【A】(前衛短歌時代)「世界観」と「定型感覚」の相乗
★塚本邦雄
日本脱出したし 皇帝ペンギンも皇帝ペンギン飼育係りも
★岡井 隆
飛ぶ雪の碓氷をすぎて昏みゆくいま紛れなき男のこころ
★馬場あき子
しずめかねし瞋りを祀る斎庭あらばゆきて撫でんか獅子のたてがみ
★佐佐木幸綱
たちまち朝たちまちの晴れ一閃の雄心としてとべつばくらめ
【B】(一九八〇年代)「世界観の崩壊」と「定型感覚」
★俵 万智
砂浜に二人で埋めた飛行機の折れた翼を忘れないでね
★加藤治郎
もうゆりの花びんをもとにもどしてるあんな表情を見せたくせに
★穂村 弘
体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ
★荻原裕幸
まだ何もしてゐないのに時代といふ牙が優しくわれ噛み殺す
【C】(一九九〇年代)「世界観の崩壊」と「定型感覚の溶解」
★千葉 聡
コンビニで森高千里の『ファイト』など聴いてくしゃみを三回しちゃった
★成瀬しのぶ
未来都市の座標(0、9、13)にわたしの時間を密かに埋めた
★古谷空色
電球の真空だってそれなりの宇宙と言ひ張るほどの純愛
★ゆきあやね
ドアノブに他者を感じて掌は満開桜の叫びをあげる |