突発バレンタイン小説 2004





――アンシェは誰にあげるの?


たったひとつ・・・この手で作ったチョコレートを持って。

私は、ここに来てしまった。



●●○ 2月14日 ○●●



訓練以外で訪れるのは初めてではないけど。
・・・こんな気持ちでここにいるのは、初めてかもしれない。

ドキドキする。
身体が熱い。

と。

「キャー」
「デューイ様ー!!」
「ちょっと! 割り込まないでよっ」

突然の黄色い喚声に、びくりと”それ”を落としそうになった。
反射的に横にそれると、今いた場所は一瞬にして大勢の女の子たちで埋め尽された。

どこにひそんでいたんだか・・・。
建物の周りで待ってたらすぐに追い払われちゃうものね。
見れば、入り口から出てきたばかりの見慣れた騎士が、彼女たちの頭ごしで困惑の表情を浮かべている。

たくさんのチョコやプレゼント。デューイって、毎年きっとこうなんだろうな。

ふっと小さく息をついて。
私は騒ぎを横目に裏口へまわることにした。
驚いたけど・・・でも、おかげでなんだか少し気が軽くなったみたい。
こんなふうに近づけるのも、冒険者である特権。

とくに、アノ人の場合は・・・ね。


「お、アンシェ、遅いぞ!」
「は、はい・・・っ!?」

思わず手元の袋を背に隠した。
訓練場の奥からかかる声。

廊下からちょっとのぞいただけなのに、一番最初に見つかってしまった・・・。

「アンシェちゃん! もしかしてチョコ持ってきてくれたとか〜?」
手前で縄を跳んでいた訓練生のひとりが、気づいた途端に目を輝かせる。
「あ・・・。えっと・・・そのー・・・」
「そこ! 手を緩めるな!!」
「ハッ、ハイ!!」

鬼の一喝で、ここはひとまず助かったけれど。
・・・『遅い』って?
他の騎士らを諫めながらこちらへと歩いてくるその人の――。

次のひと声に、私は凍りついた。

「アンシェ。まさかおまえもミーハーなイベントにうつつを抜かしていたんじゃないだろうな? ・・・今からでいいから、早く準備してこい!」



大事に抱えてきた紙袋を、脱いだ上着の下に隠して。
結局、私は教官と剣を交えていた。

訓練用のこの剣も、ずいぶん自分の手に馴染んでしまった。
・・・暇さえあれば通(かよ)っていた場所。
怒られもしたし、イタイ思いもした・・・。・・・そして・・・。

「よぉーし、今日はここまでだ。おつかれ!」

この笑顔が、何よりも大好きで――。

「ありがとうございました! おつかれさまでした!!」

気がつけば、周りの訓練生たちはすでに鍛錬を終え帰っていて、最後は自分と教官だけだった。

教官はここの責任者だから、残った私が外に出たのを確認してから、見回りと施錠をしに行く。私はぺこりといつものように礼をして、上着を取りに棚に向かった。

(あ・・・)

・・・『ミーハーな』贈り物。


ルーはもうマノンさんに渡しただろうな。
・・・私は・・・。私は・・・・・・。

「ヴィルト教官!」

作っているあいだ、ずっとこの人のことを考えてたの。

「こっ・・・これ・・・」

友直伝のシンプルなラッピングで飾ったチョコレートを、両手でまっすぐ差し出した。

手が震えてるかな。
剣を持つのとは大違い。
教官・・・呆れてるかも・・・・・・。

(・・・・・・・・・っ)


「・・・おまえ、こういう記憶も戻ったのか」

すっと、手元のものが離れた。

「えっ・・・? は、はい。・・・手作りしたのは初めてですけど」

教官だけが、唯一、私がすべてを思い出したことを知っている。
――それはともかく。
受け取ってくれたんだ!?

「あ・・・はは・・・、それじゃ、そういうことで! ・・・お先ですっ!!」

このとき。
とにかく渡せたことが嬉しくて、私はもういちどお辞儀をして、そそくさと出てきてしまったから。

気がつかなかったのだ。


教官の顔が、少し・・・ほんの少しだけ赤くなっていたこと。

その手へのせた私の心に、それから、小さく微笑んでいたことを。



〜 Fin 〜




きゃー!!
きゃーーー、もうっ、ハズかしい!!!(*><*)  (じゃあ書くなって? ヘェ、おっしゃるとおりでさぁ)

念のためいっときますが、主人公は主人公ですよ。
決して主人公の皮を被った筆者ではありませんよッッ

サイト開設4年目にして初のバレンタイン小説。結構、もう何でもやっちゃえっていう意気込みらしいです(笑)


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