●過剰な比喩A
 いっせいに油が界面活性剤にとけだしてゆくようなさよなら      古野朋子
 逢うたびにヘレン・ケラーに[energy]を教えるごとく抱き締める人  小林真実
 Wright brothersの発音されぬWのやうに君は僕らが見えなくなつた  古谷空色

●過剰な比喩B
 <人工衛星(サテライト)大破>みたいな何となく清潔で静かな壊れ方 原 浩輝
 レイアップもできない僕を見てリョウは虹の所有者みたいに笑う    千葉 聡
 暁(あかとき)のわが腕のなか渦巻ける銀河のごとく眠る猫あり   成瀬しのぶ

●<我><君><僕たち>
 僕たちの痛い粒子を比べればほとむほとむと鳴る島宇宙       成瀬しのぶ
 瑪瑙移植手術に失敗して以来きみの笑顔に皇帝が棲む        ゆきあやね
 新宿に光の海が満ちるように我の身体を抱きしめよ君         西村一人
 降りだした雪ごと君は僕を抱く 口語短歌のようにふるえて      千葉 聡

★文体の背後にあるもの
  ・<私>の価値の高騰
  ・歴史や社会といった<外部>の喪失
  ・イメージのインフレーション
  ・関係性への希求
  ・定型感覚の溶解