その衝撃に、お前は耐えられるだろうか?

氷のような目をした者に心の中で呟いた。

 今に、その整った顔が崩れるだろう。


 グラスを傾けながら、目の前の相手を見ていた。ときどき、この綺麗に整った顔をめちゃくちゃに壊したくなる。

「何だ?」
「いいや、何でもない」

 そして、気付くのだ。自分には暗くて恐ろしい部分があるのだと。

 それを、直してくれるのはお前しかいない。

 氷河はグラスをテーブルに置き、窓の外を眺めた。男は見逃さなかった。
手に持っていた煙草を氷河のグラスに近付けると、音もなく灰を少し落とした。
何気なく振り返った氷河は相手の顔を見るとグラスを取って飲み干した。
男はその様子を煙草を吸いながらじっと見ていた。

「俺の顔がそんなに珍しいのか?」
「・・・かもな」

「今日はもう、帰る」
「そう、か」

 そう言うと、氷河は席を立った。次の瞬間、床に倒れていた。

「・・・お前ッ、」

 睡魔と戦いながら、氷河は男を睨み付けた。

「俺がいつ、お前を帰すと言った・・・?」

 男はテーブルに飾ってある一輪の薔薇を取ろうとして、指先に棘が刺さった。
一瞬、不愉快そうな顔をしたが、すぐに消えた。

 男はガラスに映った氷河を見ながら、指先を舐めた。

 深い眠りについた氷河は知る由もなかった。




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'99.4.7
Gekkabijin