日本にはソラドレが溢れている、と思う。ソラドレというのは、音階のソ・ラ・ド・レのことである。
これら4つの音階のみで編まれたごく短い単調なメロディーが、国内のあらゆる場所で、あらゆる時に、
人々の口をついて金太郎飴の如く何度も同じ顔を覗かせるのだ。おそらく日本人は血統的に、
この音階が好きなのだろう。
ソラドレの道は、既に子供の頃から始まっている。例えば幼稚園や学校で、ある生徒が他の生徒の秘密を知った時。
またはその過失をなじる時。彼等が咄嗟に口ずさむメロディーは決まって「レ〜ドレ、ラソラ♪」なのである。
歌詞をつけてみると、「見〜ちゃったぁ、見〜ちゃった♪」「聞〜ちゃったぁ、聞〜ちゃった♪」
「あ〜らら、こらら♪」「先生に、言うーたろ♪」等々となる。
(ちなみに、学習院初等科の場合、「先生に、言うーたろ♪」は「先生に、申し上げよ♪」
と歌うと聞いたことがあるのだが、本当だろうか。)
私が初めてこれらに出くわしたのは、編入したばかりの関西の小学校で給食の牛乳をこぼした時だった。
周りの級友たちが大声で歌い出した「やーってもた、やってもた、ぎゅーにゅーぅ、こーぼした♪」のリエゾンは、そのメロディーの単調さと相俟って、
意味がわからないぶん非常に不気味であった。そのため、「他人の過失を歌で愚弄するとは、なんて陰湿な民族性なのだろうか」
と涙まぎれに腹を立てたりしたものである。
と、久々に立腹したところで、次は大人たちのソラドレであるが、これは一般的に子供たちよりもさらに単調を極めている。
最も代表的なのは、移動商い等による「ラドド〜ラ、ドレレレ〜♪」等であるが、これなどラ・ド・レ、の3音階のみ。
一方、歌詞の方は、「たけやーぁ、さおだけー(竿竹)」「きんぎょーぇ、きんぎょー(金魚)」
「あさりーぃ、しじみー(浅蜊・蜆)」「なっとーぇ、なっとー(納豆)」等々、ズバリ品名連呼の直球勝負。
しかし、如何にせんどれもこれも皆同じメロディーであり、何ともオリジナリティーには欠ける。
だが、探してみればソラドレの世界にも個性はあった。「ラドドド〜、ラ#ドレ〜レドド〜、ラ#ドドド♪」、
歌詞をつけると「やきいもぉぉ〜、いぃしやぁぁぁ〜きいもぉぉ〜、ぃやきたてぃっ♪」である。
このメロディーは、焼きいも屋だけのもの。他の追随は許さない。最近では、「おいも〜おいも〜おいも〜だよぉぉ〜ん♪」
というフレーズを加えたロングバージョンもヒット中だ。さらに、「甘くておいし〜ぃおいも〜だよぉぉ〜ん♪」と執拗なエンディングまでついたエクストラ・ミックスの存在まで確認されてはいるが、
ここまでくるとさすがにしつこい。
ところで、古典落語関係の本などには、よく夜の町中でおっちゃんが「そばぁぁ〜ぅぁぁうぃ、そばぅぁぅぃ」
と蕎麦を売りに来るくだりがあったりするのだが、これには一体どんなメロディーがついたのだろうか。
「蕎麦売り」には実際遭遇したことがないため存じ上げないが、
この調子だとやはりこれもソラドレ関係だろう。
2000-11-20
|