卯月鮎の
ライトなノベルで旅をして(ファンタジー寄り)
第1回(2010年4月)
◆しまったコタツをまた出した……
長い冬も終わって、ようやく春が来た! と思ったら、突然雪が降ったり、アイスランドでは火山が噴火したりと気まぐれな自然が牙をむいた4月。噴火の影響で飛行機が飛ばず、帰れない旅行者も続出した。異国の地で足止めを余儀なくされ、さぞかし心細かったろう。
■『ソードアート・オンライン4 フェアリィ・ダンス』
今月の1冊目『ソードアート・オンライン4 フェアリィ・ダンス』(川原礫、電撃文庫)は、旅行ではないがMMORPGの世界から現実へ戻れなくなったプレイヤーたちの物語。この4巻で一旦エピソードに区切りがついた格好なので紹介したい。
――脳と直結するヘッドギアを装着してプレイする次世代型のMMORPG〈ソードアート・オンライン〉。だが、正式サービス初日にゲームデザイナーがシステムを遮断し、1万人のプレイヤーがゲーム世界に取り残される。解放の条件はゲームのクリア。ゲーム中の死は現実世界の死……。
ここまでが1巻の冒頭。このあと主人公の剣士キリトは、レイピア使いの少女アスナとともにゲームクリアを目指す。
もともとWeb小説として発表され、改稿のうえ出版されたという本シリーズ。1〜2巻は中世ファンタジー風のMMORPG〈ソードアート・オンライン〉が舞台だ。
ゲーム内とはいえ、食欲と睡眠欲は存在し、また、脳を刺激するエンジンを利用して味覚も感じられる。狩りをして食材を手に入れ、キッチンに戻って調理スキルで料理する。プレイ感が生活感として描き込まれているのがいい。
路地が入り組んだ猥雑な街アルゲード、白い花崗岩でできた街セルムブルグなど、階層(フロア)によって街並みもさまざまで、観光気分もたっぷり(帰れないのは困るが……)。
3〜4巻の舞台〈アルヴヘイム・オンライン〉は、幻想的な妖精郷。プレイヤーは妖精なので、制限はあるが慣れれば自由に飛行可能。ちなみにこの世界では妖精が9種族存在し、覇権を争っている。そんな設定もユニークだ。
どちらのゲームも、しっかりとしたキャラクター育成システムの枠組が感じられ、MMORPGとしてリアルに存在していても人気が出そう。シビアなゲームに立ち向かうプレイヤーたちの熱気や連帯感も本作には溢れている。
作者は昨年電撃小説大賞の大賞を受賞してデビューした川原礫。受賞作『アクセルワールド』シリーズとこの『ソードアート・オンライン』シリーズ、並行して1年ちょっとで計8冊を上梓した。今後大きくブレイクしそうな予感がする。
■『死想図書館のリヴル・ブランシェ』
2冊目は、やや迷ったが設定の面白さが光る『死想図書館のリヴル・ブランシェ』(折口良乃、電撃文庫)。
――古代メソポタミアの冥界の女神エレシュキガルが作った死想図書館は、「死書」と呼ばれる失われた書物や、空想上の書物の封印場所。だが、意志を持つ書物や魔導書200冊以上がそこから逃げ出した。
高速筆記の特技を持つ読書家の少年・黒間イツキは、ある日突然クトゥルフ神話に登場するティンダロスの猟犬に襲われる。
その時現れたのはメイド服の少女リヴル・ブランシェだった……。
イツキを狙うのはクトゥルフ神話の『ネクロノミコン』。対抗するイツキのメイン武器は北欧神話の神剣レーヴァテイン!
こういう異種対決は神話好きのロマンである。本当はクトゥルフ神話や北欧神話についていろいろ語りたいところだが、長くなるのでまたそのうち。
◆2010年4月の主な新人賞もの
■第16回電撃小説大賞《電撃文庫MAGAZINE賞》『精恋三国志I』
■HJ文庫 第3回ノベルジャパン大賞《奨励賞》『笑わない科学者と時詠みの魔法使い』
■GA文庫大賞《奨励賞》『踊る星降るレネシクル』
■第6回スクウェア・エニックス小説大賞《入選》『要塞都市の錬生術』
新人賞ものでは『精恋三国志I』に興味を惹かれた。若き日の趙雲と精霊の少女のボーイ・ミーツ・ガール。『三国志』に中国の神仙が絡んでひと味新しい。
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