陰謀大全

1999/11/3up

陰謀大全

別冊宝島編集部 編

宝島社文庫(1999)¥571

 僕も貴方も大好きな陰謀を真面目に分析した本。分析するのは唐沢俊一をはじめとする気鋭の評論家、社会学者、精神科医など19名。「トンデモ本の世界」の山本弘「と学会」会長もいる。ユダヤの陰謀、米国UFO隠蔽説のようなメジャーなものから、国際ジャーナリスト落合信彦までが俎板にあげられる。

 本書を読むと、陰謀というものは、意外とバラエティが少ないものだと気づかされる。陰謀を企むのは、決まってユダヤ・フリーメーソンかナチスの残党、はたまた、ロスチャイルド・ロックフェラー財閥か米国政府、さらには宇宙人である。目的は、世界の支配や人類の浄化であり、手段も、マインドコントロール、未知の病原体、超科学技術、あるいは真っ当に経済支配と、意外に種類が少ない。「世界にはびこる、ここだけの話」の正体は、大体これらのどれかか、あるいはその組み合わせである。

 問題は、何故、こんなステロタイプなお話を本気で信じる人がいるかである。知的レベルに関係なくである。信じたいから信じたのである。「○○の陰謀」は、複雑な現実の問題を、一刀両断に善悪の二元論として解明してくれる。私の人生が上手くいかないのは、私のせいではなく、「悪」の陰謀のせいなのである。これはほっとするし、充分、納得がいく答である。私も常々そうではないかと思っていたからである。このような態度を、本書の論者は現実と向き合うことから逃げた主体性の放棄と見なし、批判的である。

 しかし、よく読むと、実は論者も陰謀が大好きなのがよくわかる。そうでなければ、それが本職の社会学者はともかく、一般の評論家まで、こんなに色々な陰謀を良く知っているわけが無い。もともと薄弱な根拠をご都合主義的に切り張りして作るのが陰謀、馬鹿々々しいと言って切って捨てればそれまでなのだ。わざわざ熱心に分析するのは、好きだからだ。

 我々は、この鬱陶しい誰が敵なのか悪なのかわからない現実から、実はひと時、逃げたいのだ。だから、皆、目をきらきらさせて、「世界にはびこる、ここだけの話」を熱心に語り合うのだ。しかし、それが、次第に、本人にとっての真実となり、カルトのごとく現実を侵食する何か得体のしれないものとなる。この境目は何なのだろうか。その不気味さに脅えながらも、それでも、僕はこれからも酒場で友と、日本を2等国に追いやるアングロサクソンの陰謀について、口泡飛ばして議論するであろう。困ったものである。

P.S. 陰謀、フィクションとことわれば、あ、SFだ。