野外でのケナフ植栽と日本のバイオマス利用状況について

 ケナフも作物のひとつですし(ジュートのような繊維作物,文献1)在来の植生をはいでケナフを植栽するのは自然破壊だとおもいます.

 また現在の日本ではバイオマスが余ってしまって利用されていない状況です.各都市では公園や街路樹の剪定した枝や,草刈り後の草などの処理,里山の雑木林の下刈りやススキ草原の刈取り管理後のバイオマスの処理に困っています.これを腐葉土にして野外に散布すれば富栄養化によって植物の多様性が減少する可能性が高いと思われます(肥料が多いと背の高い植物が単独で優占して他の種が見られなくなってしまう現象が頻繁におきる.文献2).かつては燃料や飼料,肥料として肥料分を含むバイオマスが森林や草原から持ち出されていたのですが,燃料革命以後は雑木林や草原などの生態系からの持ち出しがなくなりました.

 結局,バイオマスを早く大量につくることを考えるよりも,雑多な植物バイオマスをうまく利用するような循環を考えた方がよいだろうと思います.これができれば,CO2対策と,里山の生物多様性の保全の一挙両得になります.

文献1: 堀田満ほか 1989. 世界有用植物辞典,平凡社
文献2: Tilman D 1986 Resource competition and the dynamics of plant communities. in Plant ecology (ed Crawely M), pp51-75, Blackwell, Oxford. Huston MA 1994 Biological diversity. Cambridge University Press, Cambridge.

Fumito Koike(小池文人,横浜国立大学環境科学研究センター)   


栽培植物の導入と生態系へのリスク評価について

 いろいろな栽培植物の導入について考えてみると,自然の植生をこわした耕作地の拡大や帰化などによる「生態リスクの増加」と,経済効果やCO2削減,森林保全などの他の生態リスクの低下などの「利益」,とのあいだの相対的なバランスの中で考える必要があるだろうと思います.

1.普通の作物であれば,経済的な利益が高いので,現在はある程度の生態リスクも受け入れられている

2.小笠原などの海洋島では,同じ種でも帰化リスクが高くなるので,よほど有益な植物でなければ導入すべきでない

3.ケナフは,いまのところ経済効果や実際のCO2削減,製紙による森林保全効果などよりも,教育的な啓蒙のシンボルとしての役割が重要そうに見える.もし万一自然の植生をはいでケナフを植えたら本末転倒になってメリットがでない.

4.このような,(a)「生態リスクの増加」と「利益」との相対的なバランスをどう考えるかとか,(b)どの程度の生態リスクなら社会に受け入れられているのか(リスク受容のレベルは国や地域によっても歴史的にもちがうと思われる),というようなことは,環境問題を考えるときにしばしば問題になるポイントです.むしろこのような勉強をする教材に使ってみたらとても良いかも知れません.

Fumito Koike(小池文人,横浜国立大学環境科学研究センター) 


「ケナフが日本の生態系を破壊する?」トップへ