宇宙の戦士

1999/11/8up

宇宙の戦士(STARSHIP TROOPERS)

ロバート・A・ハインライン(Robert A. Heinlein)

ハヤカワ文庫SF(1998・33刷)¥800

 映画のSTARSHIP TROOPERSが妙に時代遅れな軍隊礼賛映画だったので、念のため原作を読んでみた。その結果、敵異星人の姿や宇宙兵の装備以外は、映画はかなり忠実に原作を再現していることがわかった。

 原作は、一言で言えば、しょうもないあんちゃんが、軍隊の厳しい訓練の結果、国を思う立派な宇宙兵になるまでを描いた、教養小説(Bildungsroman)である。映画以上に軍人教育の場面が延々と続き、戦闘場面は少ない。

 映画と同じく話はだらだらと続く。旧式の宇宙二等兵物語である。それでも本書はSFの不滅の名作であり、大古典である。何故ならば、この小説には、その後の宇宙ものSF、特に日本のアニメに多大な影響を与えたアイデアが惜しげもなく盛り込まれているからである。

 例えば、宇宙機動歩兵が装着する強化防護服(パワード・スーツ)である。宇宙で自在に戦闘するためのこの服は、もちろん、モビルスーツの原型である。超光速のチェレンコフ推進も登場するが、明らかに今で言うワープである。また、隕石爆弾や、宇宙戦艦から敵母星に次々と降下する宇宙兵など、恒星間戦争の具体的なイメージが初めて描かれている。

 つまり、本書「宇宙の兵士」が無かったならば、ガンダムも宇宙戦艦ヤマトも無かった訳だ。さすが、Mr.SFと言われたハインラインである。だから、つまらなくても読むべし。もともと古典とはそういうものだ。

P.S. 本書が日本に初めて紹介された1967年はちょうどベトナム戦争の時期であった。その軍隊を賞賛する内容に対し、訳者の矢野徹、作家の石川喬司、そして多くの読者がファシズムとデモクラシー、暴力をめぐる真剣な議論をSFマガジン誌上等で行った。なんと観念小説の大御所植谷雄高も参加している。その熱い議論の要約が巻末に載せられており、一読の価値がある。