【エロロジーと子供たち】

勤務中に男性から「なぁ、今夜、いいだろ?」と耳元で囁かれたり、太腿を撫でながら「俺達の仲じゃないか、ほんのご挨拶さ」と言われたりすることは、もう誰が何て言ったって完璧にセクハラだと思うのだが、そういうことを仕掛けてくる相手が出張先の幼稚園の年長クラスに籍を置く6歳児である場合は、どうなんだろう?

子供は本来無垢で純真なものだなんて決して思わないけど、6歳ぐらいになるともう異性(もちろん同性の場合もあるだろう)に対して、一人前に(発芽まもない)エロスの投影が行われちゃうってことか。発見である。

別に身のキケンを感じたわけではないので黙っておこうとも思ったのだが、他の大人はこのテの話にどういう反応を示すのか興味があったので、園の担当教諭には一応、笑い話の一つとして報告した。すると彼女は笑ってくれるどころか眉間を険しくして、「いやだ、それ、父親の真似して言ってるんじゃないかしら。子供の見てるところでいやらしいことするなっていうのよねぇ、まったく。」と怒り出してしまった。

「男の子の場合、父親は成長の過程で一番重要なロールモデルなんですよ。まず自分を父親と同一化させながら自我を獲得していくんです。親の背中を見て育つって言いますでしょう、子供は親の言うことを聞いて育つんじゃなくて、することを見て育つんです。だから、あまり淫らなところ、子供の前で見せて欲しくないんですよ。まだ子供だからわからないだろうと思ってても、子供ってそれが何なのか理解しようとしますからね。後になって自分の親の淫らな一面に気付いてしまった時のショックって大きいと思うんですよ。」

さすがに教育を仕事としている人は言うことが違うな、と思い、少し引いた。そのうち、話を聞いていた他の先生方も数名、彼女に同調しはじめた。それだけでなく、教務主任が私の前にすっ飛んできて「うちの園児がたいへん不愉快な思いをさせまして・・」と言って頭を下げ始めた。何だか予想外の騒ぎになってしまった。ああ、あのまま口を滑らせて「我がエロ星人の未来を託したくなるような子ですね。これからの世の中、微変態なんてもう用無しでしょう。腕白でもいい、真の変態を極めて欲しい、なんてね。むははは。」などと言わなくてよかった。

確かに、成長途上の子供の前で親があからさまに性的な言行を示すのは私もどうかと思う。しかし、あたかも性的に無菌真空状態な両親像を奨励するかのような彼女の発言には、薄ら寒いものを感じた。もし、彼女が言うように前述の園児が父親の言動を真似ているのだとしても、それは特に咎められるようなケースだろうか?それなりに仲の良い夫婦なら日常、子供の前でもついつい、多少のちょっかいを出し合ったりすることぐらいあるだろう。却って、それを「いやらしい」とか「淫ら」と言い切ってしまう方がいやらしいという気がしなくもないのだが。

それに、親が自分達の言行をどんなに慎んだところで、TVがある家なら親の知らぬ間に子供が性的な場面を目にする機会は充分ある。有り難いことに日本のTVは昼間のうちから濡れ場アリの二時間ドラマなんかをジャンジャン放送してくれるから、両親のお出かけ中にたまたまそういうドラマでHシーンを見て目覚めてしまう子供は少なくないだろうし、ちょっと知的レベルの高い子なら親の書斎でこっそりインターネットのHサイトにアクセスするぐらい朝飯前だろう。

どのみち子供は大人が考えているほどバカではないので、きちんとした予備知識さえ身に着ければ性的な情報を何でもかんでも吸収して自らの成長を歪めてしまうということはそうそうないのではないかと、私は考えている。いわゆる「親が子供に望むような健全な」形でではないにしても、胸がむかつくような性の形にはちゃんと拒否反応を示すものだし、安全なものとそうでないものの選り分けぐらいはマトモな判断力さえあれば自分の頭でできるはずだ。その上でなおかつ、どうしても安全でないものに惹かれてしまうというのなら、それがその子の嗜好なのだ。周囲がどんなに圧力をかけても、もう変えられるものではない。

きょうび、性に関して従来大人が子供に望んできたようなスタンスなんてとっくに崩壊しているのは自明であるにも係わらず、それでもまだ「この子はオクテだから・・」という幻想にしがみついている大人が相変わらず多数派なのだろうか。しかし、今はもう子供をセックスから遠ざけておくために監視の目を光らせておくなどという時代錯誤な努力など無駄である。そんなことよりもまず、近所のバスキンロビンズで友達とアイス食べながら「避妊しなくても必ず妊娠するってわけじゃないから大丈夫だよねー」などとホザいている中高生の間違いを指摘してやる方が急務ではないだろうか。

と、いうような話を、オフィスに戻ってから或る同僚に話していたら、それを聞いていた別の同僚が「そういえばこの間なんか、」と前置きをして、こう言った。

「私の受け持ちの幼稚園には、男の子の膝の上に上履きのまま足を乗っけて、"アタクシのハイヒールにご挨拶はッ?!"って言った女の子がいましたよ。」

・・・エロ星人の未来は、君に託そう。


2001-04-27


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