記:04年5月
魚より肴を・・・こう書いた場合、「この人はツマミの為の魚を釣りに行ってるの?」って思われるかもなぁ〜
そんな危惧を重々承知の上あえてこのようなタイトルをつけました。
勿論「ああそうだよね、別に釣れなくてもね」、こう感じられるフライマンもいらっしゃると思いますが、
そんな方にとってはこの先退屈な話になるかも知れない事をお許しください。

何故釣りに行くのか。
釣り人であれば魚を釣ることが楽しくて、それが好きだからがまず第一でしょう。
勿論私も基本的に変わりなく、地図を眺めては何処にしようか、カレンダーをめくっては何時にしようか、
ひたすら魚が釣れる事を願いつつ、日々楽しい思い巡らしをしています。
釣れなくて良い、なんて間違っても思ったことは有りません。
そして待望の釣り場へ到着、さあ・さあ、と意気込んでも何故か反応すらなく、
何時しか必死血眼!わき目は振らずがロッドは振り続けます。
そんなこんなで、結果が出たり出なかったりを繰り返しますが、それが楽しくって仕方が無い時期を暫く過ごします。
しかし大抵の場合思い通りにならないのが釣りでして、
そんな場合は何故なのか色々と理由を見付けたがりますね。
まず、「貴重な時間を割き高い交通費をかけ、はるばる遠くまで来たのに何でだ」と、
やや感情的になったりしてそれは始まります。
最初のうちは「パターンが合わなかったのか」・「サイズを間違ったのか」・「ポイントが・・・ドラグが・・・」等、
自分のテクニックに関する事を問題にします。
そのうち釣りに対し自信がついてくると、原因の追求は次のステップに移ります。
「天候の急変がまずかったか」、「もしかして前日に抜かれてしまったか」等々。
何れにしろ原因や理由を探したがります、それが楽しい場合さえありますから。
しかし釣れた場合でも悩みは尽きません。
サイズに不満、もしくは数に不満、という場合も有るでしょう。
先週この川に来た仲間からの情報では、○cmが○匹で□cmが□匹だと聞いていましたが、
「今日の俺はまだ足元にも及ばない・・・よーし、昼飯抜きでもう一頑張りするか」なんて具合で。
だけど往々にして人から聞いた情報通りには、なかなかならないのが常ですね。
まあ、話す方は大抵良い思いをした場合、半分自慢話になるのが釣り人ですから。
それを解っていても見せ付けられた写真が頭から離れなくって、こんな感じでしょうか。
闘争心やモチベーションを高める事に意義を感じている時期、
これらの事は楽しみのうちでもあります。

だけどですね、何時しかこれらの事に疲れを感じ、沸々と疑問が湧いてくるようになりました。
「俺って何のため釣りに来たんだろう・・・」と。
勿論釣りをすること自体の楽しさは揺ぎ無いのですが、
結果を求めてばかりではなかなか満足感が得られず、
ひいてはそれが疲労感やストレスに繋がっていたのです。
もしかして更なるストレスを生み出すべく釣りに行ってないですか?
私もかつてそうでした。
それは真夏の奥会津、カッと照りつける陽にたじろぎ、さっぱり反応を示さない流れを力なく眺めていた時です。
「やーめた」
麓の商店でビール数本を仕入れ、再び元の流れに戻って来ました。
ウエーダーを脱ぎ捨てサンダル履き、大岩の影で清流に足を突っ込みビールを呑みます。
正に至福の瞬間でありまして、今まで感じなかった・気にも留めなかった世界が展開し、
何だか自分が辺り一帯に溶け込んでいくような錯覚すら覚えました。
しかも旨い、とてつもなくビールが旨い。
風が木々を揺らす音、それに乗って香る甘酸っぱい匂い、迸る飛沫が腕を伝う感触、
雲を蹴散らす陽の光、そして足に絡む流れ。
悔やみました、はい、大いに。
自分は今まで何と勿体無い事をしていたのだろう、何で気が付かなかったのだろう、と。
こんな素晴らしい「何でもない事」の存在を知った瞬間でした。
と同時に、これ以上無く旨い肴の得方を知った瞬間でもあります。

それからは渓自体がとっても好きになり、また、それを取り巻く環境に身を委ねる事を愉しみます。
「貴重な時間を割き高い交通費をかけ、はるばる遠くまで来たのだから、魚如きに振り回されたくない」と。
何だか今までと180度考えが変わってしまいました。
これは愉しむという観点で酒の価値が何となく解ってきた、精神的なオヤジに自分がなった証拠かも知れません。
旨い酒を呑む為には旨い肴が不可欠、それは釣りを通じ得られるものであって、
釣れた魚だけではないのです。
勿論、大きな魚が沢山釣れる事も旨い肴に間違いないのですが、
私が望むのは飽く迄も渓で旨い酒を呑むことですから、魚が釣れる事は色々有る肴の一部でしか有りません。
ましてやそんな一部でしかない事に、血眼になって貴重な時間を割いていては、
旨い酒を呑む時間が無くなってしまうではないですか、本末転倒!

心を許せる仲間と渓に佇み「出た!バラした!デカい!今日はダメ!」等々、
そして「もう十分だね」、そう、これが旨い肴の釣れた瞬間で、
実際に魚が釣れた釣れないは然程問題でない場合が多くなりました。
残念ながら単独釣行となった場合でも最近は、同じように呟き同じように肴を釣る事が出来ます。

「魚より肴を釣りたい」