我が家のある集合住宅の界隈に、このところ変質者が頻繁に出没するらしい。
私は幸いまだお目にかかっていないが、先日、近所の女の子が学校帰りに生のバットとボールをセットで
いきなり目の前に突きつけられ、非常にショックを受けているという。当たり前だ。可哀相に。
警察に被害届を出すと、一応今週から近辺のパトロールを強化すると約束してくれたそうだが、
やはり微妙な年頃の子供を持つ親御さんにしてみれば、気が気ではないのだろう、
自治会のメンバーが早速注意を促す手製のポスターを作り、各棟のエレベータホール前に張り出した。
見れば、カラーのイラスト入りでなかなか人目を引くものだ。これなら皆に見てもらえるだろう。
ところが、よく見てみると肝心の文面の方が、何と言うか少々脱力ものなのである。例えば・・・
「でた〜!チカン出没!・二月十日夕方五時半頃から八時頃にかけて、数名の児童が被害に遭っています。
気をつけましょう。目撃されたチカン男の特徴は、身長165センチ位、やせ型で、まだ若く、たて長、金髪。
茶色のロングコートの下には何も着ていなかったそうです。もし裸を見せられてもジロジロ見たりせず、
すぐ大声を出して人を呼びましょう。きっと誰かが助けてくれます。皆様のご協力お願いします。
XX団地自治会」
上記は、私が住む棟に張ってあったポスターの文面であるが、まず冒頭の一段目大文字は、
「でた〜!」じゃないだろうと思うのである、こういう場合。危険に備える緊迫感といったものが
まるで感じられない。推定年齢を「まだ若く」とまとめてしまうのもあまりにアバウトすぎる気がするし、
「たて長」というのは一体なんのことだろう。身長のことではなさそうだし、もしかして面長という意味だろうか。
それとも・・・。否、そういう想像はこの際やめるべきだ。
とまあ、真新しいポスターの前で次々膨れ上がってゆく疑問に立ち尽くす団地妻、
中でも最も打ちのめされたのは、「きっと誰かが助けてくれます」という根拠のない
プラス思考な一行であった。強引な割には、虚ろなまとめかたなんである。
何なのだろう、この、煮え切らない思いは。
製作者の意図する処と全く違う意味で興味をそそられた私は、他の棟のポスターも見て回ることにした。
まぁ、どこも似たりよったりの内容であったが、一番外れの棟に張ってあった二枚は強烈な印象を結んだ。
「でやっ!チカン出没!」と「キャー!チカンだぞ!」という大文字が並んでいた。・・おいおい、
「でやっ!」って何やねん。宇宙へ帰るんかい。「キャー!」というのもこの場合何だか、喜んでいるみたいである。
もしや、皆さんこのシチュエーション結構楽しんではいまいか。
イラストの方もよりによって、下半身モザイク入りの力作である。笑わせてもらえるのは有り難いが、
却って事件を煽る結果にならなければいいのだが、と思いながら、私は人に見られぬよう俯いたまま肩を震わせ、
しばらく立ち直れなかった。
そんなわけで、全ての作品(?)を見終わる頃には完全に腰をやられ、
チカンは無事つかまるのだろうか・・とマジで不安になりながら、独り力無く家路を辿った。
2000-02-23
|