〜 コロナの人びと 〜


アルターとレティル


酒場にて。
「なあ、レティル」
「どうしたの。何か用?」
「やっぱり、無口な男がモテるのか?」
「――ゴホッゴホッ!! なによ、いきなり!?」
カウンターの片隅で夕食をとっていたレティルは、思いっきりむせて口を押さえた。
「いったいどうしたの? そんな神妙な顔で質問してくるなんて、らしくないじゃない」
「・・・いやな、昨晩、ちょっとマジメに考えてみたんだよ。最近の女の子は、いったいどんな男が好みなんだ? ってな」
「・・・・・・平和なひとねぇ(ぼそ)
「で、オレのまわりでいま好きな男がいるやつは・・・って考えてみたところ、一番にレティルの顔が浮かんだってわけだ」
「!!? なっ、なんでそれであたしが浮かぶのよ!」
「だってあいつ・・・、レオン、だっけ? 好きな人なんだろ? レティルの」
「・・・・・・・・・」

レティルは、隣に座るアルターからとっさに顔をそむけて、正面を向いた。
以前、トルーダの谷で切々と語ってしまった自らの姿が、思わず恥じらいとともに頭によみがえる。焚き火の炎の向こうには、この戦士の意味ありげな笑顔が・・・。

「だから、本当にそんなんじゃないんだったら! 憧れだって言ったでしょ? もう・・・くだらない話なら他の人にしてよ」
「くだらなくねぇって! ・・・なぁ、無口で・・・なんつうの、ミステリアス・・・ってやつか? そういうのがあるから、女の子はそいつに『憧れ』たりするんだろ?」
「・・・・・・。うーん・・・」
「腕っぷしが強いだけじゃあ、女のコは『憧れ』ちゃくれねえんだよなぁ」
「・・・まぁ、それはそうね」
「強くて、頼りがいがあって、やさしい・・・。それでもダメなのか?」
「・・・・・・?(誰のこと?)」
「・・・このオレにもまだ足りないものがある・・・。オレはいま、今後の恋愛人生を左右するこの謎に、猛烈に悩んでいるんだ・・・」
(・・・・・・・・・・・・)

「でも・・・・・・」
しばらく絶句していたレティルが、カウンターの正面を向いたまま、ひとりごとのように口をひらいた。
「少なくとも、あたしが憧れていたレオンは・・・、強くて、頼りがいがあって、優しい・・・、そんな人だったわよ」
「・・・・・・そうなのか? けどよ・・・」
「そう、いつも優しくて、あたたかくて・・・。”今”のレオンは・・・あの人のあの様子は、きっと赤い竜との戦いで何かがあったから・・・。レオンは本当は、あんなに冷たい人じゃないはずなんだもの」
だからね――。そう言うと、レティルはアルターのほうへとまっすぐに向き直った。
「今のままで、いいんじゃないの?」
そして、にっこりと微笑んでみせる。
「無口な男がモテるっていうのは、あたしは違う気がするわ」

「・・・そっ、そうか! そうなんだな!!」
「とりあえず、あたし個人の意見としてね」
「いや、なんかすっげぇ説得力あったぜ。サンキュー、レティル!! うぉぉ・・・なんだか自信がみなぎってきた・・・!!!」

ガッツポーズをかかげて揚々と去っていく赤い背中を見送りながら、レティルは微妙な笑顔でうなずいた。
(レオンと彼との決定的な差は・・・・・・あの素晴らしい単純さよね)


Fin


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