1990年 書肆季節社 定価2000円 装釘/政田岑生

折鶴心中/桜桃革命/猫の卵の現象学/虹の力学/時代の花を探しに行かう/

薔薇と鉛筆/王侯の午後/天使魚日記 1988/翼龍を探さう!/琥珀言語/

桃の時代/構造主義のひきだし/液晶感覚/甘藍日記 1989/平凡症候群/

虹と軍艦の記号論/ケチャップ言語/ムーミントロール 1990

表現者に重くのしかかる二十世紀末の状況と街に生きる青年像を追求しつつ

甘藍派を朗らかに宣言する話題の青春歌集。

無根拠な二十代後半の生に真向かう著者の軌跡は

不可思議なしらべを生み出しはじめた。

真摯に生きようとすればなおさら絡みつく倦怠、

精神のかたちを写せば否応なく軽くなっていく言葉。

この自覚の中で自分自身の表現に迫ろうと試みた著者の[第二歌集]。

 

独身(ひとりみ)の鮭弁当のレシートをレイモンド・チャンドラーの栞に
わが指と恋人の指ゆきかへるかたつむり見るだけの夕暮
母となるを拒む胸なり春暁に猫の卵のごとくけぶるは
高橋源一郎を奪つて読みあつてほほゑみふかしいづれは寒し
アルゴンの含有量こそ寂しけれ二月の大気われをつつめり
たはむれに美香と名付けし街路樹はガス工事ゆゑ殺されてゐた
ああいつた神経質な鳴り方はやれやれ恋人からの電話だ
桃よりも梨の歯ざはり愛するを時代は桃にちかき歯ざはり
母か堕胎か決めかねてゐる恋人の火星の雪のやうな顔つき
それはだつて結局つまりうるさいな毎晩ちやんと抱いてるだらう

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