Avenger
高鳴る鼓動。
(あいつが、そこに・・・)
やがて銀色の「それ」が見えてきて、孫市は一度、自機を止めた。
(そこに、いる・・・!)
愛おしい者・・・。
(藤堂高虎――!!)
星明かりに照らされて、不気味な光を放つ戦艦。
* * *
藤堂高虎は、内府家康に最も信頼されている将の一人である。
真田幸村、島左近、そして雑賀孫市の三人は、そうしたある種の「大きな意味」をもって、この鳥羽沖での戦いに臨もうとしていたのである。
・・・だが。
(幸村殿、左近殿・・・・・・お許し下さい!)
孫市はひとり、闇夜に愛機を走らせていた。
私怨と言われてもかまわない。
「――邪魔よッ!!」
次々と進路を阻む敵兵たちを、孫市は正確に撃ち落としていった。
・・・自分は今、お祖父様と共に戦っている・・・!
しかし、戦艦内はさすがに広い。
そのうちに孫市は、ひとりの敵兵へわざと弾を外し、隙のできたところを素早く背後にまわって、そのこめかみにグッと銃口を突きつけた。
「藤堂高虎の居場所へ・・・案内して!」
* * *
戦艦の外、高く見晴らしの良い場所にいたその男は、扉の開く音に気付いて、ゆっくりと振り返った。
「と、殿・・・ッ」
傍らの”案内役”が、上擦った声をあげる。
(・・・こいつが。この男が・・・)
形見を握る細い指に、否応なく力が入る。と同時に、その男・・・この地の大将、藤堂高虎は、呆れた顔でこちらへと近付いてきた。
「・・・まったく。何を騒いでいるのかと思えば」
「殿! お、お早く此処よりお退き下さい! このっ・・・この娘は・・・!!」
しかし高虎は、軽く右手をあげると、「いや。お前が退け」とだけ言って、次に孫市のほうへと視線を向けてきたのである。
「お客人は、この俺に用があるんだろう。・・・なぁ、お嬢ちゃん?」
(――!!)
体中の血が、熱く震え出したのがわかった。
それを見た高虎は、もう一度、苦笑いを浮かべた。
「おいおい、随分と物騒だな。こんな所まで、一人で俺に会いに来てくれたっていうのに・・・それがご挨拶かい?」
「ふざけないで!!」
――この声。この表情(かお)。
・・・自分が殺めたお祖父様に向けて、最期までふざけた笑みをおくり続けた男・・・!
「藤堂高虎・・・。お祖父様の・・・先代・雑賀孫市のカタキ・・・」
絶対に、許せない――!!
「――覚悟ッ――」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
孫市の手にした銃は、しかし・・・仇を貫く弾丸を、発さなかった。
* * *
「・・・そ・・・んな・・・・・・」
彼女は思わず、その場に崩れた。
「弾切れ・・・か」
たったいま命拾いをしたとは思えないような、変わらぬ余裕で高虎は口を開いた。
「そんなヘマをやらかすようじゃ、まだまだ先代には遠く及ばないな。・・・雑賀のお嬢ちゃん」
「――!?」
「だが、お嬢ちゃんには礼を言わなきゃいけないぜ。今ので・・・その雑賀の銃が俺を討ち損ねたことで、俺は自分の道が間違っちゃいないってことを確信できた」
それから、またあの不敵な笑みを浮かべ、続ける。「感謝するぜ」
・・・その時、孫市は初めてこの男の恐ろしさを知った。
「さてと・・・。この星空の澄んだ静かな夜に、騒ぎを起こしたお嬢ちゃんの罪は重いぜ? ・・・少しお仕置きをしないといけないな」
足下から伝わるような、凍えるほどの低い声。
「お祖父様・・・っ、お祖父様ぁーッ!!」
「これも乱世の宿命ってヤツだ。・・・恨むなよ、お嬢ちゃん」
ゆっくりと、このわずかな距離を慈しむように、高虎は歩みを進めた。
(お祖父様・・・・・・っ、おじいさま・・・・・・っ)
狙った相手を確実に撃ち抜いてきた形見の銃は、皮肉にも孫市の手から離れず、彼女の震えにあわせて、カタカタと小刻みに床音を鳴らしている。
・・・その音と、高虎のかすかに揺れる額帯をのせて、潮風が静かに吹き抜けた・・・。 |
− to be continued...your story −
続きはあなたの心の中に♪(爆)
written by yumi 2001. 4. 22
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