以前、友人がN社に派遣されて仕事をしていた時、「申し訳ないが、例のぬいぐるみを会社で貰えたら私に譲ってくれないか」
という依頼の電話が何人もの知人から舞い込んで閉口したそうである。もちろん会社でぬいぐるみなど貰えるわけはなく、
友人はいちいち断ったそうだが。ちなみに、ここでいう「例のぬいぐるみ」とは、
N社が扱っている「ファーファ」という柔軟剤のマスコットの小熊のことである。この製品のテレビCMで、
洗いたてのブランケットに抱きついて頬ずりするその白っぽい小熊は、確かに顔立ちといい声といい仕草といい異様に愛らしく、
乙女心(←誰の?)を釘づけにするのだった。
しかしこの小熊、ただの可愛いコちゃんではない。CMの中で実に堂々と、簡潔に、それも押しつけがましさを感じさせない方法で経済観念の成熟度をアピールするのだ。
さすがはディベートの本場・アメリカ生まれ。曰く、「お金なんかちょっとでフワフワ。」まったく恐れ入る。くやしいが、私などまだまだ到達できる域ではない。
・・・私は小熊に負けたのだ。
と、石鹸水のごとき薄苦い敗北感を味わったところでそろそろ〆たいが、まだある。実はこの小熊、一匹でいくつもの名前を持っているのだ。
例えば日本では「ファーファ」と名乗り、本国アメリカでは「Snuggle」、スペインでは「Mimosin」、オーストリアでは・・・トルコでは・・・というように、国別に使い分けている。
いずれも呼びやすく柔かい響きの語感を選んでいるところなど、さすがだ。
世界中どこに出没しても気軽に呼んでもらえるよう配慮したのだろう。
もしかしたら、蟲も殺さぬ顔をして最終目的は世界征服か。この商売上手。
2000-09-12
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