予期せぬ訪問者を求めて
ひぐらしひなつさんのプロデュースで「デジタル・ビスケット」をオープンすることになった。実は、これまでにもたびたびホームページの企画を練りながら、その都度どこか危険なものを感じて避けて来たという経緯がある。ホームページは、あきらかに外に向かってひらかれた場所であるが、ともすれば単なる自己満足を誘発しやすい特性を持っていると感じていたからだ。ましてぼくのように、短歌を核として活動を展開している場合、日記的なナルシシズムにはそれでなくても侵食されやすいわけで、警戒心がつのる一方だった。それがオープンしようという気持ちになったのは、ひとつにはインターネットというメディアの誘惑についに耐えられなくなったことと、もうひとつ、ひぐらしさんの展開しようとするネットワークの発想が、本質的にインタラクティブなものだと信じられたからである。このパティシエールは、自己満足という名の小麦粉を、訪問者に賞味してもらえるビスケットとして焼きあげる方法を実に豊富に抱えているらしいのだ。ぼくはと言えば、ひたすら小麦粉を準備するばかりで、砂糖やバターや卵の配分もよくわかってはいないのだが、せめてパティシエールに迷惑をかけないような良質の小麦粉を提供できるようにはしたいものだ。知人そして予期せぬ訪問者に出会えるのを、ひそかに期待しながら。

予期せぬと言えば、ぼく自身、ひぐらしさんのホームページの予期せぬ訪問者であった。第1回の一首評を書いてくれた秋月祐一さんは、ニフティサーブの短歌フォーラム上に、ぼくの歌集の読者である云々というコメントを書いてくれたのがきっかけで、第2回の佐藤りえさんは、電脳短歌BBSに、エスツー・プロジェクトへのシンパシーを書きこんでくれたのがきっかけで、それぞれ出会うことができた。ネットワーク上=非・歌壇的な場所で、未知の歌人と接触したのは稀有の体験だった。いずれごく普通のケースになるのかも知れないし、この種の出会いの増加が「デジタル・ビスケット」の目的でもあるのだが、インターネットの成長期のエピソードとして、大切に記憶にとどめておきたいと思っている。