きらきらと輝くステンドグラスを通して、祝福の光がふりそそぐ。

純白のドレスに身をつつんだ花嫁がいま、夫となる騎士の隣に、ゆっくりと並ぶ。

荘厳にして華やかなパイプオルガンが、その音色を静めると、司祭の前で、ふたりは永遠の愛を誓う。

そして――。


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* 花嫁前夜 *

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夜鳥の鳴き声だけが、小さく響いていた。
見張りの門番に見つかると厄介なので、少し足音をひそめつつ、アンシェは近くの木陰に身を寄せる。

みずいろの瞳に映る豪奢な建物は・・・この街の政務室。
入り口の大きな門。

――彼と、初めて出会った場所。

(あの頃はまだ、おたがい名前も知らなくて・・・)

よみがえる光景に、思わず笑みがこぼれてしまう。
この場で起きた出来事は、決して楽しいものばかりではなかったけれど・・・。
それでも、彼といた場所。思い出深い場所だから。

優しい夜風が髪が揺らすと、アンシェはふっと『今』に戻った。

(・・・そろそろ、帰ろうか)

* * *

行政地区の夜は静かだ。
ましてやこの辺りは、昼間、多くは騎士や冒険者たちの行き来している通り道。
高級酒場の甘い香りも、ここでは無縁。

いつも真面目で、賢くて・・・そして、優しくて。
そんな彼にぴったりの場所なのだなぁと、あらためて、思う。

・・・と。

「アンシェさん!!」

アンシェは、目を見開いた。

「こんなところにいたのですか! 心配しましたよ・・・」

そこはちょうど、訓練所の入口前。
いつも昼間、中から聞こえる勇ましい槍音や掛け声を、想像しようと瞼を閉じたその瞬間――その人の声が聞こえた。

「デューイ」

応える瞳は、何故だかまだ、夢の姿を見ているよう・・・。

「宿に行ってもいらっしゃらなかったので・・・。とりあえず、支度は全て済んだと姉は言っていたのですが・・・こんな夜更けにお出かけになるなんて」

危険ですよ、と強く続けようとしたところで、デューイは止めた。

暗い時刻にふと外出したアンシェの様子を、酒場のマスターなどから聞き、気になって探しに来たのだろう。
『花嫁』の世話役である姉のいる研究所も訪ねたが、そこにも見当たらず・・・。

それでも、たったいま無事に見つかった彼女の姿に、心からの安堵を見せるデューイの・・・その胸へと。

「・・・! アンシェさん・・・」

アンシェは、ゆらりと静かに顔をうずめた。

* * *

「・・・私・・・ね・・・、釣り合わないんじゃないかって思ったの・・・」

訓練所の扉に続く、短い階段に座ったアンシェは、こう呟く。
デューイはハッとして、その横顔を見つめた。

それは、アンシェが今日まで、彼に何度もぶつけてきた問い。
・・・今や騎士団の隊長をもつとめる、偉大なデューイと。
・・・解呪の冒険に失敗し、自らが何者かさえ、わからない自分。
――そんなふたりが、一緒になって良いのか――と。

だが。

「でもね・・・でも・・・」

月明かりに照らされた彼女の表情は、驚くほど、穏やかだった。

「・・・やっぱりダメ。デューイと一緒じゃなきゃダメなの。何度考えても・・・結局そこに辿り着いちゃう」

アンシェは笑った。
エヘヘ、と頬をほのかに紅くしながら。

「だから・・・これからも、ずっと一緒に居させて下さい!」

・・・夜空の下で、出た答え。

守りたい・・・側にいたいと願うほど、どこかへ飛び去ってしまいそうだった彼女のその微笑みに、デューイはただ一言、「良かった」――と。

その瞬間――明日を迎える二人の中で、すべての重圧が溶け消えた。



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花嫁のヴェールに、騎士は優しく手を触れる。

互いの瞳に、互いが映り、陽光はさらにきらめき――。

瞳を閉じた花嫁の、柔らかな唇に、騎士の愛が重なった。


〜Fin〜


自分的に、デューイとはコロナの街で落ち着きたいかなぁ・・・と思って。

written by yumi 2001. 7. 26

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