夏の夜の夢 A Midsummer Night's Dream(シェイクスピア)

時は初夏。ところはアテネ。アテネと言えばギリシャ、ギリシャと言えばギリシャ神話だが、主要人物の一人、領主シーシアス公爵とはそのギリシャ神話の英雄テーセウスのこと。この傑作喜劇には、ギリシャ・ローマ神話からイギリスの古いフォークロア、そして広くヨーロッパ中世の伝説までが織り込まれている。

開幕と同時に登場するのは、結婚式を数日後に控えたシーシアスとアマゾンの女王ヒポリタ。そこへシーシアスの臣下イジーアスが、一人娘のハーミアと彼女の恋人ライサンダー、そしてイージアスが娘婿に選んだディミートリアスとを連れてくる。親の決定に従おうとしない娘を裁いてくれと言うわけだ。

シーシアスはハーミアに言い渡すーーディミートリアスと結婚するか、さもなくば、死刑、あるいは一生独身の誓いをたてて尼になるかだ、と。

くだんの婚礼の日までに心を決めろと言われたハーミアとライサンダーは、駆け落ちを決意し、アテネの森で落ち合うことにする。それをうちあけられたハーミアの親友ヘレナは、以前からディミートリアスと恋仲だったのだが、ディミートリアスに振られて失恋状態。彼の歓心を買おうとハーミアのかけ落ちのことを話してしまう。結果、4人の男女はアテネの森へ。

一方、公爵の結婚祝いに素人芝居を披露しようとしているアテネの職人達も同じ森で稽古をすることになる。ところがこの森では妖精の王オーベロンと女王ティターニアが夫婦喧嘩の真っ最中。オーベロンはいたずらが大好きな妖精パッックに命じ、恋の三色スミレの絞り汁を眠っているティターニアの目にかけて意趣晴らしをしようと目論む。これは、目覚めて最初に見る若者にぞっこん参ってしまうと言う秘薬である。この惚れ薬のせいで、ティターニアはパックにロバ頭にされてしまった職人の一人ボトムに首ったけになり、4人の恋人達も相手を取り違えて、てんやわんや。だが、ロバに恋するティターニアを哀れと思い始めたオーベロンは、解毒の薬草で妃の目の迷いを解いてやる。パックの役目はボトムの頭を元通りに直すことと、やはり薬草を使っての4人の恋人達の仲直りだ。

森の中での狂乱の一夜は明け、一同はアテネに帰る。そして、3組のカップルの結婚とその祝宴。そこで上演されるボトムたちの「爆笑喜劇」。妖精王と女王は、新床へ向かった新婚のカップルを祝福し、パックは観客に言う。
「ここでご覧になったのは、うたた寝の一場のまぼろし。たわいもない物語は根も葉もないつかの間の夢」

昼と夜、光と闇、うつつと夢、意識と無意識、理性を獣性ーーー様々な対立項が渦巻く中で、とびきり愉快に語られる愛の回復の喜劇である。



The Iunatic, the lover, and the poet Are of imagination all compact.
(Theseus)


狂人、恋人、そして詩人は想像力でできている。(シーシアス)
                絵本シェイクスピア劇場(講談社)