七夕。夫と共に近所の和食屋で天ざる定食を食べていると、鈴を振るような声で私達に挨拶する女人あり。
「こんばんわ。」・・顔を上げると、行きつけのクリーニング店のバイトの女の子がちょこんと立っている。
酒井美紀と本上まなみのスペシャルブレンドみたいな彼女は、先日まで長かった髪を夏らしいショートボブに切り揃えていた。
うむ・・可愛い。思わず口元が緩む。すると、
「あ、髪切ったんだ、可愛いですね。」
夫が、普段は絶対言わないような褒め言葉を口にする。今夜は少し酒が入っているので、口先が滑らかなのだ。
私はキッと眼で彼を射る。彼女を「いいなぁ」と思い始めたのは私の方が先だったのだぞ。
だが、彼女は夫に褒められてはにかみ笑いを見せている。私に同じことを言われてもこんな顔をしてくれるかというと、それは疑問だ。
私のもどかしさは硬直する。
例えば、もしこのまま彼女を拉致して我が家に監禁し、夜になったら裸に剥いて「私とこの男とどちらを選ぶか?」
と迫ったら、恐怖に震えながらも彼女は「この男」の方を選ぶのだろうか。だとしたらそんな時、私が口にできるセリフは
「私だったらあなたを今まで行ったこともないようなスッゴイ所へ連れてってあげられるのよぉ〜ぅ。」というノンケ向けレズビデオにありがちなダメ押しだけなのか。
勝ち目がない、とはこういうことだと思った。
2000-07-07
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