言い値で買おうとしている夫を制止し、「ちょっと待って。せっかく日本から来たんだから、もうちょっと安くしてあげてよ。」と口を挟んだ。
「うーん・・・じゃぁ13万ウォン・・・」
「まだ高い!」
「12万ウォン。」
「まだまだ!」
「いやー、これ以上はまけられないよぉ。11万5千ウォンでもダメかい?」その時、いつの間にか後ろに立っていたインドクが鶴の一声を発した。「端数は切捨てだろう!」・・・そのおかげでアジョッシは渋々「じゃぁ10万ウォンで・・・」と声を弱めた。私達のやりとり(日本人にはケンカに見えるらしい)をキョトンと眺めていた夫は財布から10万ウォン(日本円で約1万円)出し、アジョッシに渡した。メガネが出来上がるまでの間は30分(←速い!)。それまで、3人で食事をしに行くことにした。
メガネ屋を出ると、途端に寒かった。私はソウルに来るのは4回目だが、真冬に来るのは初めてである。何というか、足にくる寒さなのだ。韓国の家庭ではオンドルという床暖房が一般的だが、それはやはり外で冷え切った足を温めたいからじゃないだろうかと思う。しばらく歩くと上半身は温まってくるが、足はますます寒くなる。それでも今年のソウルは暖冬で、このところは特に暖かい日が続いているのだという。東京の暖かい冬に慣れてしまった身体には少々キツかった。
そんなこんなで、やっとインドクお薦めの店に着いた。私達はまず、ビールを頼んだ。銘柄はもちろんHITEである。だって、大好きなイ・ビョンホンがCMしているビールなんだもの♪。食べ物は、夫は「とにかく肉を・・・」というのでインドクと共にプルコギを食べることにした。私は歯に矯正器具を着けていて咀嚼に困難があるので、スンドゥブを注文した。まずビールで乾杯したのだが、色も味も日本のものより薄い。酒が強くない私にはちょうどよかったが、普通に飲む人には物足りないだろう。夫も「ビールは日本の方がウマイ」と言っていた。
食事をしながら各々の近況報告や時事問題について話し合い、お腹がいっぱいになったところで店を出た。料理の味は、可もなく不可もなくといったところ。でも今回はインドクの奢り。ごちそうさんです。
メガネ屋に戻ると、既に夫のメガネが出来上がっていた。装着してみると、夫も納得したのでメガネを受け取り、店を出ようとしたところで先刻のアジョッシに呼び止められた。「これ、あげるよ。ペ・ヨンジュンが好きなんだろう?お客さん連れてきてくれたからお礼だよ。」そういってアジョッシは前述のレイバンのディスプレイ用パネルを私にくれた。それを見ていたインドクは「俺にも何かお礼はないのか?」とアジョッシに詰め寄った。アジョッシは何とも言えない情けない表情でプラスティック製の目覚まし時計をインドクに渡した。私は、大して好きでもないペ・ヨンジュンの写真を呆然と眺めた。せっかくなので日本に持ち帰って今、自宅のリビングに飾ってあるが、もし欲しい人がいればメール下さい。お譲りします。(ただし先着順)
2004-01-08
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