もう十年以上前の話になるが、「オヨビでない奴!」という学園ドラマが好きだった。元来、あまり熱心にテレビを観る方ではなかった私も、
このドラマだけは毎週欠かさず観ていた。のみならず、ビデオに録画して細かいところまでチェックしながら何度も巻き戻して観たため、
しまいには気に入った場面のセリフをそらで言えるようになり、ノートに「風間三親子・名言集」まで作ってしまった。
考えてみれば、私はこのドラマで日本語をマスターしたと言っても過言ではないかもしれないのである。
そもそも私がこのドラマを観始めたキッカケは、岡崎亜紀役で出ていた磯崎亜紀子が非常に、何と言うか、タイプだったからであるが
(←ええ、それはそれはもう、可愛いかったのです)、主役の風間遊介を演じる高橋良明にも毎週ハラハラさせられ、見逃せなかった。
また、家業である「風間ピンチランナー」を立ち上げた祖父・千歳(植木等)と父・又一郎(所ジョージ)など遊介を取り巻く人物たちも傑作ぞろいで、
バカバカしいが決して低俗ではなく、無責任だが決して冷淡ではないのだった。個人的な感慨としては、
時々折りこまれるシリアスな場面でのセリフの中に、ドキッとさせられるものが多かったのを思い出す。当時、学校の中で集団から浮き上がらぬよう必死に「日本人化」していた卑屈な自分の中に、
それらは厳しくも暖かく降り注ぐ恵みの雨の如く染み込んだ。ドタバタな筋でひと通り笑わせてくれた後、
必ずこのようなオマケもついてくるドラマだったのだ。
そんなわけで、さきほど久し振りに「風間三親子・名言集」を開いてみた。黄ばんだ紙面が時の経過を感じさせ、一番最後のページに大きな赤字で殴り書きされた一行が泣かせる。
「好きだ、好きだ、大好きだ!・・・岡崎、俺は本気だぞ!」・・これは、最終回で突然北海道へ転校することになった遊介が、
空港のロビーで亜紀に告白する場面でのセリフだ。あまりにストレートで部外者は恥ずかしくなるが、これは、
普段ひたすらC調(←死語)でいい加減な遊介が言うからこそ生きるセリフなのだろう。ちなみにこの後、遊介に対する亜紀の答えは、「わかってるよ!」だったはずで、
「私も好きよ!」でないところが何とも切ない青春ではある。
と、そんな経緯で、人と生まれたからには一度でよいから遊介のようにキッパリクッキリ、惚れた相手にコクってみたい、
と思いながら迎えた九月二日、今年も遊介こと高橋良明のバースデイ墓参りに出かけてくるという友人の道中無事を、
あくまでも無責任に祈った。私は家で黒い服を着て静かに過ごす。祖父の命日である。
2000-09-04
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