TDLで人情を

'99. 5. 9


知っていますか?
TDLに住んでいる、とあるおじさんのお話を・・・。

小さい頃。
あたしは、そのおじさんが怖くて、
おじさんの住んでる建物には、なかなか入れなかった。
そこは、「お化け屋敷」ではないけれど、
あたしには、それと同等の印象があった。
おじさんの持つインパクトは、そのくらいに強かったんだ。

おじさんの家は、ディズニーランドの中の
いわゆる「アドベンチャーランド」と呼ばれる区域に建てられている。
そして、建物には、こんな表札・・・

『PIRATES OF THE CARIBBEAN』

カリブの海賊。
説明は、不要であろう。
インパークしたら、きっと誰もが一度は乗らないと気がすまない、
人気、かつ常識モノな、玄人好みの(・・・)アトラクション。
おじさんは、ここに住んでる。
そして、あたしたちゲストを、独特のやり方で迎え入れるのだ。
その、凄まじい風貌で・・・
しゃがれた、低い声で・・・・・・。

おじさんには、身体が無い。
残されたのは、その小さな頭。厳密にいえば、「頭蓋骨」。
そう。おじさんはすでに、この世のものではない。
むか〜しむかし、カリブ海で暴れまくった、海賊のひとり。
そして、いまは語り部だ。

死者の入り江の骸骨や、
リアルな人形・・・いや、海賊たちの動きの数々は、
幼心にずいぶんと印象深かったものだけれど、
あたしは何より、このおじさんが怖かった。
「生きて帰っては来られない・・・」
おじさんは、そう言い、不敵に笑う。
そして・・・・・・。

会いたくなかった。
だから、入らなかった。
おじさんは意地悪だ。大嫌い。そう、思った。

時を経て、あたしは、いつの間にか
「カリブの海賊」に入れるようになっていた。
海賊の世界を抜けて、あたしたちはボートを降りる。
建物を出るために、短いエスカレーターのスロープを上る、
そのときだ――。

「足もとには、気をつけろよ」

・・・それは、まぎれもない、あの「おじさん」の声だった。

あたしは思った。
もしかして、おじさんはそうして命を落としたのではないか、と。
ニューオーリンズの街で、ヨーホーヨーホー♪♪と飲めや歌えやの
大騒ぎをしたあと、酔って・・・足を滑らせたのではないか、と。
そんな人生を・・・私たちに繰り返させないために、
私たちが、無事に海賊見学を終えられるように、
最後の最後まで見守っていてくれたのかもしれない。

TDLに行ったら、「カリブの海賊」に必ず入る。
おじさんの脅かし上手な語りを聞いて、笑い声に耳をかたむけ、
そして、ボートを降りたら、また耳をすますの・・・。

子供のころには聞こえなかった、おじさんのこころ。

真の人情が、ここにある。

 

(このお話は、ほとんどがノンフィクションです)

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