2000.2.30〜 Manami Asou




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歌声は空に響く

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―――――12月の午後。

気温は低めだが、おだやかな陽気が大地に降りそそぐ。

――――こんな日はひなたぼっこが気持ち良い。

リュッタは、トタトタと小走りで広場へと駆けていった。




「あっ、いたいた。 お〜〜いっ、ミーユー!!」

広場に着くなり、目的の相手を目ざとく見つけ出し大声で呼ぶリュッタ。

呼ばれた相手も にこやかに笑みを返す。





―――広場の噴水は、最も人が集まる場所。

歌や大道芸などの出し物もここで行われる事が多い。

吟遊詩人のミーユもここへよく来るのだ。





「こんにちは、リュッタ。 今日も良い天気ですね。」

「うんっ! 今日の雲はクジラみたいだよ!」

そう言いながら リュッタはミーユの隣に座る。 この噴水のふちは ミーユとリュッタの特等席なのだ。

「ミーユ、今日も歌を歌うのかい?」

「いえ、今日は新しい歌のネタ考えです。」

「――新しい歌!? 今度はどんな歌だい?」

きらきらっと瞳を輝かせて聞くリュッタ。

彼(彼女)は人一倍歌が大好きなのだ。 …とりわけミーユの歌が。

「…“どんな”……ですか…。 まだ何もイメージが浮かんでいないんですよ。

 だから今日は1日 ここでぼうっと考えようと思っているのです。」

ふ〜ん、とリュッタは答える。

――――そして、何を言うでもなく 2人は目の前の光景をながめた。








――――のんびりとした雰囲気の中での「人の観察」は面白い。

赤ちゃんを抱きながら立ち話をしている若い奥さん達、

ボールを投げ合ったり大縄をしたりして遊んでいる子供、

荷車を引きながら歩き売りをする男性……


そんな すれ違う1人1人にもドラマがあるのですよ、と、前ミーユは教えてくれた。







…リュッタは こうやって過ごす時間が大好きだった。

何をするでもないけれど…ミーユといるとそれだけで落ちつく。

それは、多分 彼の性格や物腰がそうさせるのだろうけど……







「――――…おや?」

ふいに隣のミーユが何かに気づいた。

それに合わせて リュッタも視線を向ける。





――――――見慣れたピンクの髪。





「あっ、ピアニーだ!  お〜いピアニーっ! こっちこっち!」

ぶんぶんっと両手を振って誘うと、相手も片手を振ってこちらへ歩いてきた。



「こんにちは、ピアニー。」

「こんにちは…。」

そう言う顔は何処か不機嫌そうだ。

「?  ピアニー、どうしたのさ? 何むくれてるのさ。」

「…えっ…?  ……むくれてる様に見える?」

両手を頬に当てて答えるピアニーは、やはり少し元気がない。

「どうかしましたか? 悩みならお聞きしますよ。」

「そうだよ! おいら達に相談しておくれ!」

ミーユの後にリュッタも続く。

ピアニーは少しの間黙って………そして、話す気になったのか 自分も腰を下ろした。

「そんな大した事じゃないんだけど…!

 シェリクさんがね…」

「シェリクが?」





―――――少しの沈黙。








「………“ティアヌ様の誕生日にお花を送ろうと思っているのですが、

  どんなのがいいと思いますか?”   ……って………。」






少しの間 リュッタとミーユは「…」と唖然とする。






「―――…って、シェリクがそう言ったのかい?」

こくん、とピアニーが憮然とした顔でうなずく。

「なるほど……彼らしいですが…それはまた……。」

――――…キツイ。




…なるほど、どうりでむくれている訳である。

リュッタとミーユは唯一彼女の想いを知っていた。

「まあ、悪気はないでしょうがね。」

「でも、わざわざ私に言うなんて…。  っ…!

 嫌味にしか聞こえないー…っっ!!」

わっと顔をおおうピアニーに リュッタがよしよしと頭をなでる。

「うーん、ティアヌはシェリクのあこがれだからねー。

 でも、シェリクはピアニーの事が好きだと思うんだけどな!

 一緒に冒険に行った時とか見てるとそう思うよ。」

その言葉にえっ…!!とピアニーが頬を染める。


「ピアニーも、その思いを本人に打ち明けてはどうです?

 せっかくの気持ちを胸に閉まい込んでしまうのですか?」

ミーユが核心をつく。

ピアニーは最初 どきっという顔をしたが、…沈黙の後、首を振ってしまった。

「いいんです。  …ティアヌさんってほんとに素敵な人だもん。

 私、分かったんです。 …かなわないなぁって…。

 一緒に冒険に行けるだけで幸せです。」

そう言いつつも 何処か寂しそうだ。

3人は黙ってしまった。






――――…広場の人々は また少しの賑わいを見せながら通りすぎていく。






と、ミーユが いい事を思いついた様に右手を口元にやった。

「リュッタ、新しい歌のネタが思いつきましたよ。」

「えっ?? どうしたんだよ、急に?」

驚く2人にふふふ、とミーユは楽しそうに笑う。

「テーマが決まったからには さっそく内容を考えなくてはいけませんね。

 すみませんが、私は先に行かせて頂きます。」

そう言って すっくと立ち上がる。

「―――えっ、ちょっ、ちょっと待ってよミーユ! 一体どんな歌なのさ!?」

呼び止める声にゆっくり振り向くと、彼は人差し指を立てて微笑んだ。

「それは、聞いてからのお楽しみです。」















――――――数日後…。

ピアニーはリュッタに連れられて、朝日が降りそそぐ広場へと向かった。





ミーユの透きとおった歌声が広場に響く。

それは優しいメロディー。

とても優しくて…でも少しせつなげな詩(うた)。

それは 恋の歌だった。



他の人達は よくある恋の歌の1つとしてうっとりと聞き惚れているのだろう。

でも、ピアニーには それが自分への応援歌の様に感じられた。

そして…体の内側から元気が湧いてくる様な感じがした。








美しい旋律が風に乗って空へと響く。




















◎この後、女主人公とシェリクはだんだんいい関係になってきて

    ED後にはああなる、という 私の設定があります(笑)。

    リュッタとミーユは女主人公と仲良しだと思う…。

    相談相手というか雑談相手というか。

    のんびりひなたぼっこしながら話してそうです。

    私、ミーユも大好きです。 ラヴ。


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