HB9CVの製作(50MHz)

<はじめに>

 50MHzで移動運用する場合、6エレ程度の八木が標準設備のようです。ただこれはクルマで移動できる 場合であり、山岳移動の場合は軽量に工夫された5エレ八木が恐らく装備の限界のようです。ただマストの 高さや強度の問題もあり、今回は7m長の玉網竿を使用して上げられるベストのものとして、2エレのHB9CV を製作しました。HB9CVだと3〜4エレ八木程度の性能が期待でき、エレメント数が少ない分軽量に仕上げ られます。7mHまで上げる事により4mH程度の5エレなどに比べてもそれほど遜色ないのではないかと 期待できます。問題は給電部が八木よりも多少複雑になるということです。実際に製作し、コンテスト などで実践使用もした結果、満足できる結果となったのでご紹介したいと思います。

<製作の動機>

 長野市周辺は2000m級の山に囲まれた盆地になっており、地元では善光寺平と呼んでいます。 これら盆地の周りの山々は大抵1〜2時間程度で登山することができ、登山をして移動運用できれば 絶好のロケーションとなります。 最近私は50MHzにとても魅力を感じるようになり、山頂から運用したいと思うようになったのですが、 その際のアンテナ設備として、シンプルなループアンテナ(ヘンテナ等) を使う手もあるのですが、さらにもう少しゲインが欲しいと思い、色々考えた末に2エレHB9CVを製作することに しました。その製作記を紹介します。

 書籍やインターネットでHB9CVのことを色々調べましたが、詳細な製作例や寸法などについてはなかなか 資料が見つからず苦労しましたが、最終的には2006年のフィールドディ・コンテストで実践使用し、自分なりに 満足の行く結果が出せました。

<寸法の決定>
 多分、2エレHB9CV、それも50MHz用というのは今では平均以下の設備となってしまい、インターネット で紹介されている記事も市販の2エレを4エレに改造する記事なら見つかるのですが最初から製作したものは 見つかりませんでした。また各メーカーから比較的安価に市販されているようでこれを自作するハムは今 ではほとんどいないからかも知れません。
 セオリーとしては、Ra=1/2λ×電気長係数、Rf=Ra×1.03〜1.05、エレメント間隔=1/8λと されているようです。
 参考文献やインターネットで調べた結果、当然ですがそれぞれ微妙にエレメント長や間隔が異なります。 そこでここは山勘で決定し、調整ができるようラジエターは短か過ぎないよう若干長めにしました。以下が 当初の寸法です。

 共振周波数(fo) 50.25MHz
 ラジエター(Ra) 片側1425mm 全長2850mm
 リフレクター(Rf) 片側1490mm 全長2980mm
 エレメント間隔  750mm
 ガンマロッド長 500mm

HB9CVアンテナの電気的構造

<材料の決定>

●エレメント、ガンマロッド
 エレメント材料は直径8mmφのアルミパイプに決めました。本当は6mmφにしたかったのですがハムショップには 在庫がなかったからなのと、移動用に短くたためるようにするため、接続部のつなぎ部分に主エレメントの 直径以下のパイプが必要なため、たまたま手持ちにあった6mmパイプが最細だったためです。ちなみに肉厚は 1mmです。
 ガンマロッドはエレメントに比べ直径が細い程インピーダンスを高く取れるようなので、ホームセンターで 直径4mm(肉厚0.5mm)のパイプを利用し(1:2)、1m単位で販売されていたのでこれを等分して長さ500mmと しました。本当はこの肉厚0.5mmのアルミパイプをエレメントにも使用すれば全体もずっと軽量に仕上がったと 思います。

 「ガンママッチ」
 d1>d2の比が大きいほど
 Sが広いほど
 Lが長いほど
  →→ インピーダンスを高く取れる。

●ブーム
 手持ちのもので、あまり重くならないようにとφ16mmのアルミパイプを使用しました。 エレメント間隔は750mmですが、ブラケットを取り付けたりするので多少余分に取り800mmで切断しました。 その他で述べていますが、クロスマウント の代用としてエレメントブラケットを使用したため、エレメントや給電部を接続した上でパイプの重心に水平に 1箇所ボルトを通す穴を開けてあります。

●エレメントブラケット
 これについては色々悩みました。目玉クリップを検討したりしましたが風で万一エレメントが落下したりと いうことを考えると怖くなったのと、重量を考えて採用しませんでした。最終的には5mm厚のプラスチックの板 をホームセンターで見つけたのでこれを使用する事にしました。

<製作>

 まずエレメント用に以下の通りに8φのアルミパイプを切断していきます。 最終的には500mm長のアルミパイプを8本つくり、さらに425mm長を2本、490mm長を2本つくります。
 短いエレメント同士を接続できるようにするために、6φのアルミパイプを40mmにカットした「つなぎ」を10本 作り、500mm長のアルミパイプの片側につなぎの半分(20mm)を差し込んでタッピングビスでとめていきます。
 パイプカッターの付属品のバリ取りを使用して両端をキレイにしておきます。ケガをしないためとパイプ同士が スムーズに挿入できるようにするためです。
 分割エレメントの接続部分の固定方法なのですが、今回はアンテナを上げるたびにビニールテープで固定する ようにします。少々グラグラしますが、これ以外の方法が思いつかず、恐らくタッピング ビスで固定しない限り完全には固定できないと思います。数時間の運用中固定できればいいのでここは割り切った 方法にしました。  

クリックすると拡大  エレメントブラケットは5mm厚のプラ板を手ごろな大きさ(30mmx30mm位)にのこぎりでカットして作ります。 その後各辺を やすりで仕上げ、そしてブームとエレメントが直角になるようビス穴を4箇所開けます。
 HB9CVですからガンマロッドは2本必要で、ガンマロッド用のブラケットも必要なので、これはそれほど強度は 不要と考え100円ショップで見つけたプラスチック製定規(3mm厚)を切断して使用しました。1つはブームとロッド だけを接続するので小さめに、もう一つは給電部の同軸コネクタも取り付けるので大きめに切断します。 こちらもエレメント取り付け用ビス穴とガンマロッド取り付け用ビス穴を1箇所ずつ開けます。ガンマロッドは 先端を金槌で潰してドリルで穴を開けておきます。
 

 もっとも慎重に作業しなくてはいけないのは、2本のエレメントが水平になるようにエレメントブラケット (プラ板)を取り付ける(ビス穴を開ける)こと、エレメントが地面と水平になるようにクロスマウント用の 穴を開けることです。

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 位相給電フィーダはTV用300Ωフィーダ線を使用しました。実際にブームに沿わせ、必要長で切断しそれぞれ両端、 両端子には圧着金具を取り付けてハンダ付けしました。丁度真ん中の位置の皮膜を2cmくらいの長さで切り取り、 1回ねじって適当な絶縁物をあてがってビニールテープでしっかりと固定します。

 給電部はまず同軸メスコネクタを取り付ける穴と固定用のビス穴2箇所、ガンマロッド固定用のビス穴、ブーム への固定用ビス穴1箇所をガンマロッド用ブラケット(大)の適当な位置に開けます。そして 同軸メスコネクタを取り付けます。次にコネクタのグランド側からエレメントを固定しているビスへ両端に圧着端子を つけたビニール線 で接続します。ガンマロッドから同軸コネクタの芯線側端子へ接続するのですが、この間にマッチング用の コンデンサを 挿入します。同軸ケーブルをスタブにしてコンデンサとして使用する方法もありますが、今回はシンプルさや軽さを 考慮して固定コンデンサを使用しました。30pFのセラミックコンデンサを3ヶパラレルにして挿入しました。この コンデンサの耐圧が問題で、1個50Vだと多分送信電力10Wくらいにとどめておいた方が良いようです。私はあとで 耐圧500Vのマイカコンデンサに交換しました(値段が高い!)。

<調整>

 調整にはSWRアナライザーを使用しました。私はクラニシのBR200を愛用していますが、MFJ259Bだとインピーダンス がより正確に測れて良いようです。もしいずれもない場合は人から借りるか、SWR計+トランシーバで調整する しかありません。
 参考文献に従い、まず給電部のマッチング用コンデンサをワニ口クリップなどでショートさせてインピーダンスを 計測します。最低点が共振周波数となります。これがもし50.05MHzよりも高い場合はエレメントを伸ばさなければ いけないので面倒です。50.0MHzよりも低ければエレメントを少しずつ切断してカット&トライとなります。
 私の場合、当初の共振点が49.5MHzくらいにあったので、まずラジエターを片側5mmずつ短くして行き、途中で リフレクターも片側5mm短くしたりして最終的には 以下の寸法となり、上記の方法で共振周波数が50MHz台前半になった時点でエレメント長調整をやめました (調整の過程はこちら)。
Ra 片側1400mm(全長2800mm)
Rf 片側1485mm(全長2970mm)
エレメント間隔 750mm
ガンマロッドとエレメントとの間隔 60mm

 次に、ショートしていたワニ口クリップなどをはずし、ガンマロッドの調整になります。
ガンマロッドのショートバーをロッドの端に動かしてSWRとインピーダンスの記録を取っていきます。そしてショート バーを3cm位ずらして同じ事を繰り返して行きます。記録を取る内容は、SWRとインピーダンスの最低点、及びSWRが 1.5以内の周波数範囲です。これらを一通り行うと傾向が見えてきます。希望周波数(コンテストなら50.05MHzから 50.5MHz程度)においてSWRが1.5の範囲内になる位置が見つかれば調整は終了です。
 特に八木アンテナ等の場合、記録を細かく取っていく事でアンテナの性能を把握し正しい推測で調整を進める ための大事な点となります。
 ショートバーの調整後、今回は1.5には近いのですがそれ以下に下がらず、インピーダンスは80Ω程度が最低 だったため、3つ並列にしたコンデンサのうち一つを切断して再度同様に調整をしました。その結果、ショートバー がロッドの端から17cmの位置(ブームから33cm)で、 50.41MHzにおいてSWR1.2が最良点となり、インピーダンスの最良点は50.45MHzで68Ωとなり、SWR1.5の範囲は 50.0MHz〜50.84MHzとなり、コンテストで十分使用できそうな状態となりました。
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 今回の製作例では、エレメントとガンマロッドが水平に位置しています。恐らくこれが原因だと思いますが、 マッチング用ショートバーを動かすとそのたびに共振周波数も変わるようになってしまいました。結果的には 丁度良い位置を見つけたのですが。多くの製作例ではガンマロッドをエレメントの真下に配置する(80mm位離して) 事が多いようです。これも考えましたが丁度良い金具がなかったので今回のような構造にせざるを得ませんでした。

<使用結果〜FDコンテストに参加〜>
四阿山(2,354m)山頂  2006年のフィールドディ・コンテストは四阿山さんに登って参加しました。この時の設備は、FT-690(2.5W)と 今回製作したHB9CVです。  登山口より2時間半かかって山頂に到着。記念撮影をしてアンテナを上げられそうな広いところまで下りて設営。 10時過ぎに開始して1エリアを中心に4時間で100局超と交信できました。  全国的に晴天だったようで移動局が多い気がした。マルチは北は茨城から関東一円と山梨、静岡。南は高知や 島根県までグランドウェーブで交信できました。東北方面は丁度山頂の影だったようで1局も交信できず。今回は Eスポはほとんど発生しませんでした。  交信中、県内の南佐久郡移動の局や1エリアの局何人かにQRPにしては信号が強いですねと言ってもらえ、 調整に苦労した甲斐がありました。

<問題点>

1.ブーム800mm長のままにしましたが移動の際ザックには入りませんし、ザックの横に付けておくと歩行中薮や 木の枝に引っ掛けることが結構あります。半分に切断し細いか太いパイプで連結する方法がスマートだと思います。

2.構造上、エレメントとガンマロッドが平行になっており、調整に少し苦労しました。多くの製作例ではガンマ ロッドはエレメントの真下(約100mm位離なす)か逆に真上に付ける方が多いようです。

3.エレメントパイプの接続はつなぎに差し込んだだけではぐらぐらするのでビニールテープでその都度固定する ようにしました。これが原因だと思いますが風が吹いてアンテナがゆられるとSWRが結構ふらつきます。パイプ中に 水糸を通す方法もあるようですが、肉厚があり一部タッピングビス止めしてることもあって水糸を通すことが できませんでした。数時間の移動運用なのでとりあえずは良しとしましたが、何か一工夫が必要です。

<その他>

1.ポール 玉網
 ポールは釣り用の玉網竿7段つなぎ7.2mを使用しました。結構腰があり丈夫そうです。HB9CVを上げる時はかなり しなりますが十分耐えているようです。4エレ以上だと厳しいかも知れません。つなぎ目に水道管用のストッパー (名称知らない)を留めておきます。最大系の1箇所は大きさが足りないのでゴム製の紐でしばっています。これらが ないと設営・運用中に大怪我をする可能性があります。

2.クロスマウント
 JR1NNLさんのホームページ で紹介されていますが、玉網の先端にねじ込むジョイントが釣具店で販売されており、 この部品とエレメントクランプの流用でクロスマウントの代用としてあります。この方法はとてもいいと思います。 市内の釣具店を2店回って見つけ、実物を見たときは感動しました。  弱点はビーム方向を変えるためにマストを回すとジョイント部のネジが回ってしまいやすいので、ビームを回す 時は気をつけること。

3.おまけ(道具)
 アンテナ工作をする際手元にあると便利な道具です。随分助けられています。
<パイプカッター>
塩ビパイプやアルミパイプを切断する道具です。のこぎりで切るよりもはるかに簡単に素早くキレイにパイプを 切断する事が可能です。アルミパイプを使ってアンテナ製作を何回もするなら持ってた方がいいでしょう。

<リーマ>
ドリルで開けた小さな穴を大きくするための道具。同軸コネクタを通す穴を空ける際などに重宝します。ヤスリで ごしごし広げてもいいですが汗だくになります。

<圧着ペンチ>
圧着工具は電工ペンチなどで代用しがちですが専用の工具を使うと安心感がまったく違います。いつかは揃えたい。

<参考文献・ホームページ>
JA1NVB(1978)『アマチュアの八木アンテナ』CQ出版
JR1NNL 2エレHB9CVの4エレへの改造記事、その他
JA1HWO 2エレHB9CVの4エレへの改造記事、その他
7L3IJF 3エレ29MHz用HB9CV製作記など


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