グッドラック 戦闘妖精・雪風

1999/07/20up

グッドラック 戦闘妖精・雪風

神林長平、早川書房(1999)\1800

戦闘妖精・雪風

神林長平、ハヤカワ文庫JA(1984)\560

 南極に突如穿たれた異次元回廊から侵略してくる正体不明の異星体JAMを迎え撃つ地球防衛機構フェアリイ空軍・特殊戦隊の活躍を描く2部作。乾いた文体が心地良い。

メインテーマは、徹底的な他者であるJAMとのコミュニケーションのありようである。小説の中では、戦闘そのものもコミュニケーションの延長として扱われ、勝ち負けそれ自体に大した意味は置かれない。そもそも異次元空間を操作できる敵に人類が勝てる訳がないからである。

 第1作「戦闘妖精・雪風」において、人工知能を搭載した特殊戦闘機雪風のパイロット深井零は、戦いの中で、JAMが敵(=コミュニケーションの相手)として認識しているのは雪風を含む機械知性体・コンピュータであり、人間はJAMとの戦いに余計ものではないかとの疑念に襲われる。

恐れは、現実のものとなり、最終章において、零は、戦闘に邪魔な存在として、それまで自己の一部と信じていた雪風からおっぽり出され深い喪失感に陥る。JAMは理解不能な一種の絶対者として描かれ、それに人間の存在を認めさせる(なんと甘味な青春の挑戦だろう)道が探られる。

 一転、15年後に書かれた「グッドラック」では、決定的に負けもしない代わりに明確な勝ちもない(まるで人生のような)JAMとの長い戦いに次第に倦んでくる兵士の精神が語られる。救いとなるのは、結局、コミュニケーションによる他者との結びつき、一体感である。

その対象が人間の恋人では無く、機械知性体「雪風」であるところがSFである。僕はディシャンの機械の花嫁を思い浮かべた。前作の形而上学的な問答に比べ、より、人間臭い(ある意味では処世訓のような)世界観が語られる。気がついてみれば、作者も四十を超えて立派な中年、僕とほぼ同い年である。色々人間関係で苦労したのだろうなあ。

 ラスト、JAMの大侵攻を前に、緊密な複合体となった零と雪風は決死の戦場へと飛び立つ。この場面、何かに似ているなと思ったら、ガメラ3のラストシーン、無数のギャオスの襲来に雄々しく立ち向かう手負いのガメラと同じなのだ。やはり、おじさん、軽々しく悟っては駄目で、もう一度人生に立ち向かわなくてはいけないのだ。