1984年

2003/05/21up

1984年

著者:ジョージ・オーウェル
初出:1949(英)
訳者:新庄哲夫
出版:ハヤカワ文庫NV(1972)
価格:¥440(1978/5刷)

 長くて退屈で陰惨である。硬く冗長な文章が延々と続く。
 冒険もカタルシスもない。希望は、当然無い。あるのは、それだけは、やたらリアルに描写された拷問と裏切りである。ラストでは、愛情や人間性が完全に否定される。
 アイデアは凄い。
 ビッグブラザー、思想警察、ニュースピークといった基本設定は勿論、盗聴するテレスクリーンや小説製作機、青年反SEX連盟、スパイ団、2分間憎悪などの小技にいたるまで、元祖アンチユートピアの百貨店である。二重思考を具現する真理省、平和省、愛情省、豊富省の命名もうなる。
 これだけの魅力的な仕掛けを大量に入れながら、これほどつまらんSF小説は、ハインラインを除けば、僕は知らない。
 きっと、オーウェルは、読者に娯楽を与える気なんか皆無だったのだ。この小説中、最も読み難い部分である、共産党宣言の不気味なパロディのような、ゴールドスタイン論文が、おそらく彼が書きたかったものだ。
 にもかかわらず、耐えて読むべきである。何故ならば、最も忠実な映画化とも言える「未来世紀ブラジル」は勿論、マトリックスもダーク・エンジェルも、攻殻機動隊すらもが、この「1949年」の血統を引いているからである。

 すべてのディストピアの原イメージがここにある。