Heroine
−ヒロイン−
幼い頃から、私は本に囲まれて育ちました。 現在でも、図書館の司書という恵まれた仕事のおかげで、本の世界に不自由
ですが――いまは、もうひとつ。
「そしたら、オークは私たちに、三つの宝箱を見せたんです」
瞳をキラキラと輝かせて、彼女は語ります。
「そのなかのひとつに、『金の像』が入っているって。私たちは鍵を渡されまし
「かわりに、宝箱はひとつしか開けられない・・・と?」
「そう! そうなんです!!」
声にいちだんと熱が入って、いよいよクライマックスなのでしょう。
そう、彼女は冒険者。
それも・・・ある、とても大きな理由を抱えて、このコロナの街に滞在しているの
「だけど、その洞窟の外にいた動物たちがアドバイスをくれたから、それから
彼女の顔が、ぱぁっと明るくなりました。
話に合わせてコロコロと変わるその表情は、見ていて飽きることがありません。
「それでは、無実の方の罪は晴れたのですね」
「はい! アサトさんも、マスターも、とっても喜んでくれて・・・」
それから彼女は、穏やかに微笑んで言いました。
「本当に・・・良かったです・・・」
冒険者である彼女が、おそらく最もお世話になっているはずの、酒場のマスタ
その人を助けるための依頼・・・彼女にとっては、他のどの依頼よりも、成功さ
「そうですね、クレアさん」
最近、私は思うのです。
「けれど、そのアサトさんという人も、酒場のマスターも、きっと思っているはず
人々のために、こんなにも一生懸命な彼女。それは尊敬に値する――と。
「え!? そっ、そうでしょうか・・・!!」
彼女の顔が、また一瞬、太陽のように輝きました。・・・ですが。
「・・・・・・シャルルさん」
言いながら、彼女はふいに視線をずらしました。
その瞳には、私の後ろの壁に飾られた絵――伝説の竜が映っていました。
冬が終わりをつげ、暦は3月。
ある日、本棚の前で、彼女の姿を見かけました。
(おや・・・)
いつもなら、真っ先に挨拶をしにきてくれるのが、今日は・・・。
「・・・クレアさん?」
「!!」
彼女の肩がビクンと震えて、その手から、持っていたものが落ちました。
「あっ・・・」
二人が、同時に手を伸ばしていました。
「・・・解呪・・・?」
『解呪の法』――あらゆる呪いを解く、様々な方法が記載された本。
「ばか・・・みたいですよね」
本に触れた手を離し、彼女はゆっくりと立ち上がりました。
「私の呪いは、竜に会う以外解く方法はないんだって、ラドゥに言われてるのに
「クレアさん・・・」
「竜が・・・っ」
きっと彼女は――いつもこうして、不安を抱えていたのでしょう。
――だとしたら、私に言えることは。
「クレアさん」うつむいたままの彼女の肩に、私は軽く手をのせました。「あなた
硬直していた身体が、少しだけ動いたのを感じます。
「こう見えても、私はこれまで様々な本を読んできていますからね。わかるので
彼女が顔を上げました。
「思い出して下さい。あなたの今までを。自分のために、そして人々のために、
「・・・・・・幸せ・・・な・・・」
そう。
「あなたは、ハッピーエンドを迎えるべき主人公。私は・・・そう思います」
いま、私の目の前にいる女の子は・・・。
「おや? 私の言ったことが信じられませんか?」
けれど。
「やはり本の世界と一緒にされては、クレアさんも困りますか・・・」
決して、消えない。
「そっ、そんな・・・!? そんなことありません!!」
必死に見上げてくれるその表情が、彼女から消えるはずなどないのです。
彼女はそのために頑張ってきた。
彼女がこの街に来てから。
どんな主人公もかなわない。
クレアさんの紡ぐ物語を、いつも見つめていたからです。 |
〜Fin〜
・・・ってゆうか、シャルルさんってこんな人だったか・・・?(爆死)
ま、それはともかくタイトルイラスト!めちゃ素敵でしょ!! てこなさん、ありがとうございましたぁぁ!!
written by yumi 2000. 8.14
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