< 201 ひき肉のそぼろ 4 >

猫笛を吹いて子猫たちを集めると言った。「遠足にゃ!」

ちょろちょろ水の下の小さな沢で,子猫たちにクレソンを集めさせた。 ニャゴニャゴ歌を歌いながら,裏山の天辺に着く頃には,ちょうど太陽が真上に来て,春のように暖かくなった。

子猫たちにスプーンを配ると,洗面器を下ろし,木の蓋を取り,熊笹の葉をはがしてゆくと,見たことも無いような,大きな鶏そぼろ弁当が現れた。 まだ,ほんのりと暖かい。

みんなで猫手を合わせて「いただきます」をすると,一斉にスプーンを突っ込んで食べ始めた。 甘い,しょっぱい,美味しい,肉だ。 肉がおかずのお弁当だ。 酸っぱい大根と,クレソンも美味しい。

お日様が柔らかく射しているし,お腹がいっぱいになったので,すこし昼寝した。 あにゃこさんは今頃お仕事かにゃあ,と猫神様は思った。

裏山から下りると,みんなで食器を洗って布巾で拭いて,台所の古い木の棚にしまった。 今日の遠足は完了。

「また,行くのにゃ。」
子猫たちもミャーミャーと賛成した。 (ま 10.1.2)
< 202 ズミの花 1 >

朝が早くなった。 猫神様はおひつのご飯で塩むすびを作り,つめたいちょろちょろ水を竹の水筒に入れ,風呂敷で猫首にしばった。 そして裏山を登って行った。

猫上のおばあちゃん家に着く頃には,まだ空気は冷たいけれど,眩しい日が射していた。

結界の角でぽむぽむと猫手を打つと,中に入っていった。

ズミの花が咲いていた。 バラ科リンゴ属の,紅色の蕾と白い花が,見上げるような大きな木いっぱいに咲いて揺れていた。

満開のズミの木漏れ日の中で,猫神様は塩むすびを食べ,つめたいちょろちょろ水を飲んだ。 とても幸せな気持ちだった。 (ま 10.6.26)
< 203 ズミの花 2 >

その時,ズミの木の真ん中で小さな鈴の音がした。

少しずつ少しずつ,鈴の音はズミの花の数だけ増えていった。 そして鈴の音はズミの花々からあらゆる方向へ,ゆるやかに震える粒子のようにゆっくりと飛んでいった。

猫上のおばあちゃん,と猫神様は思った。

猫神様はズミの木の下から立ち上がり,結界をぽむぽむと閉じると,眩しさを増す朝日の中,裏山を下りて行った。 (ま 10.6.26)

< 204 ズミの花 3 >

ネコカミ神社へ帰ると,お腹を空かせているはずの子猫たちが,ちゃぶ台の周りに大人しく集まっていた。

ちゃぶ台の上には,猫上のおばあちゃんがお金を入れるのに使っていた,透明なガラスの広口瓶が載っていた。 瓶には半分くらい,ぎっしりと大きな5百円玉が入っていた。

「大切に使うにゃ。」
猫神様はしっかりと重たい瓶を持つと,厚い扉の付いた古い大きな木の棚に仕舞った。

猫神様は,誰も知らない廃屋の庭にあるフサスグリを,たっぷり採ってきてちょろちょろ水で冷やしてあった。 大きな竹の笊を水から上げてきて,子猫たちに食べさせた。 赤い半透明なフサスグリはガラス細工のように美しい。 子猫たちは猫手を赤くしながら,フサスグリを食べた。 (ま 10.6.26)

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